阪神タイガース・陽川尚将選手 「壁を1つ越えた」証明は来年、1軍のホームランで!
きのう13日、2017年度イースタン・リーグ、ウエスタン・リーグの優秀選手賞とスポンサー表彰などの受賞者が、NPBから発表されました。優秀選手賞は、公式戦の全日程終了時点で決定した「記録による表彰」(個人タイトル)とは別の「選考による表彰」。つまり記者投票で選ばれるもので、これまでは11月末に開催の『NPB AWARDS』で発表されていたと記憶していますが、ことしはその1週間前に決まったんですね。
では各チーム1人ずつの優秀選手賞を、ウエスタン・リーグのみ書いておきます。阪神からは陽川尚将選手が選ばれました。なお11月20日のNPB AWARDS・第1部で表彰式があり、メダルと賞金10万円が贈られるそうです。
選考による表彰
【優秀選手賞】
坂倉将吾 (広島)
阿知羅拓馬 (中日)
宗佑磨 (オリックス)
釜元豪 (ソフトバンク)
陽川尚将 (阪神)
スポンサー表彰
同じく、きのう13日に発表された新聞社などの選定による各賞受賞者は以下の通り。これもウエスタンのみです。ご了承ください。
◆優秀投手賞 (サンケイスポーツ選定)
中日・阿知羅拓馬
◆新人賞 (スポーツニッポン選定)
広島・坂倉翔吾
◆技能賞 (デイリースポーツ選定)
阪神・植田海
◆努力賞 (日刊スポーツ選定)
中日・阿知羅拓馬
◆殊勲賞 (報知新聞社選定)
中日・阿知羅拓馬
◆期待賞 (在阪テレビ局選定)
広島・坂倉将吾
◆ビッグホープ賞 (ベースボール・マガジン社選定)
広島・坂倉将吾
阪神は植田海選手が技能賞を獲得しています。終盤は1軍にいましたし、最後に逆転されて惜しくも最多盗塁のタイトルは逃がしたものの、トップとは1個差です。しかも、タイトルを獲得した釜元豪選手(ソ)は盗塁26個で失敗が16個、植田選手は成功25個で失敗9個。盗塁成功率は植田選手、釜元選手と差は歴然でしょう。そんな盗塁に加えて、スイッチヒッターとしても評価された“技能賞”だと思われます。
リーグの記録もいくつか更新
ここで、ウエスタン・リーグの記録による表彰選手も書いておきましょう。
◆投手部門
【最優秀防御率】 中・阿知羅 2.10 (初)
【最多勝利】 ソ・山田 10 (2年連続2度目)
【最多セーブ】 神・メンデス 23 (初)
【勝率第一位】 中・阿知羅 .750 (初)
◆打撃部門
【首位打者】 広・メヒア .331 (初)
【最多本塁打】 神・陽川 21 (2年連続2度目)
広・バティスタ 21 (初)
【最多打点】 神・陽川 91 (2年連続2度目)
【最多盗塁】 ソ・釜元 26 (2年連続2度目)
【最高出塁率】 広・庄司 .407 (初)
陽川選手の91打点というのは、18年ぶりに大きく更新されたウエスタン・リーグ新記録です。その話はのちほど。メヒア選手の126安打というのも、昨年ソフトバンクの塚田正義選手が塗り替えた124安打を上回るリーグ新記録。また投手部門で阪神・メンデス投手の23セーブも、1996年にダイエー・ミツグ(斉藤貢)投手がマークした20セーブを更新しました。これは21年ぶりのことなんですね。
強烈な印象だった9月上旬
昨年に続いて最多本塁打と最多打点の2冠を獲得し、このたびリーグ優秀選手の1人にも選ばれた陽川尚将選手。しかも今季の“数字”は、昨年を大きく上回っています。「それだけ長くファームにいたということなので…」と本人が言うように手放しで喜べるものではありません。とはいえ1軍再昇格直前の9月上旬に、驚異的な成績と記録を残しました。
◆陽川選手 9月1日から9日の7試合
対戦 打-安-点 HR
1日 広 5-2-2 16号
2日 広 3-1-0
3日 広 4-3-2 17号
5日 中 4-2-3 18号
6日 中 2-1-1 19号
※リーグ最多タイの77打点
8日 ソ 3-2-4 20号
※自身最多タイの4試合連続HR、リーグ新の81打点
