北朝鮮の次のミサイル発射は「来年2月」の可能性
北朝鮮が2カ月以上にわたり弾道ミサイルを発射していないことについて、韓国の国家情報院は16日、「ミサイルを大気圏に再突入させる技術を確保できないため」とする内容の報告を国会で行った。またこれに加え、経済制裁の影響や、頻繁にミサイルを発射したことで、財政状況が悪化したことも理由として挙げている。
確かにそのような面があるのかもしれないが、筆者はその他の要因が強いような気がしている。
北朝鮮は9月15日、中距離弾道ミサイル「火星12」を太平洋に向けて発射したのを最後に、この約2カ月間、いかなるタイプのミサイルも発射していない。今年に入り、中距離弾道ミサイルの「北極星2」と「火星12」、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」の発射を立て続けに成功させ、8月には米グアム周辺に向けた「包囲射撃」計画をぶち上げていたにもかかわらずだ。
それだけに、この「静けさ」に何らかの意味を求めたくなる気持ちは分かる。たとえば米紙ワシントン・ポスト(電子版)は9日、北朝鮮が核実験とミサイル発射を60日間凍結すれば、米政府が直接対話に応じることを検討していると伝えた。
これは、米国務省のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表が、10月30日に米有力シンクタンク「外交問題評議会」(CFR)で行ったオフレコ講演で語ったものだという。
毎年10-12月に発射が激減
ただ、「60日間」は北朝鮮が凍結を表明して以降の日数であるため、まだカウントは始まっていない。それでも、現在の「静けさ」がなければ、オフレコであっても語れる内容ではなかっただろう。
しかし過去のデータを見た限りでは、この「静けさ」から、北朝鮮の意思の変化を読み取る余地はなさそうだ。
米ジェームス・マーティン不拡散研究センターのシェア・コットン研究員によれば、金正恩政権が実質的に立ち上がった2012年以降、毎年10月-12月の3カ月間は、北朝鮮のミサイル発射回数が大きく減少しているのだ。コットン氏によれば、1月から12月までの四半期ごとの発射回数の平均は次のとおりだ。
第1四半期(1-3月) 4.3回
第2四半期(4-6月) 4.8回
第3四半期(7-9月) 4.2回
第4四半期(10-12月) 0.8回
国家的な記念日との関係
コットン氏はこのような傾向が表れている理由について、「確信はできないが、北朝鮮が秋の収穫や越冬準備に資源を当てるためではないか」と述べる一方、「単なる統計上の異常で、私の推測は完全な間違いかもしれない」として、数字上の偶然である可能性も指摘している。
しかし、こうしたデータ上の傾向が偶然の産物ではないと考える理由が、「越冬準備」以外に少なくとも2つある。
ひとつは、北朝鮮の国家的な記念日との関係だ。北朝鮮において、重要とされている記念日は次の8つだ。
- 1月 8日 金正恩党委員長の誕生日
- 2月 8日 朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の創建記念日
- 2月16日 故金正日総書記の誕生日
- 4月15日 故金日成主席の誕生日
- 7月27日 朝鮮戦争での戦勝記念日(実際には休戦)
- 8月15日 日本からの解放記念日
- 9月 9日 建国記念日
- 10月10日 朝鮮労働党の創建記念日
ついでに「国威発揚」を狙う
見ての通り、第4四半期には10月10日の党創建記念日ひとつしかない。また、これらのうちでもとくに重要とされているのが歴代の最高指導者の誕生日であり、1年の前半に集中している。ちなみに、金正恩党委員長の誕生日は公式の誕生日とはなっておらず、暗黙の了解で「大事な日」とされているだけだが、金正日氏と金日成氏の誕生日には大規模な行事が開かれる。
北朝鮮は基本的に、核やミサイルの開発スケジュールに従って実験を繰り返しているのであり、必ずしも記念日に合わせて行うとかは限らない。ただ、「どうせやるなら利益を最大に」との合理的な考え方から、記念日と近いタイミングで実験を行い、国威発揚につなげている様子もうかがえる。
そういった点で、第4四半期にミサイル発射が減少するとの傾向を見せるデータには、いくらかの必然性が見て取れるのだ。
北朝鮮軍は「冬」に動き出す
そして、そのようなデータ上の傾向が偶然とは思えないもうひとつの理由は、北朝鮮や米韓の軍事活動のスケジュールにある。
北朝鮮は例年、11月から12月にかけて中隊(約150人)規模の冬季訓練を開始する。1月に入ると、これが数百人から1,000人前後の大隊規模に拡大し、2月に近づくと10,000人余りの師団規模となる。そして、3月には30,000~50,000人の軍団規模にまで拡大し、陸・海・空軍と特殊部隊による合同演習を実施。ここで有事に対する即応力が最大になり、この態勢が秋まで維持されるのだ。
こうした北朝鮮側の動きに対応し、米韓連合軍も春に「フォールイーグル」と「キーリゾルブ」、秋口に「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーディアン」といった合同軍事演習を実施している。
年内に発射する可能性は低い
とくに2カ月にわたる野外機動演習である「フォールイーグル」には、米本土などからも部隊が参加し、その規模は数十万人にもなる。北朝鮮の軍事的野心をくじくためのものではあるが、北朝鮮もまた、毎年繰り返される米軍の大量動員に恐怖を感じているのは確かだ。
北朝鮮はそうでなくとも、通常戦力で米韓に圧倒されている。そのため、核・ミサイル実験を行うなら、自軍の即応力が高まっている第1~第3四半期が安全と考えている可能性がある。また、米韓の脅威に対抗し、威嚇と抑止を行う必要からも、この時期にミサイル発射を集中して行う方針を取っているのかもしれない。
このように見ると、北朝鮮が2017年末までに、核実験や本格的な弾道ミサイル発射を行う可能性は低いと言えそうだ。
来年2月、「日本列島越え」か
しかしこの間も、北朝鮮メディアは核・ミサイル開発の続行を繰り返し強調している。早ければ2018年の1月半ば、遅くとも2月中旬には、ミサイル発射が始まる可能性が高い。
しかも2018年には、弾道ミサイルが日本列島を飛び越えて、太平洋に着弾するコースで発射実験が行われるケースが増えることが考えられる。北朝鮮は、グアム周辺への「包囲射撃」や太平洋上での水爆実験構想をいまだ撤回していないためだ。
さらに共同通信が11月5日付で報道したところでは、トランプ米大統領は8~10月に東南アジア諸国の首脳らと話し合った際、北朝鮮の「火星12」が北海道上空を通過して太平洋に着弾した件に触れ、「なぜ(日本は)撃ち落とさなかったのか。サムライウォリアーズの国なのに理解しがたい」と不満を表したという。
トランプ氏の本気度や技術的な難しさの問題はあるが、日本政府としても、いつまでも上空通過を座視しているわけにはいかないだろう。とはいえ、迎撃を期して北海道方面にイージス艦などをシフトすれば、北朝鮮が、本州上空やより南方のコースで発射する懸念も出てくる。
(参考記事:いずれ来る「自衛隊が北朝鮮の潜水艦を沈める日」)
そうなれば、北朝鮮からのミサイル飛来を告げるJアラート(全国瞬時警報システム)の鳴り響く地域と回数が、いっそう増える事態になるかもしれない。