最先端のバリアフリーとは? 千寿青葉中学校で星加良司さんが講演
9月7日、足立区立 千寿青葉中学校(東京都・鈴木幸雄校長)で、2020パラリンピックを契機とした人権啓発授業「心のバリアフリー教室」が行われ、中学1年生126人の生徒が参加、当事者体験と心のバリアフリーについての講演が、東京法務局とオリンピック・パラリンピック等経済界協議会が計画し、同校の先生らとともに行われた。
この授業で、生徒たちは、困っている人・援助を必要としている人が、どんな援助を求めているか、体験を通じて当事者への理解を深めた。また、視覚障害の当事者でもある、東京大学バリアフリー教育開発研究センターの星加良司先生の講演により、東京大学で研究される最先端のバリアフリーについて例題を用いて考え、生徒、先生も含め「人権」「心のバリアフリー」を学ぶ貴重な機会となった。
授業の前半は、車椅子や視野の狭くなるゴーグル、加齢により歩行が困難な人を想定した重りをつけて歩くことで擬似的に障害や高齢を体験した。
視覚障害を体験した生徒は、「視界が狭く怖い」「周りや人の顔が見えづらく大変だった」、高齢者の体験をした人は、「膝を曲げることができない、体が動かない」「もっと運動していれば動くのかな?」、車椅子を体験した人は「押されているときは少しの段差も怖かった」など、口々に体験の感想を述べていた。
体験を通じて、様々な障害のある人が、どのような状態にあるかを想像するきっかけとなった。休憩をはさんで後半に、星加先生の講演が行われた。
星加良司先生による「心のバリアフリー教育」とは
「今日は皆さんにバリアフリーの最先端の話をします。先生たちも知らないかもしれません!」と、話し始めた星加先生。
「みなさん、これはバリアでしょうか?ーーー1階段しかない、2英語の解説書、3高校受験」と、例示した。1、2、3の順にだんだん自信を持ってバリアであると答えられる人が減っていくと・・・
「わからなくなっていくのは、皆さんが、バリアのことを障害者や高齢者の問題だと考えているからです」とその理由を解く。生徒たちだけでなく、会場にいた大人も星加先生の例題にひきこまれ、バリア、バリアフリーについて共に考えた。
「階段しかないのは、車椅子を使う人にはバリアとなります。英語で書かれた取扱説明書は英語が読めない人にとってはバリアです。
高校入試、これも実はバリアです。高校で学びたいけれど、試験で振り落とされて学べない人がいる。そのほか、お金がなくて入学できない、といった場合もバリアだといえるでしょう」
「障害、バリアとは、何かやりたいことがあったときに、それをできなくさせる社会の側の要因のこと。実は、社会の少数派の人たちにとって、多数の人に合わせてつくられた社会そのものがバリアとなって、損をしたり割りに合わない思いをしたりするのです」と、「バリアの正体」と「障害の社会モデル」について伝えた。
「そして、こんな風に、バリアはみんなの周りにたくさん存在しています。なのに、障害者や高齢者の問題で、自分たちとは違う、距離がある、なんとなくそう思ってしまう。これを考えることが、『心のバリアフリー教育』です」
日本政府は、3年後の東京パラリンピックを契機に「ユニバーサルデザイン2020行動計画」として、心のバリアフリーについて議論し「共生社会」を目指している。
「すでにともに生きているのに、あらためて「共生社会」を目指すのはなぜでしょうか?」と、星加先生は投げかけた。
「それは、ともに生きているのに、実質的にはともに生きているとは言えないから」だという。多数派と少数派の間に有利不利ができ、例えば、障害のある人、高齢者、性的マイノリティなどが生きづらい社会になっている。
「(障害のない人に)悪気があるわけではないんです。ただ、自分たちが便利にすることにより、障害のある人には不利益が生じています。それを直していくために、国連の条約、国の法律などでルールを作っています。そこには「子どもの権利条約」もあります。子供の皆さんも、マイノリティ(少数派)なんです、様々な権利の制限があります。必要あることもありますが、何でも大人の好き勝手にして子供が不利益を受けてはいけない。そこにルールをつくり、大人もルールを守リましょうということが行われています」
これまで生徒たちは「バリアとは、段差や階段のこと」バリアフリーは「障害や高齢で困っている人の問題」だと思っていたかもしれない。星加先生の話により、心の中に、障害者や高齢者を特別な人としていた「思い込み」があるということに気づいた。
ある女子生徒は、「障害のある人やお年寄りを違う人と考えないで接していきたい」と話していた。
星加先生は、そう、同じなんだという視点を持つことが大切ですね。と同意。その上で「同じと思っている中にも、違いがある。違いに目を向けてはどうかと思います」というアドバイスをくれた。
皆さんも、外から見れば、同じ中学に通っている同じような人と見られるが、人それぞれ異なる経験を持っている。それは、障害のある人だって同じことです。
「自分が経験していないことには全く想像力が働かない。これも、心のバリアです。他の人の置かれている状況に想像を働かせる。それが、心のバリアフリーの第一歩です。街で体を触られたら、誰でも嫌でしょう?されて嫌なことはやめましょう。一方で自分がこうだから相手もこうだ、ということも押し付けですね。
よく、『困っている人を見たら、声をかけましょう!』という呼びかけがあります。これからは、その人が障害で困っているわけではなく、どんな周りの状況に困っているのか?と思って関わってみてはどうでしょうか」
拍手が沸いた。生徒代表の感謝が伝えられ、授業が終了した。