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ビタミンEでアトピー性皮膚炎が改善?遺伝子研究が明かす新事実

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Grokにて筆者作成

【アトピー性皮膚炎と抗酸化ビタミンの関係性】

アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う慢性的な炎症性皮膚疾患です。この病気は、先進国の子どもの20%、大人の10%が罹患しているとされ、その発症率は世界中で増加傾向にあります。

近年、アトピー性皮膚炎と酸化ストレスの関連性が注目されています。酸化ストレスとは、体内の酸化物質と抗酸化物質のバランスが崩れた状態のことを指します。アトピー性皮膚炎患者さんの血液や皮膚では、健康な人に比べて酸化ストレスのマーカーが高く、抗酸化物質の濃度が低いことが分かってきました。

このような背景から、抗酸化物質の摂取がアトピー性皮膚炎のリスク低下や症状改善につながるのではないかと考えられるようになりました。しかし、これまでの研究では、抗酸化ビタミンの摂取とアトピー性皮膚炎の関係について、一貫した結果が得られていませんでした。

【最新の遺伝子研究が明らかにした驚きの事実】

今回、中国の研究チームが行った最新の研究では、メンデルのランダム化という手法を用いて、食事からの抗酸化ビタミン摂取とアトピー性皮膚炎の因果関係を調べました。この手法は、遺伝情報を利用して、環境要因(この場合はビタミン摂取)と疾患(アトピー性皮膚炎)の関係を調べる方法です。

研究では、ビタミンC、ビタミンE、カロテン、レチノールという4つの抗酸化ビタミンに注目しました。これらのビタミンの摂取量に関連する遺伝子情報と、アトピー性皮膚炎の発症に関連する遺伝子情報を比較分析しました。

その結果、ビタミンEの摂取がアトピー性皮膚炎のリスクを下げる可能性があることが分かりました。具体的には、ビタミンEの摂取量が増えると、アトピー性皮膚炎のリスクが0.745~0.992倍に減少する可能性があることが示されました。

一方で、ビタミンC、カロテン、レチノールの摂取とアトピー性皮膚炎の発症リスクには、明確な因果関係は見られませんでした。

【ビタミンEがアトピー性皮膚炎に効果的な理由】

ではなぜ、ビタミンEがアトピー性皮膚炎に効果的なのでしょうか。

ビタミンEは、細胞膜を構成する脂質の酸化を防ぐ働きがあります。アトピー性皮膚炎では、皮膚のバリア機能が低下していることが知られていますが、ビタミンEはこの皮膚バリアを酸化ストレスから守る役割を果たしていると考えられます。

また、ビタミンEには免疫系を調整する効果もあります。アトピー性皮膚炎患者さんの血液中のIgE(アレルギー反応に関与する抗体)の濃度が、ビタミンEの摂取によって低下したという報告もあります。

さらに、ビタミンEは脂質の過酸化を抑制する作用があります。アトピー性皮膚炎患者さんでは、皮膚のセラミドや脂肪酸、コレステロールが減少していることが知られていますが、ビタミンEはこれらの脂質を酸化から守ることで、皮膚のバリア機能の維持に貢献していると考えられます。

この研究結果は、アトピー性皮膚炎の予防や治療において、食事の重要性を改めて示唆するものです。特に、ビタミンEを意識的に摂取することが、アトピー性皮膚炎のリスク低下につながる可能性があることは注目に値します。

【ビタミンEの摂取と今後の展望】

ビタミンEは体内で合成することができないため、食事から摂取する必要があります。しかし、世界的に見ると、多くの人がビタミンEを十分に摂取できていないのが現状です。特に、新生児や子どもの不足率が高いことが報告されています。

アジアの人々を対象とした調査では、乳幼児の67%、子どもと青年の80%、成人の56%、高齢者の72%、妊婦の72%がビタミンE不足であることが分かっています。これは、アトピー性皮膚炎の有病率が高い年齢層と重なっており、非常に興味深い事実です。

ビタミンEを多く含む食品としては、ナッツ類(アーモンド、ヘーゼルナッツなど)、種子類(ひまわりの種、かぼちゃの種など)、植物油(オリーブオイル、グレープシードオイルなど)、緑黄色野菜(ほうれん草、ブロッコリーなど)があります。これらの食品を日々の食事に取り入れることで、ビタミンEの摂取量を増やすことができます。

ただし、この研究結果はあくまでもビタミンEの摂取とアトピー性皮膚炎の関係性を示唆するものであり、直接的な因果関係を証明したわけではありません。また、ビタミンC、カロテン、レチノールについては、アトピー性皮膚炎との明確な関連性は見られませんでした。

NapkinAIにて筆者作成
NapkinAIにて筆者作成

今後は、ビタミンEの摂取量や血中濃度とアトピー性皮膚炎の症状の関係について、さらに詳細な研究が必要です。また、ビタミンEのサプリメント摂取がアトピー性皮膚炎の治療に有効かどうかを検証する臨床試験も期待されます。

アトピー性皮膚炎でお悩みの方は、過度な期待は禁物ですが、バランスの取れた食事を心がけ、ビタミンEを含む食品を適度に摂取することをおすすめします。ただし、食事療法だけでアトピー性皮膚炎を治すことは難しいため、症状が気になる場合は必ず皮膚科を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。

今回の研究結果は、アトピー性皮膚炎の新たな予防法や治療法の開発につながる可能性があります。ビタミンEを中心とした栄養療法が、従来の治療法と組み合わせることで、より効果的なアトピー性皮膚炎の管理につながることが期待されます。今後の研究の進展に注目が集まります。

参考文献:

Wang S, Dan W, Wang Z, Sun Y, Zhang G. Causal relationships between dietary antioxidant vitamin intake and atopic dermatitis: A two-sample Mendelian randomization study. Skin Res Technol. 2024;30:11111. https://doi.org/10.1111/srt.13883

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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