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3年ぶりの東京開催「イタリア映画祭2022」ナンニ・モレッティ新作日本初上映レポ【東京都渋谷区】

Luna Subitowriter editor(東京都渋谷区)

2022年で22回目を迎える「イタリア映画祭」。コロナ禍で見送られていた東京での映画祭が3年ぶりに絶賛開催中!  2001年の初回から毎回訪れている“イタリア映画祭ウォッチャー”としては嬉しい限りです。しかも、2022年は会場が有楽町から 渋谷ユーロスペース内ユーロライブに。ご近所民の筆者は 猫走りでイタリア映画祭へ。

イタリア映画祭 主催:主催:朝日新聞社、イタリア文化会館、チネチッタ
イタリア映画祭 主催:主催:朝日新聞社、イタリア文化会館、チネチッタ

2022年のイタリア映画祭では、日本未公開の最新イタリア映画11本を中心に、計16本が上映されています。一般公開前にいち早く最新のイタリア映画を観られるのはもちろん、ここでしか観られない作品もあるので、イタリア映画愛好家にとっては大変貴重な機会といえます。

イタリア映画祭2022のメインビジュアルも起用されている作品『ある日、ローマの別れ』。チケットが即完売していましたが、5月中旬~にオンライン上映されます
イタリア映画祭2022のメインビジュアルも起用されている作品『ある日、ローマの別れ』。チケットが即完売していましたが、5月中旬~にオンライン上映されます

筆者はイタリア映画祭2日目の4/30に ナンニ・モレッティ監督の最新作『3つの鍵』を観てきました。伊語で「Tre piani」=3つの階という意味の原題通り、舞台はローマの高級住宅街の3階建集合住宅。1階、2階、3階の住人たちが10年間にわたり複雑に交錯する一種の群像劇なのですが、ひとことでいうと、猛烈に“じわる”映画です。

映画では、ありがちなドロドロした人間関係が描かれるわけではないし、お騒がせなトリックスターも、キャラの立った性悪なヒールも、 ふたを開けたら実はサイコパスな人…というのも一切出てきません。登場するのはみな、私たちの周りにもいるかもしれない人たち。それぞれ不穏なものをうっすら抱えているけれど、決してエキセントリックなわけではありません。

ただ、冒頭でいきなり「えっ?!」という事件が起こります。異なる3つの家族が暮らす集合住宅というコミュニティに、不意にどかんと風穴が開けられ、そこから住人たちのエピソードが複雑に交錯しあい、それぞれの関係性や思いが次第に変容していくストーリーは、カンヌでパルムドールを獲った『息子の部屋』(2001年)よりも緻密な印象を受けました。最後にエンドロールを眺めなら、それぞれの登場人物たちの気持ちのおさめ方の行く末を想像して、映画館の暗闇でただただ猛烈に“じわる――そんな映画です。

“家族の泣ける感動ストーリー!”を求める人には決しておすすめしませんが、人との関係性にステレオタイプな答えを求めない人にはおすすめです。

[2021/119分]原題:Tre piani監督:ナンニ・モレッティ Nanni Moretti出演:マルゲリータ・ブイ、リッカルド・スカマルチョ、アルバ・ロルヴァケル
[2021/119分]原題:Tre piani監督:ナンニ・モレッティ Nanni Moretti出演:マルゲリータ・ブイ、リッカルド・スカマルチョ、アルバ・ロルヴァケル

今回の映画祭で『息子の部屋』が再上映されていますが、どちらも監督自身が息子を持つ難しい父親役を名演しており、それを見比べるのもいとをかし、です。余談ながら、やはりローマの集合住宅を舞台にしたルキノ・ヴィスコンティの『家族の肖像』(1974年)を彷彿しました。もちろん、時代もストーリーも世界観もまったく異なりますが、『3つの鍵』はモレッティ版の家族の肖像といえるかもしれません。

映画の上映後、ローマにいるナンニ・モレッティ監督とスクリーン越しにリモート質疑応答があり、これがまたすこぶるおもしろく! 『3つの鍵』でN.モレッティ監督が演じた役柄は厳格な裁判官の父親ですが、リモート中のN.モレッティ監督は、まぁお茶目でチャーミング笑。筆者のようにイタリア語中級レベルの人でも、非常に聴き取りやすい言葉で語ってくれました。

N.モレッティ監督のリモート質疑応答によると、今作はオリジナル作品しか撮ってこなかったN.モレッティが、自分以外の原作を映画化した初めての作品で、イスラエルの作家エシュコル・ネヴォの原作の舞台はテルアビブですが、N.モレッティはローマを舞台に置き換えて、3つの短編を1つの物語に再構成したそう。確かに異なる家族の話が複雑に交錯しあう一筋縄ではいかない物語でしたが、監督のコメントを聞いて、3つの物語が1本の映画として破綻なく結実していることに改めて感動しました。

今作はコロナ禍前に完成しており、配信プラットフォームから先行公開のオファーがあったようですが、N.モレッティ監督はあくまでも映画館での上映にこだわったといいます。監督いわく「僕自身もローマで映画館を経営しているけれど、近年は状況がかなり厳しい。配信サービスは僕も時々利用しているけれど、自分の新作を劇場上映前に配信して“棄てる”なんて、絶対ありえない! 米国アカデミー賞の作品が上映前に配信されたけど、そういう状況に超むかつく!(むかつく=schifo!を何度も連呼)」(筆者意訳)と熱く語っていました。筆者も映画は基本、映画館で観る派なので、モレッティ監督のお気持ちは痛いほどよくわかります(映画館で見逃した時の配信サービスは神ですけど…!)

幸い、2022年9月に『3つの鍵』がヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか順次ロードショーされるそうなので、ぜひ!
ムビチケ https://twitter.com/movieticketjp/status/1522418625776431104

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イタリア映画祭 2022
https://www.asahi.com/italia/2022/
主催:朝日新聞社、イタリア文化会館、チネチッタ主催:朝日新聞社、イタリア文化会館、チネチッタ
特別後援:イタリア共和国大統領
後援:イタリア大使館、イタリア総領事館
お問い合わせ:050-5542-8600(ハローダイヤル)

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writer editor(東京都渋谷区)

奥渋在住20余年。旅、アート、インテリア、ウエルネス、映画、猫など多様なメディアに携わる文筆家。

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