安倍政権とメディア幹部の「癒着」に怒り、記者達から非難轟々ー新聞労連・南彰委員長が報告
「桜を見る会」に後援団体関係者らを組織的に呼び寄せ、飲み食いさせるなど、安倍政権の政治の私物化が問題となっている中、内閣記者会加盟報道各社のキャップは、今月20日、都内の中華料理店で、安倍晋三首相と懇談した。これに対し、ネット上では、権力とメディアの癒着であると、批判が相次いでいる。新聞労連の南彰委員長も「市民に信頼される報道を目指して頑張っている記者の心を折れさせていくメディアの上層部の意識って何なんだ」と憤りをあらわにした。筆者が南氏に聞いたところ、現場の記者達も、メディア幹部と首相との馴れ合いに強く憤っていると言う。
◯「このタイミングで」「一体何をしているのか」と批判
今月20日付の時事通信「首相動静」によると、同日の晩、安倍首相は、都内の中国料理店で内閣記者会加盟報道各社のキャップと懇談したという。「桜を見る会」の件で安倍首相への批判が強まっている中での懇談に、ネット上では「このタイミングで?」「これも『桜を見る会』と同じくらい問題じゃないの?」と非難轟々。メディア関係者らも苦言を呈している。
米紙ニューヨーク・タイムスの元東京支局長で、ジャーナリストのマーティン・ファクラー氏は「信じられない。桜を見る会が批判されている最中に、内閣記者クラブのキャップ(リーダー的な記者)が今夜、安倍総理と会食したそうである。メディアの信頼性を考えていないよね」とツイート。
東京新聞の望月衣塑子記者も、「『首相は何も悪くない。一体何が問題なのか』と首相を持ち上げる記者もいたとか」「現場が取材で奮闘してる最中に一体何をしてるのか」と怒りのツイート。
筆者が注目したのは、新聞労連の南彰委員長のツイートだ。南委員長は「全国の記者からやり場のない怒りの連絡が1日中押し寄せる」という。
◯懇談に現場の記者達から怒りの声
首相とメディア幹部の懇談について、どのような意見が現場の記者からよせられているのか。筆者が南委員長に問い合わせると、以下のような意見があったとの回答を得たので紹介しよう。
◯権力に忖度するメディア上層部による言論封殺
筆者も仕事柄、大手メディアの記者らと接することがよくあるのでわかるのだが、記者達も、読者や視聴者のメディア不信を痛感しているし、思い悩んでいるところもある。ジャーナリストとしての社会的責任を全うしようとしている、真面目な記者達も少なくない。一方、日本の「報道の自由」を脅かしているのは、安倍政権のメディアへの圧力だけではなく、政権に忖度し、記者達の報道に介入しようとするメディア上層部の振る舞いなのだ。
メディア上層部の政権との癒着については、2016年4月に来日、日本での「表現の自由」を調査したデビット・ケイ国連特別報告者も、その報告書の中で言及している。
記者達からの訴えに、当初、ケイ特別報告者は「それは日本のメディア内部の問題ではないか。私は、権力による表現の自由への圧力について調査しに来たのだが…」と、大いに困惑していたが、それは当然だ。「権力の監視」がジャーナリズムの重要な役割として広く認識されている米国の出身であるケイ特別報告者にとって、主要先進国の一員であり民主主義国家を標榜する日本で、まるで独裁政権下の官製メディアのような自主規制があることは、奇異に映ったのであろう。
だが、上記の報告書で言及したように、「政府指導者とメディア幹部の間の不適切な緊密性」が、日本の報道の自由を妨げる、特有かつ深刻な問題であることをケイ特別報告者も認めたかたちだ。
◯メディア上層部はジャーナリズムを問い直せ
何のためのメディアなのか。民主主義社会におけるジャーナリズムの役割とは一体何か。以前、筆者はフランスのメディアで働く友人にこう聞かれたことがある。「なんで日本のメディア幹部達は首相と一緒に御飯食べるの?」「フランスでも、たまにそういうのいるけど、恥知らずと軽蔑されるよ」。全く、友人の言う通りだ。日本のメディア上層部は本当に危機感が足らない。メディアと政権が癒着しているからこそ、数々の疑惑や不祥事を抱えながらも、安倍政権が「憲政史上最長の政権」となったのではないか?各メディア上層部は、今回の懇談に対する、現場の記者達の怒りの声に耳をかたむけ、日本のメディアのあり方を問い直すべきだろう。
(了)
*本記事は、志葉玲公式ブログ「志葉玲タイムス」からの転載、一部加筆したもの。