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「いかりや長介が志村けんに送った最後の手紙」はデマ。内容は『白い巨塔』の遺書のパロディ

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門
投稿されたデマ。記事執筆時点で9,000RT以上。筆者キャプチャ

 『Twitter』で3月30日に投稿された「いかりや長介さんが生前最後に送った志村けんさんへの手紙を思い出して泣いてる」とのツイートが9,000リツイート以上されており話題ですが、手紙の内容はデマです。

志村けんさんの訃報を受けて流れたデマ

 デマのツイートは新型コロナウイルスに感染し、3月29日夜に亡くなられた志村けんさんのニュースを見て投稿されたものと思われます。

 ツイートはどこかのWebサイトのページをキャプチャしたもので、内容は次のとおり。

志村へ

この手紙をもって

俺のコメディアンとしての

最後の仕事とする。

まず、

俺の芸能人生を解明するために、

DVDを買うようお願いしたい。

以下に、

コントについての愚見を述べる。

コントを考える際、

第一選択はあくまで

「笑いを取れば勝ち」

という考えは今も変わらない。

しかしながら、

現実には若手芸人の多くがそうであるように、

他人をバカにして笑いを取ったり、

素人にツッコミを入れるだけで

内輪受けに走っている事例が

しばしば見受けられる。

その場合には、

企画段階から綿密な計算と準備が必要となるが、

残念ながら未だ満足のいく

コントには至っていない。

これからのコントの復活は、

綿密な企画立案、

それとライブの復活にかかっている。

俺は、

志村がその一翼を担える

数少ない芸人であると信じている。

能力を持った者には、

それを正しく行使する責務がある。

志村には

コントの発展に挑んでもらいたい。

遠くない未来に、

素人いじりや他人をこき下ろすコメディが

この世からなくなることを信じている。

ひいては、

俺のネタを研究した後、

計算された笑いの一石として役立てて欲しい。

リーダーは活ける師なり。

なお、

最後に、

お笑い芸人でありながら、

多数の人を泣かせて旅立ったことを、

心より恥じる。

いかりや長介

出典:投稿された「最後の手紙」

 この文章を読んで感動している人もいるようですが、残念ながらこれデマなんですよ。

『白い巨塔』の遺書のパロディ

 上記の文章は、ドラマ『白い巨塔』の登場人物である財前五郎の遺書を改変したものです。

 文章を見るかぎり、2003年に唐沢寿明主演で放送されたドラマ『白い巨塔』の最終回のエンディングで流れたものと思われます。

 遺書の内容は次のとおり。

里見へ

この手紙をもって、僕の医師としての最後の仕事とする。

まず、僕の病態を解明するために、大河内教授に病理解剖をお願いしたい。

以下に、癌治療についての愚見を述べる。

癌の根治を考える際、第一選択はあくまで手術であるという考えは今も変わらない。

しかしながら、現実には僕自身の場合がそうであるように、発見した時点で転移や播種(はしゅ)をきたした進行症例がしばしば見受けられる。

その場合には、抗癌剤を含む全身治療が必要となるが、残念ながら、いまだ満足のいく成果には至っていない。

これからの癌治療の飛躍は、手術以外の治療法の発展にかかっている。

僕は、君がその一翼を担える数少ない医師であると信じている。

能力を持った者には、それを正しく行使する責務がある。

君には癌治療の発展に挑んでもらいたい。

遠くない未来に、癌による死が、この世からなくなることを信じている。

ひいては、僕の屍を病理解剖の後、君の研究材料の一石として役立てて欲しい。

屍は生ける師なり。

なお、自ら癌治療の第一線にある者が早期発見できず、手術不能の癌で死すことを、心より恥じる。

財前五郎

出典:ドラマ『白い巨塔(2003)』より。財前五郎の遺書

 見比べてみれば、パロディであることは明らかです。

もともとは「財前コピペ」と呼ばれているもの

 ちなみにこの「いかりや長介が志村けんに送った最後の手紙」は、「財前コピペ」と呼ばれているもののひとつです。

 「財前コピペ」とは財前五郎の遺書の内容を個人が勝手に改変したもので、さまざまな投稿をまとめたサイトが存在していたりもします。

 要するにインターネットで昔のネタが消えることなく、志村けんさんが亡くなられたと報じられた今日、注目を浴びて復活したというのが今回の流れです。

 デマのツイートを投稿した人も騙された人のひとりであるわけですが、送っていない内容の手紙を送ったと広めることは死者を冒涜する行為だと筆者は考えます。

 内容に感動しようがしまいが、拡散するのはやめましょう。

ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。スマホ、ネットの話題や炎上などが専門。ファクトチェック団体『インファクト』編集員としてデマの検証も行っています。最近はYouTubeでの活動も。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

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