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キャプテン立川の復帰戦飾れず! シャークスに競り負けたサンウルブズの修正点は?

永田洋光スポーツライター
トップリーグオールスターズ戦での立川。3か月ぶりに復帰した(撮影/齋藤龍太郎)

キックオフからの17秒に試合は凝縮されていた!

ラグビーは机上の計算通りに戦えるスポーツではない――そんな当たり前のことを、改めて痛感させられたのが、サンウルブズが10敗目を喫した20日のシャークス戦だった。

試合を前に、サンウルブズには有利な条件がいくつも重なっていた。

ニュージーランド経由アルゼンチン行きという過酷な4連戦で、全敗に終わったもののチーフスから7点差以内負けのボーナスポイントをゲット。遠征最終戦のジャガーズ戦では、心身ともに疲労のピークに達していたにもかかわらず、終始スコアで優位を保ち、終盤に力尽きて逆転されたが、いくつもの見事なトライを奪って大きな可能性を感じさせた。

そして、日本に戻って待望のオフが明けると、共同キャプテンの1人、立川理道がチームに復帰。FWリーダーの堀江翔太、39歳にして世界最高峰リーグに挑み続ける日本ラグビーの精神的大黒柱・大野均といった“重鎮”も、過酷なツアーで成長した田村優、福岡堅樹、松島幸太朗らと合流し、1番稲垣啓太、9番田中史朗と合わせて、15年W杯で旋風を巻き起こしたメンバーが7名先発に名を連ねた。

試合会場は第2のホーム、シンガポール。

これまで高温多湿な環境に対戦相手が苦しみ、勝利までもう少しというゲームを何度も繰り広げた会場だ。おまけに、対戦相手のシャークスは5連戦目で、こちらも疲労のピークに達していると見られていた。

シャークスが、昨年度のプレーオフに出場した強豪であることを差し引いても、サンウルブズにとって今季2勝目を狙う好条件がずらりと揃っていたのだ。

試合の入りも、非常に良かった。

田村がキックオフをゆるいゴロで転がし、走り込んだ福岡がボールをキャッチして前進。最高の立ち上がりだった。

しかし――思惑通りに進んだのは、キックオフ直後まで。

福岡が持ち込んだラックから左に展開したサンウルブズは、立川にボールを持たせたが、横からシャークスNO8ダニエル・デュプレアのタックルを食らう。このとき、立川をサポートしていたのは、NO8ヴィリー・ブリッツと田中だけ。そこにシャークスFWが4人集まってボールを奪い取った。

わずか17秒間の攻防だが、サンウルブズの選手たちは次の展開に備えていて、肝心のボール確保がおろそかになっていた。逆にシャークスは、防御が手薄になることを覚悟で、連続攻撃の芽を摘みにきた。悪条件のなかで戦わざるを得ないシャークスが、覚悟を持って最初の攻防に臨んだのである。

戸惑いが広がったのは好条件に恵まれたチームで、悪条件のチームはここで「やれる!」という手応えをつかんだ。

試合を決めるエッセンスが凝縮された17秒間だった。

自分たちの強みを前面に押し出したシャークス!

2分。サンウルブズは、ターンオーバーから始まったキックの蹴り合いを上手くコントロールし、ハーフウェイライン付近でのマイボールラインアウトを獲得したが、有効なアタックには結びつけられず、田村が地域を獲得するためのキックを蹴る。

シャークスは、SOガース・エイプリルが背走を余儀なくされた。

しかし、ここでもボールを追走したのは山中亮平だけだった。

エイプリルは、ボールを捕るやカウンターアタックに転じて山中を抜き去り、そこから一気にサンウルブズ陣内に攻め込む。ラックを2つ重ねたところで、FBルワジ・ンヴォヴォが防御のギャップを猛スピードで突破して先制トライに結びつけた。

一瞬のトランジション(攻守の切り替え)で反撃に転じた瞬間に、シャークスは全力を傾注する。それが立ち上がりの重たい7失点につながったのだった。

サンウルブズも、肩を痛めて退いた堀江に替わった日野剛志が、18分にトライを返す。

発端は自陣のスクラム。そこから左に田村―立川とつないで立川が突破。確保したボールを田村がゴール前に蹴り込んで初めてシャークス陣ゴール前に攻め込んだ。そして得たペナルティキックを田中が仕掛け、連続攻撃を日野が仕上げた。

