オンタイムに世界水準を奏でる新世代、謎めいた新鋭 yahyelの圧倒的センス
世界水準の魅力を放ち、海外の音楽シーンとシンクロする東京インディーズ・シーン要注目のバンド、yahyel(ヤイエル)。そのクリエイティヴィティは、誤解を恐れずにいえば1980年代初頭にYMOが試みた世界展開の先の光景を見据えているように思えた。
9月末に限定リリースされた初のCD作品『Once / The Flare』が瞬く間に完売。先日開催された『Amazon Fashion Week TOKYO』では、BED J.W. FORDのランウェイショーの音楽も担当するなど、ボーダレスで謎めいた存在感が反響を生んでいる。
注目すべきは、海外シーンのトレンドを血肉化し、ポップ・ミュージックの“いま”を体現したドープなサウンド。ポスト・ダブステップ以降、オルタナティヴなインディR&B、ベースミュージックを経由したオンタイムな音使いへのこだわり、身震いを覚えるほどの“日本人離れした”ブルージーで甘い歌声とエモーショナルなメロディ、ディストピア的な情景を感じさせる物悲しくダークなビートセンス。平均年齢23歳、ヴォーカル、サンプラー、ラップトップ、ドラム、VJの5人編成による、テクノロジーと圧倒的なセンスを感じさせる新世代バンドだ。
今年1月には、イギリスの老舗レーベル・ショップ『ROUGH TRADE』を含む5箇所で欧州ツアーを成功させ、7月にはMETAFIVEのオープニングアクトに抜擢、さらに『FUJI ROCK FESTIVAL'16』深夜3時の「ROOKIE A GO-GO」ステージにて満員のオーディエンスを熱狂させるなど、着実に知名度が高まっている。
そんなyahyel が、初のアルバム作品『FLESH AND BLOOD』を11月23日(水)にリリースする。マスタリングを、JAMES BLAKEをはじめ、Aphex Twin、Arca、Blood Orange、FKA twigsなどを手掛けるMatt Coltonが担当していることでも興味深い。ぜひ、そのひんやりと研ぎすまされた音の響きに耳を澄まして欲しい。
とあるターミナル駅屋上で開催されたシークレット・ライヴのリハーサル前に、メディアにはあまり登場しないyahyelのコアメンバー池貝峻、篠田ミル、杉本亘に話を聞いてみた。
【yahyelインタビュー】
――yahyelを聴いてまず思ったのが、日本人で音楽することを意識させない匿名性の強さでした。
池貝峻(Vo / 以下 池貝):匿名性のフィルターっていうのは間違いなくあるとは思います。日本人特有のタグ付け文化というか、説明が無いと理解されないみたいなところから距離を置きたかったんですね。
篠田ミル(sample, cho / 以下 篠田):そもそもyahyelはプロジェクトとしてスタートしました。僕らは、これまで洋楽ばかり聴いて育ってきたので、自分たちも同じ土俵で勝負したいと思ったんです。いわゆる日本で洋楽と分類されるアーティストと同じメディアに出て、同じフェスやツアーに出て、同じリリースの工程で活動したいという思いがありました。これまで、海外に出ていった日本人アーティストたちの軌跡を振りかえると、どうしても日本的なギミックを使わないと海外に出られなかった歴史があるんです。“じゃあどうしたらいいのか?”と考えたときに、ギミックを使わずとも音楽だけで勝負したいと思い、今のような匿名性のフィルターを使うスタイルを選びました。
池貝:もともと、3人ともスウェーデンやアメリカなど、海外で生活していたこともあって、日本人として見られるということに敏感なんです。そこを意識してるがゆえに、匿名性を選んだことに疑問を持って欲しいというか、むしろ聴いてくれている人に考えて欲しいんですね。そして、気になったら自分で掘って欲しいと思っています。Aphex Twinとか、国籍やタグ付けとか関係無いじゃないですか? なので“日本はすごい!”みたいなコンテクストを全部破壊した上で、いち個人としてのアイデンティティをどう見られる、扱われるかという感覚を揺り動かしたい気持ちが強いんです。
――意味付け、説明文化とは離れて、個人であること、音やプロダクツで勝負したいという気持ちのあらわれなんですね。
池貝:これまで、メンバーそれぞれがバラバラに音楽活動をやってきて、出来なかったことをやろうとしています。プロジェクトありきなバンドなので。
篠田:もともと僕とMONJOE(杉本)で、“海外でやれるプロジェクトをやろう!”って話をしていたんです。それとは別にガイ(池貝)からも“バンドやろうよ!”って声がかかって、最初は別々だったんですけど、ガイ(池貝)がスモーキーなR&Bが歌えるんですね。そして、MONJOE(杉本)はオンタイムなトラックを作れるし、一緒にやったら凄いことになるなって。
杉本亘(sample, cho / 以下 杉本):僕はDATSというバンドもやっていて、そこではギター&ヴォーカルなんです。でも、トラックメーカーというか、エレクトロな音楽もやりたいなって思っていて。(篠田)ミル君から“海外目指すバンドをやろうよ!”って誘いは、タイミングがちょうど良かったんです。
池貝:ちょうど、シーン的に電子音楽とブラックな歌声が混ざってきたサウンドがメインストリームに入ってきて、“これならやれるんじゃないか”ってタイミングもよかったんです。どちらかといえば、音楽に対して各自初期衝動を抱えているなかで、ある種マーケティング的というか、理詰めで、どんな音楽を“いまやるべきか?”を考えたプロジェクトなんですよ。
杉本:そこら辺はかなり慎重にアウトプットしていったと思います。
――VJがメンバーにいて、照明的にヴィジュアルを取り入れられているのも匿名性的な考え方のあらわれなのでしょうか?
