伊藤美誠の「逆チキータ」を徹底解説! 「ミユータ」から「ストロベリー」まで
東京五輪2020卓球で、混合ダブルス(金)、女子団体(銀)、女子シングルス(銅)と3つのメダルを獲得し、毎日のようにテレビでその試合が放送された伊藤美誠。「美誠パンチ」などキャッチーな名前の技をもつ伊藤だが、その中でもとりわけ視聴者の好奇心を刺激する言葉が「逆チキータ」だろう。「チキータ」がすでにわからないのに、その「逆」だというのだから視聴者の知的好奇心と、それを知ることができないストレスはもはや極限に達しているに違いない。
「チキータ」は、バックハンドでボールに横回転(回転軸が鉛直方向)をかける打法で、軌道が曲がることからサッカーの「バナナシュート」と同じ発想でアメリカのバナナのブランド名からつけられた。これに対して、同じくバックハンドで「チキータ」とは反対方向の横回転をかけるのが「逆チキータ」だ。近年ではチキータは横回転ではなく前進回転に改良されたものが多く使われるが、元祖は横回転であるため、それに対して逆の回転だ。
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「逆チキータ」の威力は、基本的には元祖の「チキータ」と同じく、相手に回転軸の傾きを誤認させることにある。上の3枚の写真を見ると、打球の瞬間は手首を使ってラケットを左下に振り下ろしているように見えるが、肩の関節を使って左上に引き上げているようにも見える。その中間あるいは合成の可能性もある。要するに、ラケットの動きを急激に変えながら打つことによって、ボールに加わる回転の方向、とりわけ上下方向の成分に変化をつけているのだ。これを誤認させてミスを誘ったり、判断を迷わせて甘いボールを誘ったりするのが「逆チキータ」だ。
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伊藤の「逆チキータ」は、特にラケットを引き上げるときに打つ「横上回転」が、相手には振り下げるときに打つ「横下回転」に見えるため、オーバーミスを誘発する。東京五輪の混合ダブルス決勝でも、4回入れたうち、許キンに2回、劉詩ブンに1回オーバーミスさせており、まともに返されたのは1回だけだった(世界最高峰の彼らにミスをさせるというのは途方もないことである)。逆に、伊藤の「チキータ」はネットミスを誘うことが特長であるため、オーバーミスを誘う「逆チキータ」とのコンビネーションが余計に相手を混乱に陥れるという見事なシステムとなっている。
「逆チキータ」の打ち方は「チキータ」よりはるか前から行っている選手がいたが、広がるきっかけを作ったのは加藤美優(日本ペイントマレッツ)だろう。小学生時代に独自に”発明”して効果的に使うようになり、自らの名前と、当時流行り出した「チキータ」をもじって「ミユータ」と命名して脚光を浴びた。その後、他の選手たちも使うようになり「逆チキータ」と言われるようになった。こうした経緯があるため、今も加藤が使う場合だけ敬意を表して「ミユータ」と呼ばれることが多い。
なお、英語圏では「逆チキータ」は、信じ難いことだが果物つながりで「ストロベリー」で定着している。なんとも遊び心が満載である。そのうち「キウイ」「マンゴー」などという新打法が出てきたら楽しい。卓球はまだまだ進化するはずなのだから。