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ベテラン記者の不安が的中!更なるキャンセルが決まってもMLBと選手会が合意できない理由はナニ?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
さらに2カードのキャンセルを発表したロブ・マンフレッド・コミッショナー(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【MLBが更なる1週間分のキャンセルを発表】

 選手会と労使交渉を続けていたMLBが現地時間の3月9日夜に、さらに1週間分の2カード全試合のキャンセルを発表した。これにより今シーズンは早くても4月14日以降の開幕が決定するとともに、オープン戦の全試合のキャンセルが確定的となった。

 MLBは労使交渉が妥結できなかった3月1日の時点で、開幕から1週間分の2カード全試合のキャンセルを発表し、今シーズンは通常の162試合制シーズンを運営できないことを明らかにしていた。

 しかしその後も162試合の実施をベースに選手会と交渉を続けていたが、3月8日から9日にかけて長時間の交渉の末今回も妥結に至ることができなかったため、MLBは更なるキャンセルを発表するに至った。

【3つの争点でギャップが埋まり始めた両サイド】

 それでも3月1日の交渉決裂以降、MLBと選手会の間で多少の歩み寄りがあった。

本欄でも報告しているように、両サイドの間で主な争点になっていたのは、ぜいたく税制度の限度額、最低年俸額、年俸調停権前選手対象のプール金についてだったのだが、今回の一連の交渉で両者のギャップはかなり埋まっていた。

 『The Athletic』のエバン・デルリッチ記者(すべてTwitterで確認可能)によれば、3月9日時点の両サイドの提示案は以下のようなものだった。

 まずMLB案は…

 ・ぜいたく税限度額:2億3000万ドル(2022)、2億3300万ドル(2023)、2億3600万ドル(2024)、2億4000万ドル(2025)、2億4200万ドル(2026)

 ・最低年俸:70万ドル(2022)、71.5万ドル(2023)、73万ドル(2024)、75万ドル(2025)、77万ドル(2026)

 ・プール金:4000万ドル

 一方で選手会案は…

 ・ぜいたく税制度限度額:2億3200万ドル(2022)、2億3500万ドル(2023)、2億4000万ドル(2024)、2億4500万ドル(2025)、2億5000万ドル(2026)

 ・最低年俸:70万ドル(2022)、78万ドル(2026)*2023~2025年は不明

 ・プール金:6500万ドル

 3月1日時点よりも、かなり両サイドの額が近づいているのが理解できるだろう。

【新たに浮かび上がってきた国際ドラフトとFA補償制度】

 だが交渉が続く中で、別の争点が両サイドの間で問題になってきた。それが国際ドラフト制度とFA補償制度(クォリファイングオファーによるドラフト指名権の譲渡)だ。

 これら2点についても継続的に協議されてきていたのだが、3月9日の交渉終盤でMLBから3つのオプションが提示され、これらの1つを選手会が受け入れないと交渉を継続しないという事態になった。

 ちなみに選手会の立場は、国際ドラフト制度導入に反対し、FA補償制度の廃止を求めている。

 ・オプション1:ドラフト補償制度を廃止し、国際ドラフト制度について審議し、今年の11月15日までに選手会が国際ドラフト制度を受け入れないのであれば、2024年シーズン終了後に再び労使協約について交渉する

 ・オプション2:国際ドラフト制度導入を見送り、FA補償制度も継続

 ・オプション3:FA補償制度を廃止し、国際ドラフト制度を導入する

 これに対し選手会はすべてのオプションを拒否した上で、「今シーズンはFA補償制度を撤廃し、11月15日までに国際ドラフト制度に合意できなかった場合はFA補償制度の復活と現行の国際アマチュア選手制度の継続」という妥協案を提示したのだが、今度はMLBがこれに同意しなかったため、最終的にさらに1週間のキャンセルが決まったというのが、今回の交渉の流れだ。

【ベテラン記者が示唆していた不安が的中】

 更なる1週間分のキャンセル発表に合わせ、ロブ・マンフレッド・コミッショナーは声明を発表し、「業務上日程的な現実を考慮し、さらに2カードを中止することになった」と説明しているが、これに対し選手会は「更なるキャンセルはまったく不必要なものだ」と真っ向から反発している。

 実は、MLBを取材するメディアの中で重鎮の1人として知られる、ESPNのティム・カークジャン記者は3月2日の時点で、今回の労使交渉について以下のような不安を口にしていた。

 「1981年のストライキの際の争点はFA制度だけだった。また1990年のロックアウトの際は年俸調停であり、さらに1994~1995年のストライキの際もサラリーキャップと争点が限られていた。

 しかし今回はあまりに多くの争点を抱えており、それらをすべて解決しなければならない。それが実現できない限り、キャンセルはまだまだ続くだろう」

 カークジャン記者の指摘通り、今回の労使交渉はあまりに争点が多すぎるため、それが複雑に絡み合い1つの争点で歩み寄っても、また別の争点で衝突するということを繰り返している。

 米メディアによれば、MLBと選手会は国際ドラフト制度とFA補償制度についても引き続き協議していくようだが、これが合意できない限り、前に進めそうにない状況だ。

 とにかく引き続き労使交渉を見守っていくしかなさそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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