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そのニット、北朝鮮の女囚たちが作ったモノでは?

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
イメージ写真(写真:アフロ)

世界中の至る所にあふれる中国製品だが、すべてが中国で製造されているとは限らない。別の国にアウトソーシングしている場合もしばしばある。そのひとつが北朝鮮だ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、朝鮮新興貿易会社の羅先(ラソン)支社は最近、中国の業者から大量の手工業品の注文を取り付けた。同社は先月26日、中国から0.1~3mmサイズのかぎ針、様々な色の毛糸など、ニット製品の制作に必要な材料を輸入したが、その行き先は教化所(刑務所)、そして管理所(政治犯収容所)だった。

(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態

そもそもの契約内容が、北朝鮮の拘禁施設の受刑者が生産するというものだったというのが、情報筋の説明だ。これは決して新しい話ではない。

デイリーNKの調査では、北朝鮮が中国から材料を輸入し、国内で生産を行って、中国に輸出する手工業品のうち、3割が教化所や管理所での強制労働で生産されている。その現場を担っているのは主に女性収容者たちだ。

このような刑務作業によって生産された製品について、欧米の主要国は、強制労働によって生産されたものだとして輸入を禁じている。日本の刑務所での作業で生産された製品もこのような理由で輸出が制限されている。

中国企業が北朝鮮の受刑者に生産させるのは、楽に儲けられるからだ。

一般の労働者なら、賃金の支払いはもちろん、福利厚生も必要だ。中国なら、労働者がより賃金の高い企業に転職しようとするため、引き止めるのも一苦労だ。一方で、北朝鮮の教化所、管理所なら人員管理も生産工程の管理、監督も非常に容易だ。そもそも人件費はタダで、「労働者」に転職される心配もない。北朝鮮側も、手っ取り早い外貨稼ぎができてしまう。

(参考記事:北朝鮮企業が少女たちの「やわらかい皮膚」に目をつけた理由

そのままでは海外に輸出できないが、完成品を一度中国に戻して、中国製のラベルを貼って「産地偽装」すれば、何の問題もなく輸出できてしまう。

この手法は以前から横行していた。

品質管理も非常に厳しく、貿易会社は各教化所、管理所に「ひとつの不良品も出すな」と注文している。不良品を出した場合のペナルティについて情報筋は言及していないが、看守による暴言、暴力などにつながる可能性が考えられる。

「新興貿易会社が受けたニット製品の注文が非常に多く、外貨収入も多くなるだろう。今後、教化所や管理所での加工製品の生産と輸出がさらに増えると思われる」(情報筋)

現在、全世界的に児童労働、スウェットファクトリー(労働環境の悪い工場、強制労働)に対する視線が厳しくなっている。しかし、抜け道はいくらでもある。あなたの着ている中国製のニット製品が、実は北朝鮮の強制労働によって作られたものである可能性は充分あるのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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