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森保ジャパン最大の問題点と言われる「大迫依存症」。指揮官と本人は今、何をすべきか?

元川悦子スポーツジャーナリスト
鬼気迫る表情でゴールに向かう中国戦の大迫勇也(写真提供:日本サッカー協会)

最終予選の覚悟を持って挑んだ中国戦で勝ち点3

「第1戦(2日のオマーン戦)がすごく不甲斐ない試合になりましたし、僕らはもう1回、最終予選とはどういう試合になるかというのを話し合って、本当に相当な覚悟で挑みました。それが今日の試合に生きたんじゃないかと思います」

 7日(日本時間8日未明)に行われた2022年カタールワールドカップ(W杯)アジア最終予選・中国戦(ドーハ)。前半40分に伊東純也(ゲンク)の鋭いクロスを右足で合わせ、決勝弾を叩き出した大迫勇也(神戸)は安堵感をにじませた。1-0の辛勝ながら、とりあえず勝ち点3を確保し、2連勝で勝ち点6を確保したオーストラリア、サウジアラビア追走の一歩を踏み出したことで、ようやく生きた心地がしたことだろう。

オマーン戦から4人が入れ替わり、中国戦に挑んだ(写真提供:日本サッカー協会)
オマーン戦から4人が入れ替わり、中国戦に挑んだ(写真提供:日本サッカー協会)

 この日の日本はオマーン戦からスタメン4人を変更。攻撃陣は大迫の1トップの背後に伊東、久保建英(マジョルカ)、古橋亨梧(セルティック)が並ぶフレッシュな組み合わせだった。予選初先発となったチーム最年少の久保が闘争心を押し出し、力強く攻撃をけん引。鋭いシュートでスイッチを入れたのは前向きな印象を残したし、伊東もようやく持ち味のタテへの推進力を示すようになった。

 前半の中国のように11人全員がベタ引きしている敵に対しては、もっとサイドで仕掛けて相手を引き出して誰かが侵入する形を数多く作らなければいけない。そのギャップをどう作り、誰がゴールを決めるのか…。その課題解決の一端が中国戦で見えたものの、視界が大きく開けたというわけではないだけに、まだまだ模索が続きそうだ。

森保監督が久保と古橋をスタメン抜擢した意図

 とりわけ、目についたのが「大迫依存症」が依然として続いていること。森保一監督はこの日の起用について、気になる発言をした。

「大迫を軸とし、起点とした時に2人(久保と古橋)ともいい絡みができる。コンビネーションができるということで起用しました」

 あくまで「大迫ありき」の組み合わせだったというのを指揮官は暗に示したのである。だからこそ、今回の2連戦のFW枠は当初、大迫と古橋だけだった。オナイウ阿道(トゥールーズ)や林大地(シントトロイデン)といった他のターゲットマンタイプの選手を呼ばなかった理由も頷ける。

 しかしながら、最終予選直前の大迫は7月末にブレーメンを離れ、ヴィッセル神戸移籍が正式発表されるまで14日間の隔離を強いられていた。その後、練習に合流し、8月25日の大分トリニータ戦と28日のFC東京戦に出場したが、本調子には程遠い状態だった。6月シリーズをケガで離脱したように、近年は負傷で代表を離れるケースも少なくなく、突然アクシデントが起きる可能性もゼロではなかった。にもかかわらず、同タイプのバックアップ役を呼んでいなかったのはやはり問題だ。

エース不在時のオプションはあったのか?

 南野拓実(リバプール)のケガによってオナイウは追加招集されたが、ドーハで練習したのは2日だけ。ここまで森保ジャパンでの実績も乏しく、指揮官としてはイザという場面で投入する勇気が持てなかったのかもしれない。1トップをこなせる南野がいなくなったことも誤算だったのかもしれないが、やはりつねに大迫の穴埋め役のメドはつけておかなければいけない。

 となれば、本気でオナイウか林、あるいは他のFWを帯同させ、育てていく覚悟を持たなければいけない。「大迫のように前線で収められるFWはそうそう見つからない」という見方をしているのであれば、システムや組み合わせを変えながら最適解を見出していくしかない。

 例えば、真ん中の方がよりゴールへの迫力を出せる古橋を1トップに配置し、その背後に久保と堂安律(PSV)のような動けるタイプを入れて、1トップ2シャドウ的に使うのも一案だ。南野もこの3人とならうまく合わせられるだろう。鎌田大地(フランクフルト)をトップ下に入れて、久保と南野を左右に配置する形も考えられる。そういったパターンを最終予選を戦いながら確立させていくのは至難の業ではあるが、「大迫依存症」から抜け出すためには、トライあるのみだ。その問題に丸3年、真正面から向き合ってこなかった森保監督は、最も難しい最終予選に入ってツケを払わされているのかもしれない。

森保監督の采配には異論も少なくない(写真提供:日本サッカー協会)
森保監督の采配には異論も少なくない(写真提供:日本サッカー協会)

大迫にとっての欧州とJリーグの違いとは?

 大迫自身がJリーグに復帰して、ここからコンスタントにゴールを奪い、1年2か月後のカタールW杯本大会でも絶好調の状態をキープしていられれば、それが日本にとっては一番いいことだ。が、彼も31歳。ここから劇的な成長を期待しても難しい部分がある。「Jリーグのレベルは決して低くない」と本人も神戸移籍会見の時に強調していたものの、屈強なDFがズラリと並ぶ欧州でやっている感覚とはどうしても遠くなる。

 選手個々のスピードや攻守の切り替え、守備の献身性などはJリーグの方が優位だろうが、1対1のバトルや球際や寄せの厳しさ、ゴール前での駆け引きといった部分はやはり欧州の方が上。彼が2014年1月から過ごしたドイツは特にそういう部分が秀でている。その環境を離れた以上、前線でボールを収めるスキルや体の使い方などを大きく伸ばすことはそうそう望めないのではないか。

 こういったマイナス面を踏まえると、やはり大迫と併用できる最前線の選手を見つけておくことは重要だ。そのメドを10月のアウェー・サウジアラビア&ホーム・オーストラリア2連戦までにつけることは不可能に近いが、何らかのチャレンジをしなければ、7大会連続W杯出場の道が断たれてしまうことも考えられるのだ。

背番号15が最終予選で結果を出し続けてくれれば理想的だが(写真提供:日本サッカー協会)
背番号15が最終予選で結果を出し続けてくれれば理想的だが(写真提供:日本サッカー協会)

大迫自身と森保監督に求められること

 最悪のシナリオを回避するためにも、まずは大迫本人にJリーグで結果を残してもらうことが先決だ。ドイツでは叶わなかった最前線でのコンスタントな活躍ができれば、彼はもっともっと調子を上げ、得点感覚にも磨きをかけられるはず。そのうえで、大迫以外のオプションになりえる人材を国内外で広く探すことが求められる。オナイウや林らが十分使えるという判断になれば、ホームゲームは大迫、中東でのアウェーゲームは欧州組FWを使い分けるといったバリエーションも生まれる。時差や移動、暑熱順化などを考えても、そんな使い分けができたらベストだ。

 手堅く硬直化した采配が目立つ森保監督には、もっと大胆さと臨機応変さを身に着け、今の日本代表が直面する最大の問題点をうまく解決してほしい。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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