レッズ監督「大宮はバイエルンのようだ」発言の真意とは?
目下、5勝1分けの勝ち点16でリーグ2位につける浦和レッズ。
さすがにJ1新記録となる開幕6連勝中の横浜F・マリノスに首位の座を譲っているものの、ここまでは文句なしの成績。第6節の湘南ベルマーレ戦を2-0で勝利した後のペトロヴィッチ監督の表情には、余裕の笑みが見え隠れした。
そして、ご機嫌のあまり試合後の記者会見ではいつになく饒舌となり、小規模予算の湘南の健闘を称えたうえで、こんな話をしてくれた。
「ヨーロッパのリーグでは2~3のクラブが良い選手を集めるが、日本ではどのクラブも選手の質が拮抗している。ただ、大宮だけはバイエルンのようだ。
日本ではそういったお金のことを話すのはタブー視されているのかもしれないが、確か大宮は韓国人監督の時代にブラジル人選手を6人も獲得したこともあるはずだ(笑)」
ペトロヴィッチ監督の記憶がどこまで定かなのかは分からないが、確かにチャン・ウェリョンが監督だった2009年~2010年4月にはデニス・マルケス、ドゥドゥ、ラファエルという質の高いブラジル人3選手がプレーしていた。
加えて言えば、元クロアチア代表のマト、パク・ウォンジェ、ソ・ヨンドクという韓国人選手が所属するなど、派手な補強策をとったイメージが残ることは否めない。
ただ、選手補強費について言えば、浦和も負けてはいない。
たとえば2009年度のデータを見ると、浦和は64億3200万円の営業収入に対して、使った人件費(ここでは監督やチームスタッフも含む)は24億6400万円。この2つの数字はいずれもリーグトップで、人件費の占める割合は38パーセントになる。
一方、ペトロヴィッチが指摘した同年の大宮は、35億5300万円の営業収入に対して人件費は19億5400万円。営業収入はJ1の中で7位、使った人件費はリーグで4位。収入に対する人件費の割合は、同年のガンバ大阪と同じ54パーセントにのぼる。
また、最新の2011年度のデータでは、大宮の人件費は13億1400万円まで圧縮されはしているが、それでも収入に対する割合では47パーセントと、依然として高いものがある。
逆に、浦和は53億8200万円の営業収入に対して、人件費は18億8600万円と急激に圧縮されている。割合で言えば、35パーセントという健全ぶり。
とはいえ、それでも大宮よりは上回る。
要するに、実際の数字がどうだということではなく、前述のペトロヴィッチ発言の真意は、今週末に控えた大宮との埼玉ダービーを前に「浦和=金持ちクラブ」、「大宮=スモールクラブ」という一般的に浸透したイメージを変え、大宮にプレッシャーを与えることにあったのではないだろうか。
であるならば、ダービーを控える今週は、もっとメディアで浦和と大宮の「財布」の話題で盛り上がるべきである。
「浦和は人件費が低下して地味なイメージになっている」、「収入はトップなのに選手補強に使っているお金をケチっているから最近はタイトルが獲れない」、とか。
あるいは、「大宮は外国人の補強にお金を使いすぎている」、「NTTからのスポンサー料が消えたらこのクラブはどうなるのか?」、とか。
少なくとも、今回のダービーは2位(浦和)対3位(大宮)の上位対決。
大宮の健闘のおかげで、これだけのバックグラウンドで両者が対決することははじめてのことなのだ。
とりわけ大宮は昨年からの無敗記録を17試合に更新し、このダービーに勝てば鹿島を抜いて新記録を打ち立てることができる。
万年残留争いのクラブが、ついに宿敵浦和を破ってJリーグの歴史にその名を刻むという、またとない大きなチャンスが到来したのである。
ペトロヴィッチ監督に「日本ではタブー視されている」と思われているのが悲しいところだが、大手メディアは行き過ぎた自主規制を排除した報道でもっとダービーを煽るべきだろう。
そうでないと、せっかくのビッグマッチも形無しになりかねない。
個人的には、もしかしたらペトロヴィッチ監督は大宮に敗れた時の言い訳を今から描いているのかもしれないと感じている次第だ。
少しうがった見方をすれば、湘南戦後の発言は、そのための伏線とも言えなくもない。
「大宮にはスロベニア代表選手が2人もいる。我々には、日本代表選手もいない。リーグトップの営業収入があるにもかかわらずね」
果たして、試合後の会見でペトロヴィッチ監督の口からこんな台詞を聞くことになるのだろうか。
ピッチ上の戦いだけでなく、そういったダービーならではの要素も楽しみたい。