9日 ソ 3-3-4 21号
※リーグ最多タイの5試合連続HR
※チームのファーム最多タイとなる21号
※リーグ記録更新の85打点
7試合で24安打14打数16打点、打率.583、計6本塁打。翌10日に昇格しました。1軍で1本ホームランを打ったものの、2週間で再びファームへ戻って、打点はそこで追加しています。昨年とことしの成績を比べてみると
◆陽川選手 昨季と今季の比較
【1軍】 打-安-点 打率 本塁打
2016年 29試合 72-12-4 .167 2本
2017年 12試合 18-3-1 .167 1本
【ファーム】 打-安-点 打率 本塁打
2016年 78試合 306-92-62 .301 14本
2017年 105試合 391-110-91 .281 21本
という内容。確かにファームでの出場試合がかなり多かったですね。偶然にも1軍での打率は同じでしたが、出場試合数が半分以下に減っています。来年は沖縄キャンプから、そのまま1軍に残って開幕を迎えられますように。
ウエスタン記録回顧・本塁打
さて、では記録を振り返ってみましょう。まず連続試合本塁打から。9月8日に放った20号が今季リーグ初で唯一の4戦連発でしたが、陽川選手は昨年も8月27日の広島戦(鳴尾浜)で記録しています。それがリーグとしては5年ぶりのこと。その詳細はこちらでご覧ください。→<陽川選手がリーグ5年ぶり、チーム11年ぶりの4試合連続本塁打!>
ウエスタンの4試合連続ホームランは、これまで陽川選手を含め17選手が計19度記録しており、過去には中日の宇野勝選手、近鉄の村上隆行選手、阪急の高橋智選手、中日のブライアント選手、大豊泰昭選手という大御所の名前もありました。
ちなみにブライアント選手って、1軍で1試合3本打ったりしていた近鉄のラルフ・ブライアント選手です。中日在籍時間は1988年の5月から近鉄にトレードされる6月下旬まで。その間はウエスタンで6本ホームランを打っていて、そのうちの4本が連続だったわけですね。確かに5月13日から18日と書いてあります。なかなか貴重な記録でしょう?
話を戻して、阪神ファームでは2005年9月に喜田剛選手が4試合連続で打っているので、陽川選手と合わせてチーム2人目。いえ正確には3人目ということになります。というのも、萩原誠選手が1993年7月にウエスタン・リーグ最多の5試合連続ホームランを達成しているのです。以降に1999年の河野亮選手(ダイエー)、2004年の山下勝巳選手(近鉄)が放ち、過去3人だけ。そこに陽川選手も並びました。
次にシーズン本塁打の記録。これは過去に何度か書いているので、ご存じの方も多いと思います。21本塁打はリーグ2位タイ(1987年の阪急・高橋智選手、2005年の阪神・喜田剛選手、2009年のオリックス岡田貴弘選手に次ぐ4人目)、阪神のファームでは喜田選手に12年ぶりで並ぶ記録です。2年ぶりに並ばれた喜田剛さんは「まさか、あの記録に追いつくとは」という感想。
そして打撃部門の、特に本塁打や打点などがいつも上回っていたイースタンの数値を、ことしウエスタンが逆転した点を聞いたら「打者のスキルとフィジカルが上がってきたということでしょう」と喜田さん。さすが用具メーカー勤務らしいコメントですね。またフェニックスリーグでお会いした各球団の編成担当の方々も、ウエスタンの練習量の多さを挙げておられました。イースタンは遠征でなく、各試合の移動時間が結構かかることもあるのでしょうね。
ウエスタン記録回顧・打点
最後に打点です。陽川選手は今季、1999年に衣川幸夫選手(当時は近鉄)が記録した77打点を大きく上回る91打点でした。一気に14点も更新したわけで、メヒア選手の77打点は2位タイとなっています。それも18年ぶりということで、懐かしい顔を思い出しながら衣川さんに連絡をしてみました。電話で話すのは初めてだったので、衣川さんも驚かれたでしょうね。