篠田:そうですね。ライヴでスポットライトなどの照明は極力使わないですし、固有の身体性に目がいかないようにする役割、あるいは僕らの身体の代わりの役割をVJの映像が果たしていますね。
池貝:MVやVJでの映像が、自分たちの匿名性というコンセプトを体現する存在になっていますね。
――メンバーで共通して好きな、あるいは影響を受けたアーティストは誰ですか?
篠田:このプロジェクトをはじめるときに共通したイメージには、JAMES BLAKEの名がありました。
池貝:オンタイム感を意識した結果ですね。誤解を恐れずにいえばJAMES BLAKEからの影響というより、いま世の中でどんな音楽が聴かれているかを意識しています。
杉本:ちょうどこのメンバーではじめたのが2015年だったので、海外のシーンを見渡すと、ポスト・ダブステップ的なビートでやっているインディR&Bが多かったんです。それがすべてではありませんが、僕らの共通点かもしれません。
――アルバムには収録されませんでしたが、平均年齢23歳の皆さんがYouTubeでPortisheadの「Glory Box」(1994年)をカバーされていたことに驚きました。
篠田:京都メトロへライブに行ったとき、夜中に車でPortisheadを永遠と聴いてたのがきっかけですね。あのスパイ映画的な世界観はyahyelにも近いよねって話になって。よくよく考えてみれば、ブリストル・サウンドは電子音楽とインディーロックの融合みたいな試みだったし、ドロドロな女性ヴォーカルっていうところも好きなんですね。
杉本:トリップホップのサンプリング感みたいなものを、ちょうど取り入れようとしていた時期だったんですよ。ヴォーカル自体のノリもyahyelに合ってるんじゃない?っていう。
池貝:それで、カバーをやるんだったPortisheadじゃない?みたいな話になって。
篠田:一方で、MONJOE(杉本)はMura Masaとか、FLUMEっぽいトラックを作ってきたんですよね。
池貝:Disclosureみたいなのもね。フューチャーベース的というか。
杉本:それを合わせたらいいんじゃない?って話になって。……ていうか、なんか普通にさ、好きだからカバーしたとか言えばいいのにね(苦笑)。
篠田:まあ好きですけどね(笑)。
池貝:でもなんか、いろんなコンテクストがあったんですよね。あと、僕自身はTom WaitsやRobert Johnsonがルーツなんですけど、yahyelをやるにあたっては女性シンガーを強く意識しています。FeistやCat Power。もちろんPortisheadもそうですし、Daughterとかもね。ああいう、狂気性のある女性ヴォーカルは意識してます。
――音数を絞った非常に隙間の多いサウンドや、ヴォーカルを音として加工する感覚など、サウンド面において現行のシーンを意識されているように思うのですが、とくに意識しているミュージシャンやシーンを教えてください。
池貝:理詰めで考えてるんですよ。それでいて、ポスト・ダブステップやチルウェイブ、LAビートシーン、インディR&Bなど、聴いてきた音楽からの影響をアウトプットしたい気持ちもあって、時代に対して自然体でいたい思いが強いですね。
篠田:理詰めっていうのは、プロジェクトとして活動をはじめたことが大きいかもしれないですね。
――具体的にアーティスト名をあげると?
篠田:XXYYXXを聴いてたかな。
杉本:オンタイムなトラックが好きですね。SBTRKTとか。
池貝:Chet Fakerもね。
杉本:そうだね。あとFLUMEやHONNEも。
篠田:HONNEは初期かな。
――オンタイムであることのこだわりについて、サウンド・プロダクションで、もっともこだわった点は?
