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みんなでゆすってヤシノミ落とすぞ~! 明るく楽しい「落選運動」で、選択的夫婦別姓&同性婚の実現を

大塚玲子ライター
みんなでヤシの木をゆすって、楽しそうです(画像は筆者作成)

 へ、落選運動? なんかちょっとネガティブ…? 「ヤシノミ作戦」を初めて聞いたときの、筆者の正直な印象です。でもホームページをのぞいてみると、どうも想像と違ったのでした。にこにこ笑顔の人々がみんなでヤシの木を揺らし、ぼかんぼかんヤシの実を落っことしています。楽しそうです。

 筆者はライター業の傍ら「定形外かぞく」という活動を続けています。これは「いろんな形の家族をなんでもアリの世の中にしよう」というもの。7年前から活動を共にする仲間のひとり、サイボウズの渡辺清美さんから、「ヤシノミ作戦」を応援するイベントの提案を受け、10月23日夜、急きょオンラインでトークイベントを行うことになりました。

 お話ししてくれたのは、「ヤシノミ作戦」を遂行する青野慶久さん(サイボウズ株式会社代表取締役社長)と、Rainbow Tokyo北区代表の時枝 穂(ときえだ みのり)さんのお2人。今回、当イベントでの青野さんのお話を紹介させてもらいます。「ヤシノミ作戦」はどんな経緯で誕生し、何をめざすものなのでしょうか?

  • インタビュー形式で構成してお届けします

* * *

――まず、自己紹介からお願いします。

 みなさんこんばんは、青野慶久です。今日は定形外かぞくということで、いろんな家族の形があっていいよね、と。でもそれに制度が追い付いていないから、なんとか動かしていこうぜ、というソーシャルアクションに取り組んできた背景や狙いとか、どんなことを考えながらやってきた、みたいな裏話をですね、ちょっとお話ししたいと思います。

 まずは自己紹介で、青野慶久といいます。が、これは本名ではありません。結婚するときに、まあ仕方なく私が改姓することになりまして、戸籍上の氏名、いわゆる本名は、西端慶久といいます。ふだんはサイボウズの社長をしてます。

――姓を変えることになり、めんどうなことがたくさんあったのでは?

 ありました。名前を変えたとき、手続きは煩雑だし、その後も使い分けが大変なんですよね。結局、青野慶久ってふだん名乗ってますけど、どこでも使えるわけじゃないので。大事なところで使えないので、使い分けしなといけなくて、イライラして、もう「この制度がおかしいぞ」と思っておりました。

 そうして姓を変えたのが2001年で、そこから5年待てども10年待てども、全然話が進まない。2015年に最高裁で判決が出まして、「この制度おかしいやろ」ということで違憲判決が出ると思ったんですけれど、これが棄却されてしまいまして、ちょっと私的にはもう、我慢の限界になった(笑)。「これちょっと誰が止めとんねん?」ということでいろいろ調べて、そのあと国を提訴したりですね、今回はこの衆院選を前に「ヤシノミ作戦」というものを開始しています。

――20年越しの思いがあるのですね。まず、何から始めたんでしょうか?

 最初に「誰が止めとんねん?」と思ったときに、要はゴールですね、「最終的に何が達成されたら僕は満足するんだろう?」ということを考えた。それは何かというと、この選択的夫婦別姓については、やっぱり「立法すること」ですね。結婚して姓を変えてもいいし、変えなくてもいい、というふうに法律上で定めてくれ、と。本名を無理やり変えさせるな、そういう法律に変えてくれ、ということなので、ターゲットは、立法する権利を持っている「国会議員」なわけですね。

 でも国会議員と話をしていましたら、どうもこれ、進めようとする人がいないわけですよ。うーん困ったなぁ……と思っているときに、2015年の裁判の原告をされた、加山恵美さんからメッセージが届きまして。「岡山県の弁護士の作花(さっか)さんが、次の別姓訴訟をやろうと言っていて、僕を探しておられる」というのですね。これは、キタ!と。これでもう一回裁判をやって、次はひっくり返したるわ、ということで、この「訴訟」という選択肢を取ろうと思ったわけです。

――そこで初めて「訴訟」を考えたと。

 そうです。作花さんは、この2015年には、離婚してから再婚できるまでの期間=再婚禁止期間というのが男女不平等であることを訴えて、なんと違憲判決を取っています。最高裁での違憲判決って、戦後10個くらいしかないらしいんですけれど、そのうちの1つを取ったという、敏腕弁護士の作花さんにお会いして。

 それで、作花さんが考えた新しい切り口――「日本人同士が結婚すると必ず夫婦同姓にしないといけないのに、外国人と結婚した日本人はなんと夫婦同姓と夫婦別姓と選べるようになっている。これは憲法で保障している平等じゃないよね」といったこと――で、訴えようということになって。「おお、これいいじゃん」と。これで勝ったら、「違憲立法審査権」というのを一応、司法は持っていますから、「違憲だったら立法し直せ」ということを言えるんですね。そうすると国会議員が動かざるを得ない。「国会議員を(直接)動かさなくても司法から動かすことができる。訴訟、いいねえ!」ということで(笑)、人生初の「訴訟」というのをやってみることにしました。

