コロナ禍のいま、美濃加茂市役所の建て替えで問われる「集約か、分散か」
昭和30年代から40年代にかけて高度成長期に、日本各地には様々な公共施設や建造物が建築されてきました。築50年を超えるなど公共インフラの老朽化が社会的な大きな課題となり、建て替えや、リニューアルといったものが今各地で求められています。
一方で、近年声高に叫ばれている地方創生・地域活性化も大きなテーマです。少子高齢化がドンドンと進み、人口減少に喘ぐ地方も少なくない。また中心市街地は空洞化し、にぎわいを取り戻したいと言う声は各地から上がっている。
こうした大きな社会的な背景を受け、全国各地において市役所等公共施設の建て替えがすすんでいます。「新庁舎 建設 計画」と検索を行えば、全国各地の自治体で取り組みが進んでいることが一目瞭然です。耐震性能など防災拠点としての再整備や、社会に求められる機能が時代とともに変わる中で対応をしようと再整備が進んでいます。
私の地元・岐阜県岐阜市でも市役所の建て替えが行われ、2021年から新たな市役所が完成し、使用を開始しています。本庁舎と南庁舎など複数の庁舎に分散していたものを1カ所に統合し、行政運営の効率化と災害時等の対応を行う拠点として再度整備されたものです。市立中央図書館を核とした「ぎふメディアコスモス」に隣接した18階建てで、市はこのエリアを「つかさのまち」と呼び、まちづくりの拠点に位置づけています。
また、近隣の各務原市でも新庁舎の建設が進み、羽島市役所でも新たな新庁舎が11月1日に開かれたところです。
▼岐阜県美濃加茂市の新庁舎整備
そして今、人口5.6万人の町・美濃加茂市でも市役所の建て替えの議論が盛んになっています。市の中心部には木曽川が流れ、工作機械などの製造業が栄え、また梨や柿などをはじめ農業も盛んな地区です。この木曽川沿いに立地し、築60年になる市役所庁舎の建て替えが、1月半ばに実施される市長選挙の最大の争点とも言われています。
美濃加茂市から新たな建築計画が市民に示され、各地で整備事業説明会が行われるなど新庁舎整備に向けた取り組みの真っ只中。市民に示されたのは、老朽化した市庁舎を建て壊しJR美濃太田駅前に地上6階建ての施設を新たに建築すると言うもの。現在木曽川近くに立地する現・市庁舎は洪水時の防災上のリスクもあります。
新庁舎では、豪雨災害など浸水に対応し、防災拠点機能は3階以上に配置するなどとしています。市の試算によると新たな庁舎の建築に約64億円、今後30年間の維持管理コストとして55億円の、合計120億円弱程度の予算が見込まれています。
加えて、JR駅前に建築することで、中心市街地に新たな賑わいをもたらしたい、といった意図が込められているとのこと。
新庁舎の建築にあたっては何年もかけて構想から具体的な計画を策定し、市民の声を聞きながらプランを練り上げていくものです。一方全国各地に目を向けてみると、市庁舎の改築に際して、計画の見直しが生まれています。
▼コロナ禍が問い直す、市庁舎のあり方
この2年間の新型コロナウィルス感染症の蔓延は、新たな生活様式や公共サービスのあり方を問うているのではないでしょうか。人々のライフスタイルやワークスタイルは大きく変わりました。また、スマートフォンは普及がすすみ、オンラインサービスの活用も大きく進展しています。
そうした中、兵庫県神戸市や静岡県静岡市では、アフターコロナ社会を見据えた新庁舎等のあり方に関して、検討や追加で審議が行われるなどされ、計画の見直しが進められています。
また、こうした中で島根県松江市では新庁舎建設を見直すべきだとの動きも生まれています。
岐阜県内のまちづくりに詳しく、事業評価や地域計画が専門の岐阜大学社会システム経営学環の高木朗義教授は美濃加茂市の新庁舎建設についてこう語る。
新型コロナウィルス感染症により、人々のライフスタイルは大きく変わりました。特に、これまでは効率を重視した密であることに価値がありましたが、コロナ禍では効率よりも安全・安心が優先され、疎であることに価値があるように思います。これはコロナが終息した後も変わらないでしょう。
つまり、これからは集中よりも分散に価値があるのではないか、ということです。
DXの視点からも分散させることに価値があるように思います。マイナンバーの普及が進み、住民手続きの多くはすでにコンビニエンスストアなどで書類の発行等が可能になっています。またスマートフォンも普及しています。ペーパーレス化が進み、1か所でなくてもワンストップサービスは十分可能です。
既存ストックを有効活用すると言う観点からも、市街地に点在する空き家や空きビルなどをリノベーションすることも一考です。新たに大型のハコ物を建築するのではなく、すでにあるビルや建物などを活用し、デジタル技術を生かしながらサービス提供する分散型市役所のあり方が求められているのでないかと考えます。
福岡県福岡市では、コミニケーションアプリ・LINEを活用し、粗大ごみ収集の申請受付や、道路・公園などの損傷の通報、防災情報の提供など住民サービスの窓口として機能しています。これまでは窓口に行ってなければ受けられなかった公的なサービスを、デジタル化を通じてスマートフォン等から気軽に受けられるように変わりつつあります。
さらに、公務員の働き方も柔軟に変わる時が来つつあるのではないでしょうか。
全員が集まって庁舎の中でデスクワークを行うことが一般的でしたが、リモートワークや分散しての仕事のあり方もコロナ禍を通じて受け入れられつつあります。2017年から、総務省が設定をしたテレワークデーに合わせ、各地の自治体でもテレワークやリモートワークといった取り組みが徐々に進んでいます。
また地域においては、高齢化と言う大きな地域課題も存在します。市町村合併などによって大きくなる市街地に対し、中心に立市役所まで手続きのために移動しなければならないのは大きな手間。
高齢者にもスマホは普及しつつあるとはいえ、スマートフォンのみで完結するデジタル市役所は、むしろ高齢者が取り残され不便になる恐れもあります。各地にある支所の機能を強化し、誰1人取り残さない行政サービスの窓口の拡充も必要であると考えます。
こうした状況考えたときに、業務効率と駅前の集約とする従来型の公共建築のあり方が望ましいのか。あるいは市役所そのもののDXを背景とした、分散型の新たな市役所のあり方が望ましいのか。
小さな町の市役所再建築の議論から、この先の市役所の在り方も投げかけています。