篠田:よく揉めるのは、ガイ(池貝)のメロディーメーカーとして、或いはリリシストとしてこのトラックのこのコードでこの音色に合うかっていう目線と、MONJOE(杉本)のトラックメーカーとしてはこっちの方がかっこいいみたいな目線が衝突しますね。こだわっているポイントかな。そこはいいところを見つける作業みたいなことなので、かなり時間をかけています。
池貝:そんなこだわりで出来上がってると言っても過言ではないですね。
杉本:そうっすね。理詰めで考えているんですけど、ある程度のイメージは、それぞれがくみ取りあって、で、作業を進めてく中で起きる偶然の化学反応がyahyelらしさなのかなって思ってます。
――タイトルを『FLESH AND BLOOD』としたのはなぜでしょうか。
池貝:FLESH AND BLOODっていう言葉はアルバムの最後に収録された曲の歌詞からなんです。きっかけは、僕が海外にいた時に、友人がよく言い訳としてFLESH AND BLOODというフレーズを使っていて。“しょうがなくない? 血と肉で出来た人間なんだからさ”という意味なんですよ。まぁ、そんなこと言われたら納得するしか無いんですけど、“でもそんなこといったら何でも言い訳になっちゃうじゃん?”って思ったんです。個人個人の関係性って本来なら言い訳がきかないじゃないですか?“みんながそう思ってる”とか“共通認識としてこういうのがあるから”とか一般論は関係ないですから。でも、だからといって僕らは血と肉でできていることには変わりないんです。そんな矛盾も感じて。曲作りでも思うんですよ。“自分がもしそんな言い訳をしてしまったらどうしよう?”とか。FLESH AND BLOODって、人間の生々しさをあらわしている言葉なんです。yahyelはエレクトロで無機質なサウンドって言われることがありますけど、その反面、歌詞では個人の正直なエグさみたいな部分を書きたいと思ってるんです。アルバムを象徴する言葉ですね。
――タイトルにしても、ニューエイジ思想家の用語から取ったというアーティスト名にしてもなのですが、どこかスピリチュアルだったり宗教的だったりするモチーフが散見されるように思います。これは意識的なことでしたか?
池貝:脆さみたいな感じです。個人の脆さというか思想ですね。
篠田:yahyelという名は、無機質でミニマルで宇宙人ていう意味なんです。でも、実際にガイ(池貝)が歌ってるのは人の内面のドロドロとした感情なんですね。僕たち新世代は、デジタルネイティヴだ、ポストヒューマンだなんだと言われたりもするけど、結局は血と肉で作られているってことなんですね。
池貝:今の世代の生々しさを書きたいと思ってます。
――アルバムを貫くコンセプトやテーマ設定はありましたか?
杉本:今って、ユートピア性を打ち出しているバンドがすごく多いじゃないですか? 僕らは逆にディストピア性を押し出そうとしてます。“これってそもそもおかしくない?”とか“こんな風に言われたら不快な気分にならない?”、“なんで不快な気分になるの?”みたいな問いかけを繰り返している曲が多いかもしれません。
篠田:ディストピア性は大事だよね。ここ数年のポップ・ミュージックは、みんなリバーブとエコーの海にまみれていて……。“気持ちいいぜ最高! 踊ろうぜブラザー!”みたいな(苦笑)。兄弟愛や享楽性も大事だとは思うんですけど、それだけじゃないだろうって。
杉本:“違くない?”っていうのが僕ら。基本的には内面から叫びを際立たせるために音数をあえて減らしていて、たとえば1サビが終わったあとにビートも無くなって声だけになる曲があるんですけど、そんなところでも言葉が届くように意識してますね。けっこう怒ってるんですよ。怒りが強いかも。
池貝:怒ってるね、怒ってるよ。
篠田:“歌詞はよくわかんないけど、yahyelはオシャレでチルでいいね!”と思っていたら、実はこんな怒りが歌われていたって、すげぇディストピア感あるでしょ?
池貝:皮肉なんだよね。
杉本:ポストパンク的なね。
――以前の発言から、“国境がない音楽”ということにこだわっているようですが、逆に言うと、日本のシーンに馴染まないということですか?
