「まともな人間がいなくなった」中国人女性が見た北朝鮮のモラル崩壊
北朝鮮社会を蝕む深刻な麻薬問題。元はと言えば、外貨獲得のため故金正日総書記が製造、密輸出させたことに端を発している。そうして生産された麻薬が横流しで国内で出回るようになり、万病に効く薬、薬の代用などとして広く使われるようになったのだ。
北朝鮮は医薬品の多くを中国からの輸入に頼っているが、コロナ対策として2020年1月に国境を封鎖、貿易を停止させたことで、医薬品の不足に拍車がかかり、麻薬に頼る人が相次いだ。これに対して、当局は取り締まりを強化し、密売グループを逮捕している。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が現状を伝えた。
社会安全省(警察庁)麻薬局は今月初め、各道の安全局(県警本部)と合同で麻薬事犯の逮捕作戦を進め、長年にわたって生産、販売に関わってきた業者10数人を逮捕した。全国的な販売網を持っていたこのグループの逮捕は、今月10日の朝鮮労働党創建記念日を飾る成果として大きく評価されたとのことだ。
10人は、半年から1年の予審(起訴前の証拠固めの段階)を経て、極刑が言い渡されるものと見られている。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
北朝鮮当局が薬物事犯に対して極刑で臨むのは、それなりの経緯がある。アヘンなどの麻薬に続いて生産された「オルム(氷)」などと呼ばれる覚せい剤は、さらに猛威をふるい、社会のモラルを揺るがすまでになっている。以前、中国の丹東で貿易業を営んでいた中国朝鮮族のキム・ジョンエ(仮名)さんは韓国デイリーNKに対し、覚せい剤に溺れる北朝鮮の貿易業者の様子を次のように語った。
「北朝鮮の貿易業者のほとんどが覚せい剤中毒者だった。そのせいで、時間も守らなくなり、約束も平気ですっぽかす。男女の関係もおかしくなった。新義州の有能な若い業者は皆、覚せい剤に手を出し、まともな人間はいなくなった」
今回逮捕された10人は、大規模化学工場のある咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸興(ハムン)で原料を調達するグループ、咸鏡北道の清津と羅先(ラソン)で製造するグループ、そして、全国的に販売するグループに分かれていた。
かつては咸興の工場で生産された麻薬を中国や他の国に密輸出していたが、今回の場合、咸興で大量の原料を確保し、そこから離れた清津や羅先で製造し、国内での販売に加え、中国に密輸出までしていた。
国境封鎖によりできなくなっていた麻薬の密輸出は、今年に入って段階的に国境が開かれたことで再開され、国内での密売より2〜3倍の儲けを得ていたことがわかり、大きく問題視されている。
北朝鮮は、昨年2月の最高人民会議第14期第6回会議において、課題の一つとして次のようなものを挙げている。
対外経済部門で、国家の唯一貿易制度を還元復旧するための活動を引き続き推し進める。
コロナ前には、各地方の様々な貿易会社や業者が、てんでバラバラに合法・非合法の貿易に関わり、市場に大量の中国製品が出回る状況を生んでいたが、コロナ禍の貿易停止をきっかけにこれを改め、国がすべての貿易を司る国家唯一貿易体制を取り戻すと宣言した。
もちろん、密輸も根絶の対象だ。
今回摘発されたグループは「違法薬物」と「麻薬」という、2重のタブーを犯していたことになり、下される罰も倍加されるかもしれない。