西武ライオンズのチケット売買者処分は原理原則から遊離した規制
西武がホームページで声明を出した。チケットを転売した人も、転売チケットを買った人もファンクラブから退会処分にするという。一見ファン保護のようだが、ちょっと待てと言いたい。個人の権利や経済原則から遊離しているように思える。
以下は西武のホームページからの抜粋だ。
たしかに、クライマックスシリーズ(CS)などでも、普段から応援してくれているファンが希望通りにチケットを購入できるようであれば理想だ。しかし、そのための手段として転売禁止、転売チケットの購入禁止はいかがなものだろう。
転売がまかり通る理由を考えてみよう。まずは、ネットオークションが普及し一般のファンでも転売が容易になったことが挙げられるし、その結果としての違法な営利目的でのいわゆる転売ヤーが横行していることも事実だ。しかし、もっと根本的な要因を考えてみよう。それは、チケット価格が需給バランスを反映していない、ということではないか。本来、チケット価格はもっと弾力性を持った設定であるべきだ。財の価格は需要と供給の関係で決まる。プロ野球の日々のゲームも、曜日や対戦相手で需給バランスは大きく変動する。それを平準化するために試合ごとに価格を変化させるのは当然だし、現にそれはある程度実行されている。
ということは、CSに関して言えば、もっとプライスは高くて良いのだ。Price elasticityという経済用語がある。「価格の弾力性」と訳されることが多いが、プロ野球のチケット価格を例にシンプルに述べるとこういうことだ。
一定レベルまでは、チケットを安くすればするほど多く売れる(お客がたくさん入る)。逆に、高くすれば確実に購入希望者は減るのだが、「購入希望者>球場のキャパシティ」である限り、なるべく高く設定した方が売り上げ高は伸びるし、それでも購入したいファンにとって競争率は下がる。ある意味Win Winなのだ。
「愛するチームに忠誠を誓うファンの足元を見るのか」と不快に思われる方もいるかもしれない。しかし、それは違う。すでにこれは行われているのだ。個人または、法人のチケット再販者によって。そして、これは供給が足らない以上経済学的にはごく自然な現象だ。ならば、なるべくその行為(とそれに伴う利益)を最初から正価設定に反映した方が良い。
また、チケットを転売した人、転売チケットを購入した人をファンクラブから締め出すのは行き過ぎではないか。もちろん、今回そのような処分の対象になったのはよほど悪質なケースなのだと思うが、購入した財(この場合はチケット)をどう処分するかは本質的に購入者の自由だ。実際に、都合が悪くなり行けなくなったケースもあるだろう。また、プレミア価格でもそれを購入したいというファンを悪者にして締め出して良いのだろうか。アメリカでは、ワールドシリーズのチケットなど正価の何倍にもなることはごく当たり前だ。仮にネットオークションで正価の数倍で売買されるケースがあったとしても、それが相場であるとは言えない。いや、もし概ねその価格で売買されているとすれば、それが需給バランス上適切な設定で、球団側はそれとかけ離れた廉価な設定としていることを問題視せねばならない。
もし、球団が転売と転売チケットの購入を禁止するなら、球団は購入チケットのキャンセルを受け付けるべきだし、転売ではないチケットを希望者は必ず買える環境を整備しなければならないと思う。しかし、現実にはそれは無理だ。したがって、転売や転売チケットの購入を禁止するのは、自由社会の経済力学、経済原則にそぐわないと言わざるを得ない。