AIが暴く、ノルウェー政治家の論文盗用スキャンダルと「修士病」
ノルウェーの政界が、二人の大臣の修士論文盗用による辞任という前代未聞のスキャンダルで揺れている。この問題の露見は、進化し続けるAI技術のおかげでもあるる。
高等教育大臣の論文盗用と辞任
サンドラ・ボルク前研究・高等教育大臣(中央党)は、約10年前に作成した修士論文の盗用が明るみに出たことを認め、記者会見で謝罪した。その結果、彼女は大臣を辞任。
ノルウェーでは一般に、政治家に対して人間的な過ちに対する寛容さがあるが、今回のケースでは「教育大臣としての役割に相応しくない」との判断が下された。
保健大臣の論文盗用の疑惑
ボルク氏の辞任に続き、イングヴィル・ヒャールコール保健・ケアサービス大臣(労働党)の2021年提出の論文にも盗用の疑いが持ち上がった。
他の学生が書いた論文との間に顕著な類似が見つかり、本人は当初これを否定していたが、後に一部のテキストが他の論文からのものであることを認めた。現在、この事件はノール大学によって調査中であり、最終的な結果はまだ出されていない。
首相は保健大臣をそれでも信頼
ヨーナス・ガール・ストーレ首相(労働党)は、保健大臣のスキャンダルに対して、彼女への「信頼を維持している」と記者会見で表明した。大学が問題の処理を終えるまで、首相は何らかの判断を下さない方針だ。
「修士病」と社会的圧力
ノルウェーでは、大学院の修士号を取得することが社会的に重視される傾向がある。
この「可能な限り高い教育が最善である」とする信念「修士病」(マステルシーケン/mastersyken)と呼ばれる現象は、社会全体に広まっている。
北欧では政権交代が頻繁に起こる。政治家が大臣や国会議員の職を失い、一般市民と同じ労働市場で再就職しないといけないこともある。そのため、「修士病」の影響もあり、政治家も高学歴を重要視し、政治家の仕事をしながら、「将来ありえる再就職」のために修士号を得ようとすることもある。
想像してみよう。多忙な政治の仕事をこなしながら、アカデミック界で研究論文を書き上げることの大変さを。
「キャリアのための大学院への進学」は、必ずしも倫理観の高さや研究への尊敬を意味するとは限らない。これが学術的誠実さの欠如につながることもある。
AIの役割と技術
今回のスキャンダルの発覚は、AI技術の発展のおかげである。AIは複数の論文間のテキストの一致を精密に分析し、盗用を明らかにした。「コピー&ペイスト」はデジタル時代になって容易になったが、その発見も同様に容易になっている。
教育と政治の狭間で揺れるノルウェー
修士論文スキャンダルが示す深い問題
このスキャンダルは、このままでは終わらないだろう。ノルウェーの政治と教育の世界における倫理観の重要性を示すとともに、日本を含む世界中の社会において、学歴重視の問題点と、教育の質と政治的誠実さのバランスをどのように保つかという普遍的な問題を提起しているのではないだろうか。