石崎ひゅーい 変わらない想いと、変わらなければいけない事 初のベスト盤に込めた「次」への決意
漂う危うさと、生命力の強さと――石崎ひゅーいが作る音楽、それを表現する場であるライヴは、聴き手の心をざわざわさせ、躍らせ、その独特の世界に引き込む。そんな石崎が、2012年にデビューしてから紡いできた言葉とメロディを集めた、初のベスト盤『Huwie Best』が3月28日に発売され、好調だ。"これまで"に終わりを告げ、"次"に向かうために必要だった"場所"がこのアルバムだ。石崎にこの作品に込めた思いを聞いた。
「音楽をやっていなかったら、絶対にできなかった事を経験させてもらった5年間だった」
――デビューして5年ですが、どんな5年間でしたか?
石崎 もう5年なのか、まだ5年なのか、自分でもわからないのですが、とにかく音楽をやっていなかったら絶対やらなかった事を、色々経験させてもらいました。
――舞台や映画、演技の世界での活躍も目立ちました。
石崎 音楽でも映画でも、とにかく関わった人に影響されます。人に会った後に曲が生まれたり、人との出会いが、一番インプットできます。
ファン投票で選曲。「ずっと聴いているファンが、これから新しく石崎ひゅーいの音楽と出会う人に向けて、選曲してくれた曲が揃っている
――石崎さんが人を惹きつける魅力を持っていて、『Huwie Best』に寄せられた、森山直太朗さんや大泉洋さんを始めとする、著名人の方からのコメントを読んでいても、愛されてキャラというのが伝わってきます。
石崎 本当にありがたいです。でも僕も引力に導かれるように、感覚的に「あ、この人僕とは共鳴してるはず」と勝手に決めつけて、寄っていっちゃうんです。そのパワーが、もしかしたら潜在的にあるのかもしれないですね。だから「あ、この人と仲良くしたい」と思っていると、いつの間にか仲良くなっていて。
――今回のベスト盤は、これまでの集大成という位置づけで、ファン投票で選ばれた曲達と、ラストには“次”に進むために書いた新曲「ピリオド」が収録され、双方の思いが詰まった、血が通ってるベスト盤になりました。
石崎 本当にそうだと思います。もっとマニアックな曲が多くなってもおかしくないと思っていました。でも蓋を開けてみると“真っ当な”曲達が選ばれていました。ライヴでこのベスト盤について「今までの石崎ひゅーいを総括するものを、みんなと一緒に作りたい。それをみんなと、そしてこれから出会える人達と共有したい」という事を言ったので、まだ石崎ひゅーいを聴いた事がない人のために、ずっと聴いてくれているファンの人達が、わかりやすい曲を選んでくれたのだと思います。
「今まで味わった事がなかった、曲が生まれてこない恐怖。自分が空っぽに近い状態だったので、このベスト盤をきっかけに、次のフェーズに行かなけばいけないと思った」
――このベスト盤をもって“第一章終了”とおっしゃっていますが。
石崎 このアルバムのお話をいただいた時に、今自分がどういう状態なのかを見つめ直す、いいきっかけになりました。今まであまり振り返らないでやってきたので、いざ立ち止まってみると、自分が空っぽに近い状態でした。具体的には、曲が生まれてこないという、ソングライターとしてのジレンマのようなものがありました。これは次のフェーズに行かないとまずいぞ、という感覚が自分の中に生まれてきました。しなびた人参みたいだなって(笑)。だからこそ、このベスト盤を次に行くぞという意味を持たせたかった。ここまで積み上げてきたものを、一旦ゼロにして出発するようなイメージというか。
――曲ができないと思った瞬間は、恐怖を感じましたか?
石崎 今まで味わった事がない恐怖でした。今まではどちらかというと曲が降って来たり、ポンポン出てくるタイプでした。だから自分の中で、何かが枯れていくという感覚も感じた事がなかったし。でも何か違うな、と。やっぱり曲って、自分の身を削って書いているんだという事にやっと気づいて(笑)。去年『アタラズトモトオカラズ』というアルバムを作ったのですが、今までとは異質なもの、言葉のパワーがものすごいものを、まさに身を削って作ったという実感があるので、そこで創作、制作のエネルギーをかなり持っていかれたという感じはしています。だから身を削っているのであれば、その後にちゃんとその部分に肉付けしていかないと、これからずっと音楽をやっていくためには、心身共にもたないと思いました。
「新曲「ピリオド」は今までとは違う作り方でできあがった曲」
――そんな中で菅田将暉さんと音楽作りを楽しんだり、インプットする時間もありました。
石崎 そうなんですよね、いい刺激になったし、菅田君と作業した事で曲の新しい書き方、出し方みたいなものを、自分の中で経験する事ができて、それが「ピリオド」という曲につながったと思います。
――「ピリオド」だけ、他の曲と温度感が明らかに違っていますよね。どちらかというと内省的な曲が多い石崎さんの曲の中で、この曲は広い視点で物事を見ています。
石崎 そうなんですよ。もちろん今までのように、自分の中から湧いてくるものを、そのままストレートに曲にするというやり方も正しいと思いますが、「ピリオド」に関しては何度何度も書き直しました。どうやったら届くんだろう、もうちょっと頑張ったらもっと届くものができるんじゃないかとか、そういう事を考えながら作りました。ソングライティングの手法として、自分がやった事がない事をやらないといけないんだと思いました。
――では今回のベスト盤は、タイミングとしては良かったという考え方もできますね。
石崎 そうですね。90年代とか2000年代のベスト盤って、ヒット曲集というイメージがあったので、最初は、僕が出してもいいのかな、おこがましいなという気持ちでした。でも去年『アタラズモトオカラズ』を抱えて、弾き語りツアーをやった事がいい経験になっているし、新曲「ピリオド」を作る事ができ、それをベスト盤に入れる事ができたので、これなら自分としても意味のあるものが作れると思いました。ベスト盤が完成して通して聴いた時に、それまであったモヤが晴れた気がしました。だから今は心が激しく動いている状況です。
「いい意味で自己愛のようなものが減ってきて、自分の歌を俯瞰して見る事ができるようになった。だから言葉のチョイス、表現の仕方が変わってきていると思う」
――石崎さんが歌い始めたのは、お母さんの影響という事をデビューの時から言っていますが、やはり変わらずお母さんの存在は、自分の中で大きいものとして芯になっているのでしょうか?
