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参加国少ない抗日戦勝軍事パレード――習近平政権のメンツは?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

軍事パレードのリハーサルが行われた。抗日の主戦場で戦ったのは中華民国の国民党軍。今の中国はその国民党軍を倒して誕生した国。西側諸国は中国の軍拡を警戒し参加しないのだろうが、中国も歴史を歪曲してはならない。

◆参加国調整に苦労した習近平政権

8月22日と23日、9月3日に天安門広場で行う抗日戦争勝利70周年記念軍事パレードのリハーサルが行われた。足の上げ方や歩幅に始まり、帽子のつばが横から見たときに一直線になっていなければならないなど、3カ月にわたって特訓を続けた兵士たちの闘いが熱く報道された。一本の糸を隊列の右から左に渡し、あごの上げ方まで揃えて、まさに「一糸乱れぬ」行進の特訓ぶりが披露された。女性兵士もおり、平均175センチの男性兵士の歩幅と揃えなければならない努力が尋常ではないと苦労話を紹介。中には元モデルや中央テレビ局CCTVの美人キャスターだった兵士もいる。

リハーサルに先立つ8月21日には、中国政府の国務院新聞弁公室が記者会見を開き、中国人民解放軍総参謀部作戦部の関係者らが軍事パレードの概要を紹介するとともに外国人記者の質問にも応じた。

それによれば軍事パレードに参加する兵士の数は1.2万人で、披露される国産兵器の84%が新しく開発されたものであるという。また抗日戦争で戦った老兵がパレードに参加するというのが、今回の目玉の一つでもあるという。パレードは70分間。

記者会見ではアメリカ聯合ニュースの記者が「一部分の海外のリーダーは軍事パレードに参加したくないと思っているが、これに関してどう思うか?」とストレートに質問したが、それに対して中国人民解放軍側は「今のところ、ロシアやカザフスタンなど十数カ国が参加を決めている。具体的な参加国に関しては、近いうちに別途機会を設けて、メディアに対して公表したいと考えている」旨の回答をした。

当初はロシアをはじめとして数カ国しか参加を表明していなかったが、記者会見時点で、ようやく十か国程度にまでこぎつけた。それもモンゴルやベラルーシ、キルギスといった国々である。

この記者会見は本来、8月20日午前10時に開催されることになっていたが、21日の午後3時に延期されるという、異例の推移をたどっている。一説には参加国をなんとか増やそうとギリギリまでの努力をしていたという。どうにも一定数に漕ぎ着けられないので、参加国の記者会見に関しては別途行うこととしたと聞いている。22日と23日にはリハーサルを行うことが決まっていたので、それを越えて延期するわけにはいかないので、21日、それも午後まで待ったらしい。

だというのに、23日のCCTVは参加国数を「十数か国」と言わずに、うっかり「十か国」と言ってしまった。ロシアの軍隊のパレードに関するリハーサルも報道したが、今一つ精彩に欠ける。

これでは、習近平国家主席の中央軍事委員会主席としての顔は、丸つぶれではないか――。

◆世界反ファシスト戦勝70周年閲兵領導小組

抗日戦争勝利70周年記記念における軍事パレードに対する習近平の力の入れようは尋常でない。なんといっても、このパレードのために、わざわざ「抗日戦争と世界反ファシスト戦争勝利70周年閲兵領導小組」という、中央直属の指導グループまで設立させ、9月3日を待っている。

本コラムの「兵力の10%しか抗日に使うな!――抗日戦争時の毛沢東」「戦後70年有識者報告書、中国関係部分は認識不足」でもご紹介したように、中国建国の父である毛沢東は、反日教育をやったこともなければ、抗日戦争勝利記念日に記念行事を行ったこともない。ましていわんや、抗日戦争が「反ファシズム戦争」だなどと言ったこともない。

その意味で毛沢東は、何千万にも及ぶ自国民を惨殺はしたものの、建国後の対日姿勢に関しては非常に正直であったと言える。

1994年に江沢民元国家主席が愛国主義教育を始め、1995年から抗日戦争を「反ファシズム戦争」と位置付けるようになってから、中国の対日歴史は逆行し始めた。

以来、日本に対して強硬路線を取っていないと、人民に「売国政府」と罵倒されかねない状況を招いている。だから習近平国家主席は、自らの威信を高めるために、抗日戦争の記憶を時間とともに逆行させて強化しているのである。

今年6月24日に、中共中央宣伝部(中宣部)の王世明副部長が中国人民解放軍総参謀部作戦部関係者などとともに「抗日戦争と反ファシズム戦争勝利70周年記念式典」に関する記者会見を開き、式典の概要を発表した。

このとき王世明副部長は、「西側諸国は中国が反ファシスト戦争において果たした重要な役割と貢献を軽視している」として、「参加しそうにない」西側諸国に対して、すでに非難するような言動をしている。

しかし、一部の西側諸国が、どんなにAIIB(アジアインフラ投資銀行)や一帯一路(陸と海のシルクロード)といった経済面で中国と歩調を合わせたとしても、さすがに軍事大国として膨張しようとする中国の軍事パレードに参加しようとはしないだろう。それをすれば、軍事的に拡大を続ける中国の強硬路線を肯定したことになるからだ。

筆者から見れば、そもそも「抗日戦勝記念日で中共政府が軍事パレードを行う」こと自体が筋違いで、中国の歴史歪曲は留まるところを知らないと懸念する。

(特記:日中戦争時の中共軍であった八路軍や新四軍の兵士自身は勇猛であったが、日中戦争の第一線で戦うことを毛沢東は固く禁じ、やがて国民党軍を打倒するために兵力を温存せよと命じていた。)

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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