池貝:国内だとか国外だとか、そこに線引きする意味がない。
杉本:普通に世界標準の感覚で活動していたら、国内では今みたいな状況になるんだなってことがわかりました。
池貝:“国境がない音楽”ってフレーズは、なんか一人歩きしたよね。
篠田:僕らのアイデンティティに国境がないって意味だったんだけどね。
杉本:音楽そのものはそこまで意識してない。
池貝:好きなことをやってるからね。
――yahyelにおけるビジュアル面やテーマなどで、影響を受けたアート、小説、映画などがあれば教えてください。
篠田:僕とガイ(池貝)は特にディストピア・オタクですね。
池貝:『虐殺器官』でデビューしたSF作家の伊藤計劃とかもね。ディストピアな一連の流れが好きなんです。それこそジョージ・オーウェルの小説『1984』から始まり、映画『マトリックス』もね。
篠田:あんな情景を共有してますね。
杉本:よく2人でそんな話をしているよね(苦笑)。
篠田:あと、川久保玲も好きですね。日本人で海外に出て行って、なおかつビジネスとアートの両方をやってる人をリスペクトしています。どっちかだけじゃダメなんですよ。あと、YMOですね。それこそ、コンセプトを作り込んで、アート界隈やファッションな人脈も巻き込んでいて憧れますね。世界観の作り込み方は本当に参考にしていますね。
池貝:YMOはカルチャーとして、僕らがやりたいと思っていることを本当に近くまで世界でやった人たちですよね。
――すでに海外でのライヴも経験されているようですが、リアクションはどうですか? 日本との違いを感じますか?
杉本:イギリスで4会場、パリで1会場、合計5会場でした。アーティストとしての肌感になっちゃうんですけど、やっぱりオーディエンスの感度が高いなって。楽しむ方法をわかっているんですよ。俺らがやろうとしてることをちゃんと理解してくれて。音楽に対する熱量の高さがありましたね。
池貝:ナチュラルなんだよね。当たり前に、音楽に対しての情熱があって伝わってくるんですよ。
篠田:イギリス・ノッティンガムの『ROUGH TRADE』でインストア・ライヴをしたんです。3階建てで、2階がライヴ・スペースになっていて、そこではご飯やお酒を呑めたりして。僕らがやったのは週末だったので家族連れが大勢いて、普通に父ちゃんビール飲んで子どもと飯食ってみたいな雰囲気だったんです。そんなお客さんが偶然yahyelを観て喜んでくれるっていう。
池貝:信じられないな〜、って思って(笑)。いや、嬉しかったんですよ。
篠田:7インチを買ってくれた子どもにサインねだられたり。音楽が日常に根付いてる感じがあったんです。
池貝:“このまま世界終わっちゃうぜ!”みたいな曲をやってても、熱量高く楽しんでくれるんですよ。音楽に対するリスペクトを感じましたね。パリもすごかったです。最初はもう斜に構えられていて“なんだこいつら?”みたいな雰囲気だったんですよ。でも、はじまって2曲くらいで盛り上がっちゃって。
篠田:いいものにはフィルターをとっぱらって素直に反応してくれるんだなっておもいました。今後も海外でライヴはやって行きたいですね。
杉本:そこまでいかないと意味がないからね。
――今年の夏、リキッドルームでのMETAFIVEのワンマンライヴで、オープニングにyahyelが出演したことにも驚かされました。
篠田:それこそ、YMOが好きだったので憧れが強すぎて高橋幸宏さんとか、うまく喋れませんでした(苦笑)。
池貝:好きな女の子を前にして、みたいになってたよね(苦笑)。
篠田:ははは(苦笑)。ライヴの裏側を見れたのは勉強になりましたね。どうやって音を出してるんだろうっていう視点ですね。チームの編成から何から。
池貝:どうやって中音を出されているのかとか質問しまくってました。META FIVEのPAの方がyahyelもやってくださったんで、ほんと勉強になりました。
――『FUJI ROCK FESTIVAL'16』、深夜3時の「ROOKIE A GO-GO」への出演も大きな事件となりましたよね。
池貝:あんな夜中に、よく人が集まってくれたなっていう。テンションあがりましたね。正直、嬉しかったですよ。お客さんのテンションがすごくフリーな感じがしたのが良かったですね。反応速度がよかった。
杉本:初めてのフェス出演でしたから。よい経験になりました。
――では最後に、yahyelとしての現在の目標や野望について教えてください
篠田:まずは目標として、いい作品をつくって、そのうえで世界的な音楽メディア『Pitchfork』などで評価されることですね。
池貝:海外のフェスにも出たいね。なんていうか、感情の問題ではなくて、出たことによる影響力をちゃんと行使したいと思っています。アジアに対するステレオタイプな国内外の両方の眼を、僕らはぶっ壊したいんです。国内がおかしいとか海外がおかしいとかじゃなくて全部おかしいと思っているので。それを全部ひっくり返すのが野望というか、それをやるためのyahyelですね。
yahyelオフィシャルサイト