お子様の発明の特許化を検討されている保護者への手引き
「ばんそうこうの常識に小学生が革命 世界発明大会で受賞したアイデア」という記事を読みました。小4女子が発明した貼りやすいばんそうこうが、2022年の世界青少年発明工夫展で銅賞を受賞したという話です。コメント欄で「特許を取っては」といった声が聞かれます。これ以前にも、小学生が特許を取ったといったニュースはよくありました(参照記事)。小学生の発明であっても、本当に良いアイデアであれば摸倣されるリスクがあります。摸倣を防ぐため、ライセンスで収益を得るため、そして、子供時代の良い記念としても特許取得にチャレンジする意義はあるでしょう。本記事では、保護者の方に向けてお子様の発明の特許化のポイントについてまとめてみました。
代理人について
未成年者でも自ら発明をすれば特許を受ける権利が得られますが、手続は法定代理人(通常は、親)が行う必要があります。通常は、さらに弁理士を代理人として委任し出願手続を進めることになります。この場合でも、特許の発明者、出願人、そして、(特許登録された場合の)特許権者は未成年者本人になります(特許証には本人名義がクレジットされます)。
発明者自身による出願前の発明の公表について
未成年者に限った話ではないですが、特許出願前にコンテスト等で発表してしまうと新規性が失われます。ごく希に「この商品は何年も前から売ってきたが最近模倣品が増えてきたので特許化したい」といった相談を受けることがありますが、本人の販売によっても新規性は失われているので、それは不可能です(未発表の新機能があり、その新機能について特許化したいという場合はまた別ですが)。
しかし、これにも救済規定があり、発明者自身による公表であり、かつ、最初の公表から1年以内であれば、その公表を理由に新規性・進歩性を否定されることはありません(もちろん、第三者が偶然同じアイデアを先に公表・出願していた場合は別です)。出願時に手続が必要(後付けで追加は不可能)なので、必ず出願時に弁理士に指示してください。
また、1年の猶予期間があるからと言って、公表から出願までの間に第三者が同じアイデアを出願するとやっかいなことになるので、1年間余裕があるからと待つのでなく、なる早で出願すべきです。なお、この救済規定を使うと米国以外の外国での特許化が困難になり得るので、可能であれば発明の公表前に出願しておくことが好ましいです。
費用について
特許出願の費用は特許庁に支払う料金(印紙代)と代理人弁理士に支払う手数料に分けられます。印紙代では出願審査請求料(特許庁での審査作業に要する費用)の占める割合が大きく、15万円程度になり得ますが、住民税非課税の人(年収150万円以下の人)は全額免除になります(併せて特許料も免除または軽減となります)。ほとんどの未成年者はこの条件にに当てはまると思われますので費用面は多少楽です(なお、未成年者に限らずたとえば専業主婦などや学生など住民税非課税の人であれば免除の対象になります)。
弁理士費用は決まった金額があるわけではなく、弁理士次第ですが特許化までの費用総額の相場は25万円から50万円くらいではないかと思います。小中学生の発明であれば、具体的な発明品ができあがっているケースが多く発明の内容もわかりやすいと思いますし、プロボノ的な意味合いもありますので比較的安価で受任してくれる弁理士もいるのではと思います。
特許化までの期間について
出願審査請求は出願日から3年以内に行えばよいので、企業による出願では、ある程度の期間、寝かせておいて競合他社の牽制としたり、事業と特許の整合性について時間をかけて検討することがよく行われますが、未成年者の出願の場合は、あまりそういう要素はなく、かつ、上記の通り、審査請求の印紙代も不要なので、早期に出願審査請求を行うと共に早期の特許化を目指すケースが多いでしょう。出願人が個人の場合には早期審査請求を行うことができます。早期審査請求が認められれば、通常、数カ月程度で結果が出ます。
実用新案について
一般に、シンプルな物の構造に関する小発明が実用新案として出願されることがあります。特許と比較して、実用新案は無審査主義である点が特徴であり、新規性・進歩性などの実体的要件はチェックされず早期(2カ月程度)に登録されます。実体的要件は権利行使する時に求められれる技術評価請求(審査請求のようなもの)を行うことで審査されます。
実用新案は特許と比較して安価かつ早期に権利が登録される点でメリットがありますが、未成年者の発明のケースでは、上記のとおり審査請求料金がかかりませんし、早期審査請求もできるので、費用的・時間的メリットはあまり大きくありません。また、実用新案登録されただけでは、発明(考案)に新規性・進歩性があることの特許庁によるお墨付きを得たとは言えませんので、記念のために登録するという意義が薄くなってしまいます。チャレンジするなら普通に特許として出願した方が良いと思います。