26年目にして明かされるBOφWYの真実
BOφWY未発表ライヴ作品を聴いた!
氷室京介、布袋寅泰、松井恒松、高橋まことの4人のメンバーからなる、80年代を駆け抜けた日本を代表するロックバンドBOφWY(ボウイ/※バンド名を「BOφWY」と表記していますが、2つ目のOには/付きが正式表記となります)をご存知だろうか? BOφWY はミリオンセールスを記録した全盛期をむかえた1987年12月24日のクリスマスイヴに、渋谷公会堂にて電撃的に解散宣言をおこなっている。ゆえに、ファンの間でクリスマスイヴはBOφWYの日という認識で記憶され続けているのだ。
BOφWYが大ブレイクしたきっかけのひとつに、ライヴアルバムの存在がある。氷室による「ライヴハウス武道館へようこそ!」の名MCは、ロックファンの間で知らない人は少ないだろう。そのメッセージが収録された永遠の名作ライヴ盤『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986』が、発表から26年の歳月を経て2012年12月24日に、高音質Blu-specCD2仕様『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986 NAKED』〈EMIミュージック・ジャパン〉として生まれ変わることになった。
これまで本作は、大ヒット作ながらファンの間では知る人ぞ知るライヴ+オーヴァーダビングが施された作品として知られていた。しかし、今回メンバーの承諾を得て、初めてありのままの姿で完全版『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986 NAKED』が披露されることとなった。BOφWYブレイクのきっかけである初の武道館公演で、何が行なわれていたのか? その秘密を本日発売されたアルバムを聴きながら解き明かしたいと思う。
BOφWY大ブレイクの秘密とは?
BOφWYの魅力とは? ズバリその答えは「ライヴ」にあろう。初の武道館ワンマンライヴでおこなわれた音源を『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986』と名付け、10万枚限定のライヴアルバムとして26年前にリリースされたことは、その裏付けとなっていたのかもしれない。BEST盤にも近い、当時最高な選曲でリリースされたアルバム作品は、ライヴアルバムが売れないと言われた日本で、異例のビッグヒットを記録した。5面開きの完全限定生産なBOX仕様だったこともあり、商品はプレミア化し、中古市場では数十倍の価格が付けられ、80年代ロックムーブメントを語るうえで欠かせないアイテムとなったのだ。さらに、バンド解散後の1989年クリスマスイヴには、ファンからの熱い要望によりCDで再発され、ミリオンセラーを記録している。
「ライブハウス武道館へようこそ!」。21世紀の今でも伝説として語り継がれる氷室による『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986』に収められたMCは、1986年7月2日、日本武道館公演で叫ばれたものだ。それこそBOφWYに影響を受けたミュージシャンが武道館公演に挑むとき、このMCを喜んで真似をする姿をこれまで何度も見てきた。ライヴによって高まる熱量をファンとの一体感として言語化するキャッチーなフレーズ。BOφWYは、その緻密に構成されたサウンドはもちろん、デザイン性の高いヴィジュアルイメージ、記憶に残り続けるMCという、五感を刺激する総合的な魅力でファンを魅了してきたのだ。
編集を加えていない完全版=NAKED仕様の存在
1986年当時、それまでの地道なライヴ活動が実り、4thアルバム『JUST A HERO』のヒットによりブレイクの兆しをみせていたBOφWY人気を、さらに熱く盛り上げたのが日本武道館公演であり、メンバーの意向で、より高い完成度を目指すためにシーケンスをオーヴァーダビングし、公演からたった一ヶ月でファンの元に届けられたのが“祝祭感の強いライヴアルバム”『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986』であった。
そもそも『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986』のコンセプトは、“BOφWYによる初のベストアルバム”だったという。興味深いのが、当時ライヴ音源にエディットを試みたことについて布袋が「キカイ物とかキーボードとか重ねることで、ハイグレイドな作品にしたかった」と語られていたことだ。氷室も当時の取材で「おれたちライヴバンドだからベスト盤はライヴで出したかった。スタジオ録音じゃないライヴでの録音を素材にしたオリジナルアルバムっていうかさ……」とコメントを残している。スタジオ盤はあくまでライヴの土台であり、さらにライヴ盤を素材としてスタジオ仕様に具現化した作品。そんなコンセプチュアルな考えが『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986』にはあったのだろう。その読みは見事にあたり、“BOφWYのライヴ盤『GIGS』がすごい!”というクチコミが拡散され、キャリアを語るうえで欠かせないドキュメントとなった。
そして、あれから26年……。2012年のクリスマスイヴにリリースが決定した高音質Blu-specCD2仕様(高音質CD)の『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986 NAKED』。これまで、同名タイトル作品には、セレクトされた12曲(49分)しか収録されていなかったが、全曲のマルチが発見されたことにより、編集を加えていない完全版=NAKED仕様(全19曲/79分)がリリースされることになったことは、日本ロックシーンにおいて大きな事件といえるだろう。
選曲や編集など、新旧の違いとは?
