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新型コロナの抗原検査キットが正式に市販へ 現在市販されている検査キットは未承認

倉原優呼吸器内科医
(写真:WavebreakMedia/イメージマート)

抗原検査キットは海外では広く普及

2021年9月10日の規制改革推進会議の医療・介護ワーキング・グループ第1回会議(非公開開催)において、今後、新型コロナの抗原検査キットを薬局などで購入できるようにすることで意見が一致しました。

抗原検査キットはPCR検査よりやや感度が低いとされていますが、15~30分程度で結果が判明する点や家庭で実施できる点が魅力です。

すでに海外では薬局などで抗原検査キットが購入できたり無料配布されたりしているため、日本よりも広く普及しています。

現在国内で市販されている検査キットは未承認

実は現在、国内でもドラッグストアやインターネットで新型コロナの抗原検査や抗体検査が市販されています。しかし、パッケージを見てもらえれば分かるように「研究用」と書かれています。新型コロナの「診断用」ではない上、未承認の製品であることに注意が必要です。価格は、1回分が1000円以下のものから5000円近くまでさまざまです。

厚労省からの通達(1)では「承認を受けたものではなく性能等が確認されたものではないこと、また、新型コロナウイルス感染症の罹患の有無を調べるために必要な検査の種類や検査結果の取扱いは各検査の特性・性能等に基づき医学的に判断する必要があることから、消費者の自己判断により、新型コロナウイルス感染症の罹患の有無を調べる目的で使用すべきでないこと」と明記されています(図1)。実際、検査キットの優良性を誤認させたため、行政処分になった事例もあります。

図1. 消費者庁の注意喚起(参考資料2より)
図1. 消費者庁の注意喚起(参考資料2より)

薬事承認の抗原検査キットが市販されることの課題と期待

現在、薬事承認を受けている新型コロナ抗原検査キットのうち、医療機器を要さない抗原検査法(簡易キット)は14社16製品あります。その他、検査結果の判読に医療機器が必要となったり、目視判定をおこなったりする抗原検査法(定性)もいくつかあります。これらは、現時点でいずれもドラッグストアやインターネットなどでは市販されていません。ただ、自治体などから配られるものは概ね承認済のもののはずです。

上述したように、薬事承認を受けている抗原検査キットのうち、使いやすい簡易キットが薬局などで市販されるようになる見通しです。

抗原検査キットを使った場合、「抗原検査陰性=感染していない」を正しく判定できる感度は約40~90%と製品ごとにばらつきがありますが、「抗原検査陽性=感染している」を正しく判定できる特異度はほぼ100%です。

パンデミック初期から、国際的にPCR検査や抗原検査によって「陰性証明」がおこなわれていますが、感度の問題から「陰性証明」は「非感染証明」とイコールになるわけではありません。「感度の問題」というのは、症状がない段階で感染させてしまうという、新型コロナウイルスの特性によるところが大きいです。

今後、日本においても、検査陰性をもって行動制限を緩和する方向に舵が切られるようですが、市販される抗原検査キットを使用する場合、検体採取法や結果の解釈について十分に啓蒙する必要があります。

神奈川県は先陣を切って薬事承認済の抗原キットの活用を始めています。「抗原検査キット配送事業」において、陽性判定が出た人の83%が医療機関を受診し、全ての人が通勤・通学・外出を控えたという結果が出ています(図2)。

図2. 神奈川県の「抗原検査キット配送事業」(参考資料3より)
図2. 神奈川県の「抗原検査キット配送事業」(参考資料3より)

また、感染者数が多い集団では感度の低い検査をおこなったとしても新型コロナのオーバーシュートを防ぐのに役立つかもしれないという指摘もあります(4)。そして、定期的に繰り返すほうが感度が担保されます(5,6)。ただ、現実的に頻回に検査をおこなえるのかどうか、という物理的な問題がハードルになります。

そのため、市販される抗原検査キットをどのように使用していくのか、1回の陰性確認のみでよいのか、など議論を重ねる必要があります。

適切な手法で検査されなければ、結果の解釈に疑念が生じます。抗原検査キットの場合、検体がネバネバの唾液だと検査精度が犠牲になります。また、鼻に綿棒を入れる製品では、正確な検査をおこなうために、鼻の奥まで綿棒を突っ込まないといけないものや、左右に分けて5回ずつ回転させなければならないものもあります。

抗原検査キットが陰性であるため行動制限が緩和されるというのは、集団ベースの戦略論としては正しいかもしれませんが、無症状の人にスクリーニング的に抗原検査をおこなって、「陰性だからあなたは大丈夫」という解釈を広めるのに慎重な意見も聞かれます。私も、「集団における戦略」と「個別の結果解釈」を分けて考える必要があると思います。

とはいえ、何かしらのお墨付きがなければ経済を動かせないのは事実です。「抗原検査が陰性だから私はもう大丈夫」と過信して行動するのではなく、「100%安心できるわけではないので、引き続き感染予防に努めよう」程度に理解しておくほうがよいのかもしれません。

(参考)

(1) 新型コロナウイルス感染症の研究用抗原検査キットに係る留意事項について(周知依頼)(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000745521.pdf

(2) 新型コロナウイルスの研究用抗原検査キット及び抗体検査キット使用についての注意(消費者庁)(URL:https://www.caa.go.jp/notice/entry/023650/

(3) 令和3年度第4回神奈川県感染症対策協議会(神奈川県ウェブサイト)(URL:https://www.pref.kanagawa.jp/documents/26356/0813_shiryou-shin.pdf

(4) Kennedy-Shaffer L, et al. Lancet Microbe. 2021 May;2(5):e219-e224.

(5) Larremore DB, et al. Sci Adv. 2021 Jan 1;7(1):eabd5393.

(6) Smith RL, et al. J Infect Dis. 2021 Jun 30;jiab337.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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