プレティーンの感覚を描いた稀有なアニメ『雨を告げる漂流団地』は必見だ
9.16(金) Netflix全世界独占配信&日本全国ロードショー
(c)コロリド・ツインエンジンパートナーズ
日本のアニメ監督には中高生、いわゆるティーンエイジャー(13歳〜19歳)の心がわかる人は大勢いる。青春時代の葛藤や悩み、甘酸っぱい恋愛模様を描いた作品は長年、日本のアニメ企画の主軸であり続けている。
幼児の心を抱き続けている人も、少なからずいる。多くの大人が成長とともに「卒業」してしまう、異形の怪獣や宇宙人の大暴れに興奮する気持ちを持ったままで立派な大人に成長し、その感覚を活かした創作活動を繰り広げる作り手も少なくない。
しかしながら、10歳〜12歳の、プレティーンの心がわかる監督はあまりいない。いや、もしかしたらいるのかもしれないが、そうした感覚の反映された企画が、そのまま形になることは極めて少ない(いささか強引かもしれないが、映画『スタンド・バイ・ミー』が世代を超えて愛されているなど、需要はありそうなのに)。
スタジオコロリドを拠点に作品を発表している石田祐康監督は、そうした資質を持ち、また、それを商業ベースで多くの人の目に届く形で作品として発表できる、数少ない例外的なアニメーション監督のひとりだ。
これまでに商業で手掛けた劇場アニメ2作、『陽なたのアオシグレ』『ペンギン・ハイウェイ』のどちらも、躍動感のあるアニメーションの、「動き」の快楽に乗せて、幼くまっすぐな感情がほとばしるような勢いで描き出されている。
現在Netflixで独占配信、並びに劇場公開中の最新作『雨を告げる漂流団地』は、石田監督のそんな美点とビジュアルの構築力の高さが、現時点でのベストな形で発揮された作品だ。
ファンは当然のこと、これまでの石田監督の諸作に今ひとつ乗り切れなかったような人にも、おすすめしたい。正直にいえば、私もそんなひとりだからだ。あまりにもピュアに「男の子」の憧れや好意をストレートに押し出した作風に、どちらかといえば気恥ずかしさを感じてしまっていた。今作においては、その本質的な部分は変えずに、描き方に抑制を利かせている感がある。
男女の身体能力の差が大きく現れない、恋愛も意識しない(けれども、微かに異性を意識し始める兆しはあり、その個人差も大きい)時期だからこそ描ける情緒が、丁寧にすくい上げられている。そして、その心理の機微が、登場人物のあいだの関係性の描写や、ストーリー展開にもしっかりと結びついている。
「見渡す限りまわりに何も見当たらない大海原を漂流する団地」という、企画の根幹に据えられ、タイトルにも銘打たれているイメージからの、ビジュアルのアイデアの広がりも魅力的だ。ただ新規性があるだけでなく、高低差を始め、アニメーションらしい「動き」の魅力を十分に発揮するための舞台設定としても秀逸な設定。そして実際に、舞台を存分に活かした演出を、素晴らしい作画で堪能することができる。
役者陣も芝居巧者揃いだ。主演の田村睦心、瀬戸麻沙美を筆頭に、近年のTV・劇場アニメに関心のある人であれば、主要なキャラクターを演じている作品を確実に一作程度は目にしたことがあるはずの有名キャストが並ぶ。どの声も個性的だ。しかしながら今作を見ているあいだ、役者本人はもちろん、他作品で演じた何がしかの役が思い浮かぶ人は、あまりいないのではないか。実に自然にキャラクターの外見と声がなじみ、作品世界に没入させてくれる。
強いて問題点を挙げるのであれば、「男の子」の視点……『ペンギン・ハイウェイ』で、年上のヒロインの胸に小学生男子の主人公が尋常ならざる関心を示すのと同型のものが、(先述したとおり、かなり弱められてはいるものの)やはり今作にも残っている点だ。そうした「男の子」目線の描写に引っかかる人がいることは想像に難くないし、また、その心情も理屈もわかる。
しかしながら、その一点で切り捨ててしまうには惜しい。観るべき価値のある作品として、強くおすすめしたい。