突如あらわれた新しい才能、ファントム(幻影)表現者 Siip。2作目「2」で描く、俯瞰の予言者視点
●詳細不明。自身が作品の意図を説明することもない。神出鬼没!? 誤解を恐れずにいえば音楽シーンにおけるバンクシーのような存在だ
シンガーソングクリエイター Siip(シープ)の登場は鮮烈だった。昨年、12月24日、初配信曲となった作品番号【Sp.001】「Cuz I」(コーズ・アイ)による“さぁ さぁ 好きなだけ踊り 疲れてしまいなさい”、“偶像に何を求めるの? 僕は君じゃない”という辛辣なメッセージを説くニュースタイルな“チル”サウンドは、驚きと安らぎというアンビバレンツな衝動を残した。
日本国内の主なストリーミングサービスでバナー / TOPカバーを飾り、Spotify Japanでは『日本バイラルトップ50』、『Tokyo Super Hits!』、『Spotify Japan急上昇チャート』、『Weekly Buzz Tokyo』など主要プレイリストに多数リストイン。さらに『台湾バイラルトップ50』にも入るなどワールドワイドに広がりつつある。ラジオ界隈での評価も高く、日々「Cuz I」はオンエアされ続け、その謎めいた作品を考察するリスナーが増えている。J-WAVE『TOKIO HOT 100』では3週連続チャートイン、音楽雑誌『ROCKIN'ON JAPAN(1月30発売)』、『音楽と人(2月5日発売)』でも新人としては異例の取り上げられ方をされるなど、メディアからの注目度も高まってきた。
YouTubeでのインサイトデータを見ると約30%が日本国外、台湾やタイ、インドネシア、インドなどアジア圏、アメリカなど海外からのリーチだという。多元的な音像を繰り広げる、ジェイムス・ブレイクと比較する英語コメントが複数寄せられるなど、日本語詞ではあるがJ-POPとは異質な、歌とトラックが融合する独特なるサウンドアプローチが評価されているようだ。
●第2弾作品となる作品番号【Sp.002】「2」、4日間で20万再生へ迫る勢い
そんなSiipが、まったくの事前告知無しで第2弾作品となる作品番号【Sp.002】「2(ツー)」を2月12日にリリースした。すでに、YouTubeでは4日間で20万再生へと迫る勢いだ。さらに「Cuz I」に続いて、Spotify『Tokyo Super Hits!』など、各種ストリーミングサービス公式プレイリストへ続々リストインし、音楽チャンネル『MUSIC ON! TV(エムオン!)』2,3月度の“M-ON! Recommend”では、millennium parade「FAMILIA」とともに選出されている。
そもそも謎めいた曲タイトルである「2」とは、三位一体の第二位格を指し示す数字だ。数字にはさまざまな物語がある。“二極集中”、“二者択一”という選択の意味を持ちながらも、相反するという“黒と白”、“光と闇”、“太陽と月”、“善と悪”など、たくさんの二分化された概念が存在する。二重性とは弁証法的である。神は自分をかたどって人を造ったのであって、自分とまったく別のものとして人を作ったのではない。“2”という数字は、統一ないし多様的に、自らの解決点を見出す。
●先を知っているという感覚。世俗の一喜一憂から離れた、俯瞰の視点
前作「Cuz I」がSiip第1章のプロローグだとしたら、ビートがエモーショナルに爆裂する本作「2」は一気にハイライトがやってきたイメージだ。サウンドギミックやミュージックビデオ映像から「Cuz I」には“巻き戻す”という裏テーマが垣間見れた。「2」では楽曲の後半で、ドラムンベース調な倍速ビートによって時間を“早送り”して時を未来へと進めていく。“僕はずっとずっと先を知っている”、“僕はずっと先を生きている”という言葉が、俯瞰の視点から物語る予言めいたパワーワードとなっている。
先を知っているという感覚。世俗の一喜一憂から離れた、俯瞰の視点。ゆえにSiipの身の回りに流れる時間は、人の体感時間とは異なるようだ。その様は、今回「2」のミュージックビデオで映像表現化されている。伝わってくるのは、手を差し伸べるわけではなく“自分で考えてごらんなさい”という作品に込められたメッセージだ。「Cuz I」と比べ、「2」の方が哀しみは増している。リスナーとの距離感が通常のポップミュージックとは異なる。それは、“わたしだけが知っているSiip”という精神的な関係性に他ならない。
●洗練された自由度を持ち、上品で高貴な戯れ感、匿名性がありながらもポップかつアヴァンギャルド
Siipの詞曲やトラックメイクは、Siip本人がラップトップを前に一気通貫で手がけている。「2」は、アナログめいた音表現が印象的だ。オルタナティヴロックを取り入れたパワフルなギターやリズムの音像、畝り続けるベースの響き、シンセサイザーによるトリッキーなノイズトリートメント、オクターブ下の奇妙な機械ボイスなど、トラックと歌声がファンタスティックに融合する魔法めいた構築センスや、ゴスペルを思わせる耳に残るメロディーが、繊細なる物語を中毒性を持って具現化していく。
まさにSiipらしさである“洗練された自由度を持ち、上品で高貴な戯れ感、匿名性がありながらもポップかつアヴァンギャルド”というコンセプチュアルな様式美をまっとうするのだ。
●偶像としてホーリーな出で立ちで教会に降臨するSiip
サウンドのテクスチャーを司るミックスは前作「Cuz I」に引き続き、Lizzo(リゾ)、24kGoldn(トゥエンティフォーケーゴールデン)、HAIM(ハイム)、ケイティ・ペリー、セレーナ・ゴメス、チャーリー・プース、カミラ・カベロ、アリゾナ・ザーヴァス等を手がけた、Chris Galland, Overseen by Manny Maroquinが担当していることにも注目したい。
Siipとは、特定のイメージを持たない神出鬼没のファントム(幻影)表現者だ。しかしながら今回、ミュージックビデオで偶像であるSiipが司祭のような出で立ちで実体化した。羊のような仮面には植物も発生しているかのようだ。だが、本作においてもSiipは顔出しすることなく、自身が作品の意図を説明することもない。神出鬼没!? 誤解を恐れずにいえば音楽シーンにおけるバンクシーのような存在だ。
なお、「2」のミュージックビデオは、前作「Cuz I」に続いて構想はSiipが提示し、福岡を拠点とする気鋭のクリエイティブ・ユニットBOATによる映像作品となっている。偶像としてホーリーな出で立ちで教会に降臨するSiip。街を見下ろし俯瞰の視点から、燃えさかる青い炎を見届ける。空の色である青とは、物質性を超えた無限に深い世界を暗示するのだという。この世の行く末をイメージしたかのような、胸を締め付ける映像美が感情を刺激する。あなたは気がつくことができるだろうか? Siipという、時代と呼応するアートの息吹を。