まるでSF映画のようなSE「PROLOGUE」によって会場の温度が高まっていくオープニングの瞬間。スタジオ盤に忠実であったシーケンスのオーヴァーダビングが消えたNAKEDな「BAD FEELING」によってGIGはスタートする。スタジオで緻密に作り込まれたニューウェーヴ・サウンドが魅力だったアルバム『JUST A HERO』ヴァージョンとは異なり、疾走感が魅力な「ROUGE OF GRAY」の破壊力、そしてアヴァンギャルドなギターサウンドが映える「BLUE VACATION」も、聞き慣れた『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986 』とは異なる、4人だけによるライヴ・サウンドが耳に新鮮だ。さらに驚くべきは「JUSTY」、「BABY ACTION」での圧倒的なスピード感とライヴならではの駆け引きを感じられるバンドグルーヴだろう。ヴォーカルとギターはもちろん、ベースやドラムにも耳がいくBOφWYサウンドの妙。日本で一番コピーバンドを多く生んだという逸話は、間違いではないはずだ。
さらに『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986』には未収録であった、ライヴならではのイントロが絶妙な「GIVE IT TO ME」、松井によるキーボード・プレイがキャッチーな「LIKE A CHILD」、ギミック感満載だったスタジオ盤をテクニックでライヴ表現していく「1994-LABEL OF COMPLEX」などが収録されていることに注目したい。そして、そんな『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986 NAKED』の一番の聴き所は、ラストへ向けて「夢を見ている奴らに送るぜ!」のフレーズが熱い「DREAMIN'」から、イントロのライヴ・アレンジがテンションあがる「INSTANT LOVE」、伝説のMC「ライヴハウス武道館へようこそ!」がフルで聴ける「IMAGE DOWN」、まさかの初期人気ナンバー「TEENAGE EMOTION」へと、畳み掛けるようにオーディエンスの魂を開放していく終盤にあるだろう。そして、本編ラストの「JUST A HERO」に続く、アンコール後にはBOφWYの音楽性の高さが1986年時点でいかに成熟していたかを体感させてくれる名曲「DANCING IN THE PLEASURE LAND」へと展開されていくのだ。
コアファン視点ではあるが、「NO.NEW YORK」に続いてアンコール後のラストナンバーだと思われていた「JUST A HERO」が、実は本編ラスト曲であり、「TEENAGE EMOTION」の長いアウトロと繋がっていた事実に驚かされた。1986年の『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986』時代は、音楽メディアが片面20分強収録で、A,B面が存在するLPレコード・メディアだったがゆえの編集アイディアだったのだろう。
あの名MCは実は3度叫ばれていた!
『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986』での、「IMAGE DOWN」でお馴染みのコール&レスポンスは、CDとは異なるレコード・メディアによる収録時間の都合で短くエディットされていたが、『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986 NAKED』では完全ノーカット収録されている。ここでは「ライブハウス武道館へようこそ!」のMCが氷室によって、2度ではなく、3度叫ばれていた事実を確認出来る。
他にも、ファンクチューン「1994-LABEL OF COMPLEX」から、実はクリスマス・ナンバーとして生み出されていた隠れた名曲「WELCOME TO THE TWILIGHT」への繋ぎ部分など、完全版ならではの美味しい快楽ポイントをチェックしたり、『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986』と聴き比べ、シーケンスの有無や息遣いの違いに耳をすましながら検証することも、音楽の楽しみ方として味わい深いものだ。歴史的名作『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986』に施された魔法、その回答が『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986 NAKED』には秘められている。そして、21世紀の今から顧みれば、どちらも熱量の高い傑作ライヴアルバムとして楽しめることが興味深いのだ。
以上、BOφWY30周年記念としてリリースされた、日本で一番カッコ良いバンドの歴史的瞬間を記録した、ありのままのライヴ音源。全19曲、79分の奇蹟のロックショー。2012年12月24日のクリスマスイヴは、BOφWYとともに時を超えて、大きなビートの木の下で踊りあかしたいと思う。