このたび衣川さんの記録が抜かれたと説明をしたら「そうなんですか!」との答えで、その前に「知らなかったですよ~」と。これは「1999年、たまたま前の年もファームでタイトルを獲って2年連続なので、受賞したことは覚えていましたけど…。でも僕の打点がリーグ記録だったこと自体、知らなかった(笑)」ということみたいです。しかも18年も残っているとは思わなかった?「記録は抜かれるものですから」
衣川選手は1993年に近鉄へ入団し、1998年にウエスタン首位打者、1999年に最多打点(77点)。奇しくもこれが近鉄での最後で、翌2000年にヤクルトへ移籍。2002年に今度はイースタンで首位打者となりました。ウエスタン、イースタン両リーグで首位打者になったのは、後にも先にも衣川選手1人だけだそうです。
ヤクルトを退団後は「2年くらい働いて、徳島へ行って神戸に行って、トータルで兼任コーチを含めて4年くらいやりました。でも単年契約ですからね。金銭面でも流動的でしょう?野球で食べていくのも確実ではないし、探して待っていても仕方ない…。たまたま巡り合わせがあって、今は東京に住んで水道の仕事をしています」と、当時と変わらない明るく元気な声で話してくださった衣川さん。ありがとうございました。
ちなみにことし陽川選手が更新し、並んだ本塁打と打点のタイトルはファーム全体でみると、イースタン・リーグの中田翔選手(日本ハム)が2009年に記録した30本塁打、95打点がともにトップです。
長打を追い求めるのは不変
ここからは、先月スポニチ紙面で書いた記事をもとに陽川選手とコーチの話をご紹介します。
自身の打撃面での課題として、好不調の波を減らすことを挙げてきた陽川選手。先ほどご紹介した9月上旬の“絶好調”でもわかるように「ホームランが出だしたら続くけど、いったん止まったら次がなかなか出ない」と本人も悩んでいました。「打てない時期をどれだけ短くできるか」が最大のポイントでしょうか。
それとファームではフル出場がほとんどですが、1軍では代打で出ることも多くなります。当然、気持ちの余裕という面でも大きな差があるわけで「代打で初球の真っすぐを見逃すことが多かった。短かったら3球、その1打席だけで終わる。そこで初球をストライク取られたら、あと2球しかないわけで。そういうとこ考えていきたい」と話していました。
ただし来年は5年目、ここで足踏みしている時間はありません。そこは陽川選手もわかっています。「新しい選手も入ってきて、チャンスはどんどん少なくなる。その中で結果を出していかないと」。最後に1つ聞いてみました。これからも長打は追い求める?「はい。そこは持ち味なので。消したら自分じゃなくなります」
濱中コーチ「壁を1つ越えたと信じたい」
濱中治ファーム打撃コーチは「打てない時期が長引くのは修正する方法がわかっていないから。僕らはヒントをあげられるけど、やるのが本人。掛布さんが言っていたように、自分で考えるしかない。どこが悪いのか、また打てている時はどこがよかったのか、それを理解しないと。考える力が必要」と言います。
昨年は1軍担当だったので「陽川が1軍に来た時、片岡さんとよく言っていたんですよ。あまり考えて打っていないなって」と当時を振り返り、続けて「でも今季はようやく考えてやっているというのが見えてきましたよ。バッティング練習でも、足の運びとかバットの出し方とかを少し変えたりして。それが見えますね。やっぱり危機感があるはず。ことし俊介がファームに来た時、目の色が全然違っていたように」と話す濱中コーチ。
今は安芸で秋季キャンプの真っ最中。陽川選手は紅白戦や練習試合で3戦ともホームランを放って、本領を発揮しています。苦手の真っすぐも打っているようで、また濱中コーチの言葉を思い出しました。
「陽川はことし、“壁”を1つ越えたんじゃないですかね。ホームラン21本打って、91打点でしょう?僕はそう思いますよ。壁を1つ越えたと信じたい。それがわかるのは来年。楽しみにしたいですね」
<掲載写真は筆者撮影>