「I will Survive」はムーアの法則にも当てはまる
「I will Survive(生き残ってやる)」。1980年代のディスコを席巻した歌の一つだ。グロリア・ゲイナーが歌う失恋から立ち上がるその歌は、ディスコテック・ロックの一つとして今でも米国のイベントで流れることが多い。
半導体の世界でもムーアの法則は生きていた。半導体チップに集積されるトランジスタの数は、18~24カ月で倍増する、というムーアの法則だ。ムーアの法則は、もともと半導体企業の先駆者であった米Fairchild Semiconductor(現在はON Semiconductorに買収された)に在籍していたゴードン・ムーア氏が1965年、市場に出ている半導体チップのトランジスタ数は毎年2倍に増えているという経済法則を見つけたことから、言われ出した。
図1は、半導体回路に集積されるトランジスタ数の推移を単純に描いたものだ。縦軸は対数スケールであるから、対数で直線だということは年率何%あるいは何倍で伸びているという意味である。これは市場調査会社のIC Insightsがグラフ化したもの。ムーアの法則はもう成り立たない、と言われながら、なぜ続いているのか?
もちろん、データに偽りはない。ムーアの法則は、毎年2倍から12~18カ月に2倍、あるいは18カ月から24カ月に2倍というように言われるようになり、少しずつ形を変えていった。
最も顕著な変化は、微細化=ムーアの法則、といった捉え方をされるようになったことだ。数nm以下になると、ムーアの法則は死ぬと言われていた。トランジスタ数ではなく微細化技術をムーアの法則と指すようになった。
なぜそうなったか。1980年頃、IBM T. J. Watson研究所にいた、ロバート・デナード(Robert Dennard)博士が打ち立てたスケーリング理論(最近ではデナードの法則という言葉も登場している)に基づいている。これは、MOSトランジスタのドレイン電流が、WuC/L*V2に比例する1次元動作近似をベースにして、トランジスタの寸法を表すW(ゲート幅)、L(ゲート長)、u(キャリヤ移動度)、C(ゲート容量)を比例縮小したら、動作速度や消費電力がどちらも好ましい方向に行くことを理論づけた。
この理論によれば、微細化すればするほど性能は上がり消費電力が下がるという幸運な特性を持つことがわかった。このため、MOSトランジスタの微細化技術はどんどん進んでいった。半導体の高集積化にとって微細化は常識になった。このため、28nmくらいまでは、ひたすら微細化してきた。言葉が変質したのは、半導体製造のITRS(International Technology Roadmap for Semiconductors)ロードマップの指針であろう。ITRSは、微細化が限界に近づいたから、ムーアの法則は成り立たなくなってきた、と表現した。このため、10年前には「More Moore」や「More than Moore」と言われるようになった。すでに「微細化=ムーアの法則」という言葉に変わってしまっていたのである。
半導体製品は3次元に向かった
図1に見るように、半導体に集積されるトランジスタの数は年率十数カ月で2倍になるという本来のムーアの法則は、実は変わっていないのである。
なぜこうなったのか。NANDフラッシュメモリ製品では、半導体に集積するトランジスタを従来の2次元から3次元に変えたからだ。図1の最近の高集積なICはNANDフラッシュメモリである。これは数年前から2次元から3次元へ変更し、それも当初の32層から64層、さらに96層へと高層化してきたのである。トランジスタ数は急速に上がってきた。
これを今度はチップ同士の接続というように3D(3次元)ICとし、スタック(重ねた)したチップを一つのモールドでパッケージすると、外見は1個のIC製品に見える。この3D-ICはムーアの法則に沿うだろう、その定義が最初のゴードン・ムーア博士のままであれば。そうすると、ムーアの法則はまだ当分続くことになる。
(2020/03/16)