Yahoo!ニュース

「若者が結婚離れしているのではない」そもそも結婚に前向きな若者は昔も今も5割程度

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

「間違いを前提」とする間違い

昨今の婚姻数の減少および婚姻数の減少に起因する出生数の減少は、まるで若者の価値観が変遷したことが原因かのように言う有識者がいる。

それに乗っかって、メディアも何かというと「若者の恋愛離れ・結婚離れ」などというタイトルで煽りを入れてくるのだが、婚姻数が減っていることは事実でも、その原因を「若者の結婚意欲が減っている」とみなすのは間違いである。

間違いを前提に話を進めると、いつまでも間違いのままである。

確かに、厚労省の出生動向基本調査において経年で調査している18-34歳の独身男女の「一生結婚しない」という割合は年々増えている。

これは私の言葉でいえば「選択的非婚」の部類になるのだが、増えているとはいえ、2021年で男17.3%、女14.6%と2割以下である。2020年国勢調査での生涯未婚率は男28.3%、女17.8%であるから、結果として生涯未婚になる割合よりも、選択的非婚の割合は低いことになる。

それは、裏返せば、「本当は結婚したくなかったわけではないのだが、気が付いたら生涯未婚だった」という層がいるということだ。

これを私は「不本意未婚」と名付けている。

「一生結婚しない」という選択的非婚が多少増えているからといって、「結婚したい・するつもりだ」という結婚前向きな意思を持つ独身が以前と比べて減っているかというと決してそうではない。

30年間の結婚意思推移

出生動向基本調査のデータをベースに、20-39歳の独身男女における結婚意思別推移を見てみよう。対象年齢を20-39歳としたのは、未婚男女の「恋愛結婚による結婚限界年齢」は男性40.0歳、女性37.6歳であることから、対象年齢を39歳まで拡大するためである。

同調査では、「一年以内に結婚したい」と「まだ結婚したくない」という結婚意思の違いで分けて集計しているが、前者を「結婚前向き層」、後者を「結婚後ろ向き層」とし、前述した「一生結婚しない」「不詳」もあわせた20-30代の結婚意思の長期推移をグラフ化したものが以下である。

これで見るとよくわかるが、青で示した「結婚前向き率」は1992年から2021年の約30年にかけてほぼ変わっていない。

結婚前向き派の割合は、男性では、1992年43%から2021年44%まで、30年間41-45%の間でほぼ一定である。同じく女性も、1992年50%から2021年49%まで、49-54%の間で推移している。

1992年はまだ世の中では皆婚の名残があった頃で、むしろ恋愛至上主義とすら言われていた頃である。若い女性たちは、ジュリアナ東京のお立ち台で踊っていた。

その時代から現代にいたるまで、20-30代の男女の「結婚前向き率」は変わっていないのである。30年前の25歳は今や55歳。つまり、現代の55歳の中年と令和の25歳の若者も、結婚意思は同じということだ。決して、今の若者の結婚意欲が失われたわけでもないし、価値観が変化したのでもない。

見方を変えれば、皆婚時代でさえ結婚に前向きだったのは4-5割でしかなく、本人の明確な意思があろうとなかろうとその時代は結果として「結婚できた」といえる。むしろ結婚することはそれほど難易度の高いものではなかったと言えよう。

価値観より構造の問題

現代の婚姻数が大幅に減少しているのは、個々人の意識の変化ではなく、結婚のハードルがあがったという構造の問題としてとらえるべきだろう。

もちろん、「一生結婚しない」という選択的非婚が増えていることは事実だが、それはかつて「結婚したくはないなあ」とおぼろげに考えていた「結婚後ろ向き層」の中から、明確に意思をもって「結婚しない」と表明しても「変な人」と思われなくなったという環境がある。

言い換えれば、昔から「選択的非婚」は今と同程度いたのかもしれない。しかし、「結婚して一人前」のような結婚規範があった環境下ではそうした意思表示は隠されていたとも考えられる。

写真:アフロ

結婚は強制されるものではない。「結婚したくない・結婚しない」という選択的非婚の希望や意思は尊重されるべきだろう。しかし、今の婚姻減の問題とは、「結婚したい」という結婚前向き層であっても結婚ができないという不本意未婚が増えていることである。

男余りなのに男がいない

ちなみに、結婚前向き率が男女で5-10%の差があることも結果としての婚姻減に影響を与えている。

そもそも、未婚男女比率では男性の方が多く、単純に未婚の男女人口を比較すれば、430万人もの男余りである。都道府県別にみても、すべてのエリアにおいて男の方が余っている。

参照→未婚男性の「男余り430万人」の実態~もはや若者ではなくおじさん余りへ

にもかかわらず、婚活の現場では「男がいない」という声がよく聞かれる。「ロクな男がいない」というのではなく、例えば婚活パーティーなどでも男性の絶対数が少ないという現象も起きている。マッチングアプリで「いいなあ」と思った男性が、あとから既婚者だと判明するなんてことも珍しくない。

離婚男性が初婚女性と再婚する割合が多い「時間差一夫多妻制」という現実もある。

むしろ、1990年までの皆婚時代は、よくももれなくマッチングできたものだと思う。一方、現代の婚姻減は、そうした結婚に至るマッチング不全という構造の問題がある。

次回、より詳細にマッチング不全の構造について触れていく。

関連記事

100年前も若者の未婚「男余り」人口は現代と同じくらい多かったのに皆婚だったワケ

離婚再婚を繰り返す「時間差一夫多妻男」のカゲで生涯未婚の男たちが増えていく

-

※記事内グラフの商用無断転載は固くお断りします。

※記事の引用は歓迎しますが、筆者名と出典記載(当記事URLなど)をお願いします。

※記事の内容を引用する場合は、引用のルールに則って適切な範囲内で行ってください。

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

荒川和久の最近の記事