 で、訴訟で何が起きたかというと、東京地裁、高裁、最高裁と、3連敗です。理由もよくわからない、僕の中ではもう、理不尽に棄却された。というと、何も得られなかったように思われるかもしれませんけれど、実は全然違うものがいっぱい得られたわけです。たとえば、メディアがばんばん取り上げてくれて、私が裁判を起こしたということを、テレビのキー局が全部、ニュースにしてくれました。しかも好意的にね。新聞も日経、朝日、毎日から地方紙も含めて、もうウワッと。もう全て、賛成意見。注目されずにきた問題が、一気にメジャーの問題として出てきた、ということになるわけです。

 さらにですね、メディアがワイワイ言ってくれたおかげで議論が進みました。ネットで目立つと、反対意見がうわぁっと出てきて、それを僕は丁寧に拾って、「この選択的夫婦別姓への反論に反論しまーす!」みたいな記事を、何度も何度も書きました。

青野さんの「反論への反論」記事。話題を集め「はてなブックマーク」で注目のトップ記事になった(画像提供:青野さん)
青野さんの「反論への反論」記事。話題を集め「はてなブックマーク」で注目のトップ記事になった(画像提供:青野さん)

――当時、SNSでもすごく話題になっていましたね。

 そうやってネットで反対の人の意見を拾って、「いやいや、それは心配しなくても大丈夫です」みたいなことを、何度も何度も、いろんな角度で、もらって返し、もらって返し、しているうちに、「これは何が問題点で、どういう裏があって、どういう解決策や、反対意見があって、それは根拠があるのかないのか」といったことまで、相当網羅的に、議論が進んだわけです。

 そんな感じで、裁判では勝つことができなかったんですけれど、メディアによって認知が広がり、議論が進んだわけですね。そのおかげで何が起きたかというと、国会議員が動き出しました。「あ、この問題、よく学んでおかないといけないな」と彼らも理解してですね、「賛成で進めたらいいじゃん」ということで動き出しました。で、国会で問題提起されたり、議員向けの勉強会をしたりするようになって、ついには野党が選挙の公約に盛り込み始めて、争点になりました。

2年前の党首討論でも同じことが起きていました
2年前の党首討論でも同じことが起きていました写真:Natsuki Sakai/アフロ

 これが象徴的な絵なんですけれど。これは2年前の参議院選挙のとき、記者クラブで行われた党首討論のときです。7人の党首がいて、「選択的夫婦別姓に賛成の人は、手を挙げてください」と言ったら、(安倍さんが)1人だけ手を挙げなかったんですね。これ実は今回の衆院選で、一週間くらい前にも同じことが起きたんですね。これによって「誰が止めとんのよ?」ということがはっきりしました。

 これは、自民党にとっても、非常に都合が悪いことになりますね。それでついに、自民党のなかでも勉強会が開かれるようになってきました。そこで議論の過程を説明すると、「おお、そういうの全然いいじゃん、進めたらいいじゃない」ということで、賛成議員が増えてきました。

――いい流れができてきたのですね。

 ええ。それは良かったんですけれど、賛成派が活性化してくると、今度は反対する一部の議員が、これを食い止めよう、食い止めようとして、活動するようになってきました。で、ある意味「誰が反対しているのか」というのが、わかってきたわけです。あ、なるほど! 自民党のなかでも賛成議員はいっぱいいるけど、この人たちが無理やり止めてるんだな、と。今も、国会で多数決取ったら勝てるわけですよ。だって野党の人はみんな賛成ですからね。自民党の中でも賛成の人は多い。この「一部」の自民党の国会議員が足引っ張っとるのや、ということが明確になったんです。

 さて、どうするかな、と。そうやな…、じゃあ、落とす?と(笑)。もうすぐ衆議院選挙があるし、この「落とすプロジェクト」を考えまして。どんなのがいいかな、「ヤシの実落とす」ってどうやろ、と。みんなでゆすって、ヤシの実を落とす、これはいいぞと。このとき一緒に進めたかったのが、同性婚ですね。結局、反対してる人は、大体(選択的夫婦別姓と同性婚)両方とも反対しているんですね。多様な結婚というのを認めたくない、今までの結婚しか結婚と認めてはダメ、というわけですが、「いやいや違う、困ってる人がいるねんから、多様な結婚、選択肢を用意してよと。これはあなたたちの役割でしょう。それをしないんやったらもう、落ちてください」と。それを「ヤシノミ作戦」と呼んだわけです。