石崎 そうですね。ビートルズ、デヴィッド・ボウイ、井上陽水に影響されましたが、それ以上に母親に影響されています。でも母親に向けて歌う事は、ものすごく個人的なことじゃないですか。そういう曲がデビュー曲になっているので、これでいいのかなと思う部分もあります。そこに固執してはいけないと思っていて。僕の中の大きなテーマは、普遍的な歌を作るという事なので、母に向けて曲を書くという事を、どう変換させて自分の中で解釈して、納得いくところに落とし込んでいけるのかが、これからの課題だと思っています。
――石崎さんの音楽の強さは、その言葉の強さでもあると思いますが、デビューから5年を経て、言葉というものに対する心持ちというか、言葉と対峙する際の姿勢のようなものは、変わってきているとご自身で感じていますか?
石崎 変わってきています。いい意味で自己愛のようなものが減ってきていて、自分の歌を俯瞰して見る事ができるようになってきていると思います。だから自ずと言葉のチョイスや、表現の仕方が変わってきていると思っていて。それはやっぱり5年という時間を過ごしてきたからこその変化だと思います。
――石崎さんの言葉がもつ熱さを、ストレートにぶつける場がライヴだと思いますが、あの激しいパフォーマンスは、やはりステージに立った瞬間スイッチが入るという感じなのでしょうか?
石崎 ライヴ前は、とにかく「無」になるという事を心掛けています。でもたまに「無になれ、無になれ」って思っているうちに、ライヴが終わってしまう事もあります(笑)。なかなか難しいですけど、「無」になっている時のライヴはいいと思います。歌にグッと入る瞬間があって、それはスイッチが入るという感覚ではなく、ものすごく自由になれた気がするんです。色々頭の中で考えながらやっていると、観ている人にも伝わると思います。「あ、こいつ今日なんか考えながらやってるな」って。だから「この人、何にも考えてないわ」って思ってもらえるライヴが理想です。僕は特に生身を、ありのままをみせるタイプなので、バレやすいと思います(笑)。
「音楽をやっている時は、時々孤独感、恐怖を感じる事があるが、舞台、映画をやっている時は純粋に楽しい」
――石崎さんは舞台、映画、演技の世界も経験していて、音楽の場合は全部自分の責任で、全ての視線も自分に集まってきますが、舞台の世界はひとつの歯車で、表現方法が違うと思いますが、そこはどう捉えていますか?
石崎 シンガー・ソングライターという事もあって、音楽をやっている時は一人という感覚が強いので、時には孤独や恐怖を感じる事もあります。舞台や映画をみんなで作っている時は、純粋に楽しいです。きっとそれが音楽に返ってくるので、楽しいと思えるのだと思います。役者さんは空気を作るのがうまいというか、自分を俯瞰して見るパワーがすごく強くて、僕もそうなりたいです。
「デビューの時、「CDを100万枚売る」と言っていたがそれは今も変わらない。「100万ダウンロード」ではなくてやっぱり「100万枚」にこだわりたい」
――5月からは弾き語りワンマンTOUR 2018「ピリオド」がスタートします。
石崎 「ピリオド」って、「.」なので、漠然と、過去と現在、未来をまたいでいるようなイメージがあるので、それをライヴで伝えたい。弾き語りワンマンって、ものすごいエネルギーが必要なので、逆に絶対何かが見つかるはずなんです。
――新たな5年、10年へ向けてのスタートになる年です。
石崎 デビュー当時に僕は「CDを100万枚売る」と言っていました。でもそれって現実的には無理かもしれないけど、日本のポップソングを聴いて育ってきたので、その中心的存在になりたいという気持ちは変わりません。自分なりの表現でそこに向かっていきたい。100万ダウンロードでもいいんですけど、アナログな人間なので、やっぱり「枚」がいいです(笑)。純粋にもっとたくさんの人に自分の曲を聴いて欲しい。自分というより自分の「曲」を愛して欲しいと思います。そうじゃないと曲がかわいそうだなって。