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キャンプ序盤の見所はノック。広島・菊池の守備範囲はプロ最高水準

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

間もなくプロ野球界はキャンプインを迎える。実戦形式の練習が始まる前、キャンプ序盤の見所はノックとフリーバッティングだろう。わかりやすく豪快な打球を飛ばすフリーバッティングに比べて、職人技を堪能出来るノックは野球経験の無い野球好きにとってはその違いがわかりづらい。守備力は失策数での比較になりがちだが守備範囲の広さを示す指標もある。

阪神の防御率1位は守備力の恩恵

チーム全体の守備範囲を示す

DER(Defensive Efficiency Rating)

(打者数-被安打数-与四死球-奪三振数-失策)÷(打者数-被本塁打-与四死球-奪三振数)

計算された数値はフェア地域の打球をアウトにした割合。数値が0.7ならここに飛んだらアウトという範囲がグラウンドの70%を占めるということになる。

失策の中には数は多くないものの進塁させてしまったものも含まれる。また、アウトにすることが難しい打球を多く打たれてしまう投手陣を抱えているチームや、広い球場を本拠地とするチームは数値が低めになる。そのため正確な守備力を表す指標ではなく、おおまかな守備力の目安と言える。

昨季のDER

巨 70.4%

阪 70.6%

広 69.7%

中 68.8%

De 68.3%

ヤ 67.5%

楽 69.3%

西 69.5%

ロ 68.2%

ソ 69.6%

オ 68.1%

日 68.5%

目立つのはヤクルトの67.5%。本拠地とする明治神宮は広い球場ではない。にもかかわらず12球団ワーストの数値。防御率4.26と苦しんだ戦いの要因は投手陣のみにあらず。

トップは広い上に土のグラウンドという守備の負担の大きい甲子園を本拠地にする阪神。守備と走塁を重要視した細かい野球、を掲げながら長打頼みのオーダーを組んでいた印象だったがしっかりケアしていた。12球団トップの防御率3.07を記録した投手陣をバックが支えた。

鳥谷と坂本、守備範囲が広いのは?

DERがチーム全体の守備範囲を示すのに対し個人の守備範囲を示すのがレンジファクター(Range Factor)。

RF=(刺殺+補殺)÷守備イニング×9

で計算されどれだけアウトに関わったかを示す指標。捕手はほとんどが奪三振での、一塁手はほとんどが内野からの送球を受けての刺殺となるためあまり参考にならないかもしれない。

この指標が優れているのは貢献度が測れる点。追うのを途中で諦め落ちれば安打、追いついたがグローブに当てて落とせば失策(難しい打球なら安打となるがその判断は記録員の主観による)となるが、実際の試合で重要なのはどう記録されたかよりもアウトにしたかどうか。連続無失策記録も立派だがチームへの貢献度を測るいう点ではRFに分がある。ただ、打席数や投球回と違い守備イニングはNPBのホームページでも発表されていない。そこでよく用いられるのが

簡易版RF=(刺殺+補殺)÷出場試合数

式からわかる通り途中交代、途中出場の多い選手は数値が小さくなる。こちらもDER同様、正確な守備力というよりは目安を示す指標。また、二死二塁からの安打で外野手の強肩を警戒して走者が本塁突入を控えた場合、それは紛れもなく守備での貢献だがRFの数字としては表されない。

昨季の主な選手の簡易RF

【二塁手】

西岡 4.65

荒木 5.21

菊池 6.23

藤田 5.08

根元 5.31

本多 5.78

【三塁手】

中村 2.10

村田 2.24

マギー 2.18

今江 2.19

松田 2.40

【遊撃手】

梵 4.52

鳥谷 4.78

坂本 4.96

松井 3.96

鈴木 4.20

今宮 4.91

【外野手】

マートン 1.3

バレンティン 1.69

長野 1.75

荒波 2.22

大島 2.36

糸井 1.59

内川 1.67

角中 2.13

秋山 2.26

陽 2.30

守備の評価が高い楽天・藤田だが数字の面からは守備範囲が広いとは言えない。松井も途中交代が46試合あったにせよ、レギュラーとしては物足りない数字。守備での交代が35試合あったことからもわかるように楽天の二遊間は意外と固くない。先入観に惑わされず客観的な評価が出来るのがデータの良いところ。

各年度の数字を見ても二塁手が5を超えることが多いのに対し、遊撃手は4から5の間。逆のイメージを持っている人も多いと思うが、二塁手の方が守備機会が多いことがわかる。

このようにポジションによって差があるため異なるポジションでRFを比べることに意味はない。RF2.5の三塁手より5の二塁手は守備力が倍かと言ったらそうでは無い。

同じポジションで比較すると例えばこんなことがわかる。

レギュラーに定着した2005年以降の鳥谷と2008年以降の坂本の平均値を出すと

簡易RF

鳥谷 4.68 10.2失策

坂本 4.74 16.5失策

鳥谷の堅実な守備に比べるとミスもするイメージの坂本だが、守備範囲の広さなら上を行く。2008年から2013年の6年間で途中交代は鳥谷が16試合に対し、坂本は49試合。それでも実に5年で坂本の方が数値が高い。打撃のイメージが強い坂本だが攻守共に球界を代表する遊撃手だ。

際立つ菊池の守備範囲

守備範囲の広さと言えば、昨季シーズン最多補殺記録528を樹立した広島・菊池。簡易RFは6.23を記録した。NPBのホームページで確認出来た最近9年間の二塁手で菊池を超えているのは、2005年の中日・荒木(簡易RF6.25)だけ。菊池の守備範囲は近年のプロ野球でも最高水準にあった。

昨季のセリーグ二塁手の平均簡易RFは5.65。菊池は平均的な二塁手より年間で82個多くアウトを奪ったことになる。これがどれほどの数字かと言うと、仮に菊池が82本多く安打を放っていれば215安打となりシーズン最多安打記録を更新。打率は.400(正確には.399628・・となるので4毛足りないが)となりもちろんこれも日本新記録。ニューヒーローの誕生に日本中が沸き、年俸も2400万アップどころでは済まされなかっただろう。

昨季も

「え~?その打球に追いつく!?」

「そんな体勢からそんな送球出来るの!?」

というような野性味溢れるプレーを披露してくれた菊池、宮崎県日南市でもハツラツとした動きを見せてくれるだろう。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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