同点に追いつかれたシャークスは、自分たちの強みを前面に押し出すことを徹底する。

22分には、得意のラインアウトからモールを組んで一気に押し切り、トライを奪う。

34分には、田中が速攻を仕掛けて放ったパスがこぼれたところを拾って、WTBシブシソ・ンコシが一気に独走。それ以外の時間帯は、短く浅いパスで強力なランナーが次々とサンウルブズ防御に挑みかかり、小刻みなステップで巧妙にタックルポイントをずらす。さらにブレイクダウンで、ペナルティを覚悟で執拗に圧力をかけ、サンウルブズをしばしば慌てさせた。

高温多湿のシンガポールでシャークスを消耗させて勝利を手にするはずのシナリオが少しずつ狂いだしたのが、前半の40分間だった。

ラスト7分で4点差をどう戦うか――サンウルブズの決断は?

後半、スコアを一気に引き離してサンウルブズの集中力を断ち切りたいシャークは、何度もサンウルブズのゴール前に攻め込んだ。

サンウルブズは、ひたすら忍耐を強いられて、我慢強くディフェンスし続ける。

我慢は、11分に実を結ぶ。

シャークス陣22メートルライン付近のラインアウトから、立川、ブリッツと強いランナーをタテに走り込ませ、3つめのラックから田中が少しだけボールを持って前に出る。そこに背後からFL松橋周平が走り込んでトライを挙げたのだ。田村のコンバージョンが決まって14―21。

その後、22分に田村に替わった小倉順平がPGを決めてついに4点差に。

しかし、シャークスがサンウルブズを徹底的に分析していることは、このPG直後のキックオフに現われていた。

タッチライン際の福岡の頭上に高いボールを蹴り上げ、キャッチした瞬間に2人がかりで福岡をタッチに押し出した。03年のW杯オーストラリア大会のスコットランド戦でも、追撃のトライを奪った直後の小野澤宏時を狙ってスコットランドが同様のキックオフを蹴り、ボールを再獲得している。小柄な日本人WTBを狙ったこういうキックオフは、追い上げられた海外のチームが状況打開を試みる“必殺技”なのだ。

しかし、サンウルブズは、このピンチも耐えしのぐ。

24分、ゴールラインを背負った窮地に、立川がものすごいダッシュで相手のパスをインターセプト。ペナルティを得て事なきを得る。

33分には、長い時間ゴールラインを背負いながら、厳しいタックルを繰返してシャークスのノックオンを誘い、ピンチを脱する。

点差は4点。7分間をたっぷり使って1トライを挙げれば、サンウルブズが勝つ。

しかし、サンウルブズは、即決で勝負に出た。

ピンチをしのいで得たスクラムから、小倉が右へキックパスを蹴ったのだ。

ボールは正確な軌道を描いて江見翔太に向かって飛ぶ。さしものシャークスも、このプレーは予測しておらず、江見はまったくのフリーだった。が、捕って走れば確実にゲインできる状況に気負い込んだのか、痛恨のノックオン!

シャークスは、転がり込んだこのチャンスにトライを奪って勝利をたぐり寄せる。

9点差に引き離されたサンウルブズは、小倉がキックオフを福岡に合わせてチャンス作るが、逆に、そこから2トライを奪われて一気に決着をつけられた。

キャプテンの立川は、悔しさをにじませてこう振り返った。

「最後の10分間にミスからトライを奪われたのは反省点。しっかりと修正しなければ、これからも接戦を勝ち切れない」

そう。接戦を勝ち切る力とは、フィールドに立つ選手たち全員が、どこまで冷徹な戦術眼を持てるかにかかっている。

スーパーラグビーでの経験の差と言ってしまえばそれまでだが、練習してきたラグビーの差ではなく、身につけたスキル、知識、勝負観をどこでどう使うのかといった“応用力”で、シャークスは明らかにサンウルブズを上回っていた。

27日にチーターズを秩父宮ラグビー場に迎え撃つまで、もう準備の時間はさほど残されていない。しかし、こういうときこそ必要なのが、自分たちの強みがどこにあり、相手がしつこく攻めてきそうな弱みがどこにあるかを冷静に分析することだ。

スーパーラグビーは世界最高峰のリーグ戦である。

シーズンも終盤にさしかかった今、サンウルブズに求められるのは、これまでの苦い経験から勝利への道筋を見つけ出す「知性」、つまりは、応用力なのである。

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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