――「ヤシノミ作戦」のサイトを見ましたが、ヤシノミを落とすアニメなど、楽しそうですね。

 また、このドメイン(yashino.me)、面白いでしょ。ヤシのme(ミー)です。こちらに載せているのは「ヤシノミ候補リスト」といいまして、選択的夫婦別姓と同性婚に反対してる議員、北海道一区から沖縄四区、比例まで、全部で238人。ホントに手間かけて、ぼく調べてますよ、がんばってここに載せると。で、これをできるだけ多くの人に見ていただいて、「この人たち以外の人に入れてね」ということで、この「ヤシノミ作戦」を展開しています。

238名のうち188名が自民党の候補者。自民党以外の候補者も50名いる(画像提供:青野さん)
238名のうち188名が自民党の候補者。自民党以外の候補者も50名いる(画像提供:青野さん)

 おととい、記者会見も開きました。ゲストの方にもお越しいただきまして、たくさんメディアでも取り上げられました。その記者会見のとき、「岸田総理への手紙を書いてください」と言われたので、これをnoteにアップしたところ、こちらもいい感じでバズってます。よろしければ、読んでみてください。(リンク

10月21日、賛同人の小島慶子さんらとともに記者会見を開いた(画像提供:青野さん)
10月21日、賛同人の小島慶子さんらとともに記者会見を開いた(画像提供:青野さん)

――ちなみに「落選運動」というのは、選挙運動のような規制はないんですか?

 「落選運動」というのは「選挙運動とは違う」ということになっています。「選挙運動」というのは「誰かを当選させる活動」なんですけれど、「落選運動」は「誰かを落選させる活動」になります。で、こっちは実は、法律的には結構制限がゆるくて、いつでもいろんな手段を使ってやっていいことになっているわけです。ただし、団体じゃなくて個人としてすることになっているんですね。団体だと、いろいろまた規制の対象になってくるということで。

――では最後に、まとめをお願いします。

 まずひとつ、ぼくのやりたいソーシャルアクションについて。こういうのって、やっぱり深刻になりがちですよね。本人はすごく困っているから「なんとかしてください~!」と眉間に皺を寄せて、やりがちなんですけれど、どっちかっていうとね、いろんな人に参加してもらおうと思ったら、やっぱり「明るく楽しく」ね。「ヤシノミ、みんなでゆするぞぅ~」みたいな、こういうノリがいいかな、というのを心がけております。

 その一方で、じゃあ「何をゴールにするんだ? そのためには、どこがボトルネックになってる? 現実的にそれはどこが落としどころになりそうか? どういう矛盾があるのか? どうすれば改善する?」みたいなことを考えて、丁寧に進めていく、こういう側面も大事かと思います。理想論だけでは、やっぱりなかなか物事進まないんで、現実的な落としどころとか、その根拠とかを論理的に提示し続けること。

 まだまだ日本はね、解決しない問題、いっぱいあります。この選択的夫婦別姓だけじゃない、同性婚の話もありますし、労働なんかでも、なかなか働く人を守らない。セクハラのこともそうですよ。なので是非ね、こういうものを皆さんで、自分ごとにしてソーシャルアクションしていただいて、いろんな人を巻き込んで、もっともっと住みやすい社会をつくっていただければと思います。ご清聴、ありがとうございました!

・・・

 以上、「ヤシノミ作戦」について青野慶久さんのお話でした。

 イベントではこの後、Rainbow Tokyo北区代表の時枝 穂さんから、全国の自治体で導入が進むパートナーシップ制度のことや、国会議員への要望活動、同性婚訴訟、Marriage For All Japanの動き等についてお話ししてもらい、さらにその後は、青野さんと時枝さんで、お話ししてもらったのでした。

 選択的夫婦別姓と同性婚は、一見異なるテーマですが、問題の本質は同じです。家族のかたちは、それぞれの人が望む形でつくればよいはずです。法的な家族の間で姓が異なっても、同性同士が結婚しても、本人たちがそれを望むのなら誰も困ることはなく、幸せになる人が増えるだけです。それを可能にするためには、これまでの「ふつう」だけを基準にした制度を、変えていく必要があります。

 筆者が定形外かぞくを始めたのも、同様の思いからです。家族や生活スタイルは、いろんな形があっていい。ひとり親家庭、再婚家庭、LGBTの家族、養子縁組や里子を迎えた家族、生殖補助医療でできた家族もあれば、おひとりさまで生きる人もいるし、児童福祉施設で育つ人たちもいる。その他もろもろ、どんな形も、本人たちがそれを望んでいるのであればそれでよく、ほかの人が「その形はいい」とか「ダメ」とかジャッジするものではないと思うのです。

 それぞれの人が望むかたちで、他人とつながったりつながらなかったり、家族をつくったりつくらなかったりできる、そんな社会になれるよう、制度がととのっていくことを、願っています。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『PTAでもPTAでなくてもいいんだけど、保護者と学校がこれから何をしたらいいか考えた』『ルポ 定形外家族』『さよなら、理不尽PTA!』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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