誤解しないで 新型コロナ新承認薬「ゾコーバ」は簡単に処方できない
塩野義製薬の新型コロナ治療薬「ゾコーバ」がゲームチェンジャーと賞賛され、広く処方されるべきだという見解が目立ちます。重症化リスクのない軽症者に対して有意な効果が確認されたことから、治療選択肢の1つになりますが、効果が過大解釈され、いつでも気軽に処方してもらえるという誤解が広まっています。
そう簡単には処方できない
現時点でゾコーバは簡単に処方できません。ゾコーバ登録センターに登録した医療機関や調剤薬局でないと配分できない決まりがあります(図1)。まず2週間はこの運用となります。
薬を処方してもらうために、同意書を記載してもらう必要があります。オンライン診療の場合、口頭での同意も可能ですが、後日同意書の発送が必要になります。
また、医療機関が院外処方せんを発行する場合、調剤薬局に対して「そちらにゾコーバはありますか」という電話による事前の問い合わせが必要です。
その後、ゾコーバの適応にあるか「適格性情報チェックリスト」を医療機関が記載し、処方せんとともに調剤薬局にFAXする必要があります。後日、適格性情報チェックリストと処方せんの原本を調剤薬局に郵送する必要があります。
最終的に、感染者の自宅に薬が届けられる仕組みです。
なかなか大変です。希望者が多くても、さばける人数に上限があり、発熱外来のボトルネックになっちゃいます。
実は、パキロビッドもほぼ同じ運用です。現場では、非常にこれが煩雑で、なかなか処方がすすんでいない現状があります。1人の患者さんに割く手間が大きすぎることも、新型コロナの経口抗ウイルス薬処方のハードルになっているのです。ラゲブリオよりもパキロビッドのほうが国際的な推奨度は高いですが、国内の処方数は後者の方が圧倒的に少ないです(表)。
なぜこのようなややこしいシステムになっているかというと、新型コロナ陽性の患者さんが調剤薬局に処方せんを持って来る想定になっていないためです。
今後ゾコーバの処方が可能な医療機関や調剤薬局の基準が緩和されたとしても、服用条件が複雑であることはパキロビッドと同様であることから、簡単に処方できる仕組みになるとは考えにくいです。
軽症者の受診は控えて
これまでの抗ウイルス薬は、重症化リスクがある軽症者が対象でした。そのため、ゾコーバのように「重症化リスクのない軽症者に処方できる治療薬」は魅力的です。
しかし、よく考えてください。そもそも重症化リスクのない軽症者は、厚労省は自己検査を推奨しており、自宅療養をお願いしている状況なのです(図2)。
「国産の軽症者向けの治療薬が承認になったから、いつでもどこでも簡単に手に入る」と誤解する人が増えてしまい、これによって発熱外来が逼迫してしまっては元も子もありません。
そもそも、重症化リスクがない軽症者に対して本当の抗ウイルス薬が必要なのかという議論もありますので、何でもかんでもゾコーバを処方すべしというのは適切でないと考えます。
この薬剤は、現時点で入院や死亡などの重症化リスクを軽減させる効果は示されておらず、パキロビッドほど「ゲームチェンジャーだ」と断言できるほどの有効性が示されているわけではなく(2)、過熱報道は避けてほしいところです。
重症化リスクがある人については、ゾコーバ以外の抗ウイルス薬が望ましいと考えられており、日本感染症学会も「重症化リスク因子のある軽症~中等症の患者に投与する抗ウイルス薬は、重症化予防に効果が確認されているベクルリー、ラゲブリオ、パキロビッドによる治療を検討すべき」と記載しています(3)。
まとめ
患者さんに「あの薬が早くもらえるようになったら、備蓄しておきたいわね」と言われたので、流通と投与対象に関して啓発すべきと考え、記事を書かせていただきました。
この薬を求めて、軽症者が発熱外来に押し寄せることがないようお願いしたいです。
(参考)
(1) 新型コロナウイルス感染症における経口抗ウイルス薬(ゾコーバ 錠 125mg)の医療機関及び薬局 への配分について(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/001015921.pdf)
(2) 新たな国産承認薬で新型コロナ治療は変わるのか? 治療薬の現在のまとめ(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20221124-00325216)
(3) COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15版(URL:https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_drug_221122.pdf)