熊本県南部豪雨 「九州の小京都」人吉を襲った球磨川氾濫の爪痕
熊本県南部などを襲った記録的豪雨で4日、球磨川(くまがわ)が氾濫し、県内各地で土砂崩れや浸水被害が発生した。球磨川流域の人吉(ひとよし)市では、市街地を中心に広範囲にわたって浸水や冠水が発生。一夜明けた5日、市内の景観は一変していた。
道路沿いの歩道は、途切れることなく泥が続いていた。泥は高さ10~15センチ程度で、粘り気が強い。歩くのも一苦労だ。周囲を見渡すと、横転した車や、道路の中央に流されてきた自動販売機が目に入ってくる。スマートフォンでインターネットは使えたが、電話は一度も通じなかった。いくつかの信号機は動いていない。交差点では、警察官が2人がかりで交通整理をしていた。
国宝の青井阿蘇神社の前にある池は、蓮の花と朱色の手すりの橋が印象的だ。その手すりは、大きく損傷していた。同神社も被害を受けており、4日に楼門が冠水、拝殿が床下浸水している。この日、敷地は泥で覆われていた。
中心市街地ではあらゆる建物が浸水し、住宅や飲食店、宿泊施設では雨の中大勢の人たちが片付け作業にあたった。ある事業所では、1階部分が浸水。仕事で使用するパソコンがすべて壊れた。従業員の男性は「泥やゴミは片づければいいが、パソコンのデータが消えてしまったら仕事に支障が出てしまう」と不安げな表情だった。
筆者は大学院生時代に、人吉・球磨地方を調査で訪れている。ゼミ生で3班に分かれ、観光、球磨焼酎(※筆者の班)、農業について「熊本大学地理学研究 第3号 熊本県人吉・球磨地域調査報告」にまとめた。「観光」の中に人吉市の記述があるので、少し長くなるが引用したい。
筆者は調査をきっかけに人吉・球磨地方に魅了され、仕事やプライベートで足を運ぶようになった。豊かな自然、良質な温泉、米を用いたまろやかな球磨焼酎、おいしいお米と川魚。さらには球磨川下りやラフティング、鍾乳洞、SLなど観光資源にも恵まれている。筆者が住む熊本市内から車で1時間ちょっととアクセスもいい。そして何より「人」が優しい。「人吉は人が良いから人吉と名付けられた」と、県民は冗談を言う。ここはとにかく笑顔が素敵な人が多い。県外から訪れて、人吉のファンになる人は筆者の周りにも多数存在する。人吉は「癒し」の場所なのだ。
国土地理院が公開した浸水推定図を見ると、中心商店街などが位置する球磨川の北側一帯が浸水していることが分かる。筆者は2週間前にこのあたりを訪れているが、景色のあまりの変わりようにショックを受けた。
被災した人々の生活再建へ向けて、近い将来ボランティアの力も確実に必要になってくる。新型コロナの感染リスクを考えると、ボランティアを募る地域は限定的になるかもしれないが、受け入れ準備が整った後に多くの支援が集まることを願いたい。(提供写真を除き写真は筆者撮影)