イスラエル政府、ホロコースト生存者の記憶のデジタル化に1億5000万円提供「記憶を次世代に継承」
ホログラムで目の前にいるホロコースト生存者とリアルタイムに会話
第二次大戦時にナチスドイツが600万人以上のユダヤ人を大量に虐殺したホロコーストだが、そのホロコーストを生き延びることができた生存者たちも高齢化が進んでいき、その数も年々減少している。彼らの多くが現在でも博物館などで若い学生らにホロコースト時代の思い出や経験を語っているが、だんだん体力も記憶も衰えてきている。
現在、欧米ではそのようなホロコーストの記憶を語り継ぐために、ホロコースト生存者のインタビューと動く姿を撮影し、それらを3Dのホログラムで表現。博物館を訪れた人たちと対話して、ホログラムが質問者の音声を認識して、音声で回答できる3Dの制作が進んでいる。
あたかも、目の前にホロコーストの生存者がいるようで、質問に対してリアルタイムに答えられる。ホロコーストの生存者らが高齢化しても、亡くなってからでも、ホログラムで登場して未来の世代にホロコーストを語り継いでいくことができる。
このようなホログラムはアメリカや欧州のホロコースト博物館などで展示されており、学生や訪問者がホログラムで登場したホロコースト生存者とリアルタイムに会話をしてホロコースト時代の経験を直接聞くことができる。欧米やイスラエルではホロコースト教育が行われており、ホロコースト教育の一環としてホロコースト博物館を訪れることが多い。
映画「シンドラーのリスト」の映画監督スティーブン・スピルバーグが寄付して創設された南カリフォルニア大学(USC)のショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組みを行っている。南カリフォルニア大学ではホログラムでの生存者とのインタラクティブな対話の技術開発にも積極的で、同大学ではこの取組を「Dimensions in Testimony」プロジェクトと呼んでいる。戦後70年以上が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進み、当時の記憶も薄れていき、体力的にも証言を取るのが難しくなってきており、これまでにも多くの証言を集めてきたが、今後あと10年が勝負である。
ロサンゼルスにあるスタジオで18台のカメラであらゆる角度からホロコースト生存者らを撮影してホログラムは製作される。撮影も1週間以上で2000問以上の質問が繰り返される。そのためホロコーストの生存者の誰でもがホログラムで記憶をデジタル化することができるわけではなく、撮影にも相当な体力を要する。また製作コストも1人のホロコースト生存者を撮影して3Dとホログラムで表現するために250万ドル(約3億7500万円)かかる。それでも、ホロコースト経験者の記憶と体験を未来に語り継いでいくために、欧米のユダヤ人らは積極的にホロコーストの記憶のデジタル化を進めようとしている。
そしてイスラエル政府は2022年11月に350万シュケル(100万ドル、1億5000万円)をホロコーストの記憶の保存、録画を行っていくために提供すると発表した。イスラエルのヤイル・ラピド首相は「ホロコーストの記憶を次世代に継承していくことはとても重要です。イスラエル政府としても引き続き支援していきたいです」と語っていた。
▼ホログラムで登場するホロコースト生存者と対話を伝えるメディア