全地域でマイナス…全国紙の地域別世帯普及動向をさぐる(2019年前期版)
全地域で前期比マイナス
新聞の販売部数は減少の一途をたどっている。それでは地域別ではどれぐらいの世帯に普及し、割合を減らしているのか。その実情を日本ABC協会発行による「新聞発行社レポート 半期」の掲載値から確認する。
まずは「全国紙5紙の朝刊世帯普及率」(夕刊は含まれていない)を算出し、単純に合計したものを都道府県別に列挙する。
グラフ中のただし書きの通り、1世帯が複数種類の全国紙を購読している事例も想定されるため、この値がそのまま「いずれかの全国紙を購読している世帯普及率」ではないことに留意する必要がある。例えば奈良県なら77.2%との数字が出ているが、これは「奈良県では7割後半の世帯が、5大全国紙のいずれかを購読している」ことを意味しない。仮に新聞購読全世帯が5紙すべてを購読していた場合、実質世帯普及率はその1/5、つまり15%程度となる。
一方、金銭的、時間的に余裕がある、大手新聞紙を複数購読し比べて内容の違いを検証する、特定の連載に目を通すために数紙を購入する事例はあるにせよ、多くの世帯で複数の主要新聞紙を購読しているとは考えにくい。実際、財団法人新聞通信調査会の調査「メディアに関する全国世論調査」によれば、全国紙を取っている人のうち複数紙の購読者は4.8%でしか無いとの結果が出ている。
また、高い値を示している地域(関東・近畿圏や山口県)では、レポートの掲載値の限りでは読売新聞や毎日新聞のシェア比率が高いことが確認されている(グラフ化は省略)。主要紙の単純合計値でもそれなりに高い精度で状況が把握できていることが分かる。
さらに、このグラフで値が低い都道府県では多分に地方紙が多く購読されており、新聞そのものが読まれていないわけではないことが多い。例えば青森県では最大手の販売部数を誇る新聞は東奥日報、次いでデイリー東北、その次にようやく大手5紙のうち読売新聞がついている。
次に、直前期となる2018年後期からの半期における差異を計算したのが次のグラフ。要は半年間でどれ程の変化が生じたのかを示した結果となる。
今期では全地域でマイナス。あくまでも紙媒体としての全国紙5紙、しかも朝刊のみでの計測ではあるが、すべての地域は幅の差こそあれど値を落としており、世帯ベースでの新聞離れの現状が一目瞭然で把握できる。
一方で下げた地域の下げ幅を見ると、関東と近畿圏の下げ率の大きさが目立つ。人口密集地帯における紙媒体としての新聞離れが進んでいることを思わせる動きではある。さらに今期では山口県や福岡県のような、関東・近畿以外の普及率が高い地域でも下げ幅が顕著化しており、留意すべき動向に違いない。
地域別動向
続いて全国を「北海道・東北」「関東」「中部」「近畿」「中国」「四国」「九州・沖縄」のエリアに分割し、それぞれの地域別の朝刊世帯普及率を算出する。
人口密集地帯の関東と近畿において、大手2紙の読売新聞・朝日新聞が他紙から群を抜いて高い値を示している。まだ近畿は毎日新聞がそれに続く値ではあるが、関東では他の3紙は大きく突き放されている(第3位に日経新聞が入っているのも特徴)。関東では読売新聞と朝日新聞の天下状態とも表現できる。
一方、「毎日新聞は近畿や中国、九州・沖縄などの西日本で強い。ただし四国は弱い」「中部では朝日新聞が読売新聞とほぼ同率、四国でも読売新聞に肉薄している」「産経新聞は関東と近畿に特化し、特に近畿で強く、日経を超えている」など、地域特性や各新聞社の特徴などが確認できる。また産経新聞は関東と近畿のみ強く、他地域では世帯普及率が1%を切っており、同社の販売促進戦略が人口密集地域へのリソース集中投下にあるものとの推測ができる。
この朝刊世帯普及率について、前期、つまり2018年後期からの変移を計算した結果が次のグラフ。地域別の動向を眺め見ることができる。
まず目に留まるのが近畿における朝日新聞や毎日新聞の減少ぶり。そして関東では読売新聞と朝日新聞が大きな減少、九州・沖縄では読売新聞が抜きんでる形で減少している様子が見て取れる。
最後に各新聞社別の普及率グラフを別の視点で再構築する。
読売新聞の部数面における強さは、関東・近畿のような人口密集地帯、そして商業圏での強さにあることが分かる。朝日新聞も数字そのものはやや落ちるものの、地域別傾向としては読売に似ている。販売戦略も恐らくは同様なのだろう。さらにこの2紙は中国でも強い値を示しているのが特徴的。
産経新聞は絶対値がかなり低く、部数の絶対数の足りなさは経営リソース不足によるところが大きいものと考えられる。また近畿圏での突出した値が目に留まる。近畿圏だけなら日経新聞をも上回る値を示しているのは、注目に値する。
日本では「人口の減少」「単身世帯の増加」「世帯数の増加」が同時進行で起き、そして単身世帯では新聞購読率が低くなるため(購読必要性の低下や可処分所得の小ささが原因)、仮に部数が維持されても世帯普及率は減少してしまう。母数となる世帯数が増加するからである。今記事の各値は「どれだけの割合の世帯に新聞が届いているか」といった、新聞の動向を確認する指標の1つに過ぎない。また絶対数こそ少ないが、有料電子版の存在も忘れてはならない。
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