Yahoo!ニュース

<ガンバ大阪・定期便82> 2024年版・NEW宇佐美貴史、始動。レジェンドの存在も刺激に。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
プロキャリアも16年目。今年も目標は『二桁』と言い切る。(筆者撮影)

◾️課題と向き合ったオフシーズン。結果を求めるために。

 明らかに体が絞れている。動きも、軽い。

 そんな印象を抱いたのは、2024シーズンの始動日となった1月12日のトレーニングだ。聞けば、体重を意識的に3キロ減らしたという。

「体にかかる負担とか、シーズンが始まった中での体の変化のしていき方みたいなものを想像して少し絞ろうかなって。いい感じ。動きやすい」

 昨年末の12月20日に自主トレをスタートしてから、日別に強度は変えていたとはいえ、元日を含め、動かない日は1日もなかった。

「チームとしての結果を見ての通り、僕自身もしっかり結果で引っ張ることもできなかったし、それ以外の面でもチームの力にはなれなかった中で、去年と同じことをしていても去年以上のものは求められないので。たくさんのことを変えるためにも自分にたくさんの刺激を与えて、たくさんの変化を求めたオフシーズンでした」

 具体的に取り組んだパーソナルトレーニングは大きく分けて2つ。より正しく足の筋力を使うことやパフォーマンス向上を求めた足指のトレーニングと、お尻、ハムストリング、腸腰筋を鍛えるトレーニングだ。いずれも昨年のパフォーマンスを踏まえ、パーソナルトレーナーと課題や必要なことを明確にした上で、与えられたメニューを着実に積み上げてきた。

「足指トレーニングは特に地道、かつ地味すぎて、心が折れそうやったけど、より動ける体になるにはやるしかないと。無の境地で黙々と乗り越えた」

 そうして1月12日の始動日も、大きく顔ぶれが変わったチームの先頭に立った。だが、特別な気負いは敢えて持たないようにしているという。これも昨年の戦いを踏まえてたどり着いた境地だ。

「昨年は正直、いろんなものを背負いすぎたというか。自分が好んで背負ったとはいえ、それに自分ががんじがらめになりすぎた気もしたので、当然ながらガンバというクラブで戦う責任、プレーする覚悟、応援してもらうことへの感謝は変わらずに持ち続けながらも、でも背負い過ぎずがいいのかなと。それにまずは何よりもピッチ上の『結果』で引っ張ることが一番だと思いますしね。去年はそれができなかっただけに、今シーズンはそこも意識しながら、でも、本来の自分らしい姿を取り戻すシーズンにしたい。目標は二桁。近年はずっとそれを口にしながら実現できていないので、今年こそ、と思っています」

 言うまでもなくその先に、チームとしての戦い、結果を描きながら。

「昨年はチームとしても、個人としてもしっかり、みっちり苦しんだ1年でしたが、その中で得られたものもあったと思うので。それを今年に活かしていきたい。選手もだいぶ入れ替わって、頭の中にダニ(ポヤトス監督)の戦術がしっかり入っている選手と、そうじゃない新加入選手がいますが、全員が歩幅を合わせて進んでいくことが大事だし、いいシーズンにするためにも、クオリティの部分でもっともっと高めていくシーズンにしたいと思っています。僕に限らず、年齢が近い選手にはリーダーシップをしっかりと取っていける選手も多いし、でも経験の少ない若い選手もいるという中で、たくさんの選手でしっかりとチームを引っ張っていきながら、そこに若い選手たちについてきてもらいたいし、僕たちは逆に『ついていきたい』と思えるような振る舞いを見せなければいけない。本当に全員で、誰一人、置いてきぼりにせずに全員で、しっかりと進んでいけたらと思っています」

まだ始動したばかりとあって表情は穏やか。練習中は笑顔も多く見られた。 写真提供/ガンバ大阪
まだ始動したばかりとあって表情は穏やか。練習中は笑顔も多く見られた。 写真提供/ガンバ大阪

 明確な数字につなげるために、宇佐美が意識するのは、決定力だ。近年のJ1リーグ戦での成績を振り返ると、全試合、2523分に出場して6得点を挙げた21年に対し(注:22年はアキレス腱断裂で長期離脱)、昨年は29試合に絡んだとはいえ出場時間は大幅に減り1524分、5得点。もちろん、稼働率を上げることは大前提にしながら「より枠に入れることを意識したい」と語気を強める。

「決定力というか決定率を上げるイメージ。実際、昨年の決定的なシュートシーンを全て決めていれば…昨年だけじゃなくてそれ以外のシーズンもそうですけど、毎年二桁に届いていたはずなので。特に、昨年は1試合で3回ポストに当ててしまったり、『いいシュートは飛んでいるのに入らないな』とか『惜しいシーンが多いよな』ってシーンが多かったので。それはつまり、質のいいシュートや速いシュートが飛んでいる証拠というか…仮にボロボロの、(弾道が)ヘナヘナなシュートを打っていたらそういう印象は残らないですから。つまり、質のいいシュート、速いシュートは飛んでいたけど、最後のところのアイデアや落ち着き、精度の部分であと少しが足りなかったから決まらなかったということだと思うので。今年はそれをしっかり枠に入れることをより意識していきたいです」

◾️『7』を受け継いだレジェンドの存在も力に、逆襲のシーズンに。

 そんな宇佐美が、新シーズンを戦う上で心強く感じているのは、昨シーズン限りで引退を決めてコーチに就任したガンバのレジェンド、遠藤保仁の存在だ。

「同じ選手として一緒にボールを蹴れるわけじゃないけど、同じピッチで同じ問題というか、たくさんのことを共有できると思うので。現役の時は、ヤットさん(遠藤)に自分から話を聞きにいくとか、教えを乞うようなことはあまりしてこなかったけど、これからはたっぷりそれができるな、と。それに、チームメイトとして戦っていた時から、(ヤットさんは)ピッチ上で起きる問題を客観視できる人だったし、ガンバがタイトル争いをしていた時は常に攻撃のオーガナイズをその場、その場でヤットさんが即興で作ってくれていたことも多かったので、そういう部分もチームに還元してくれるはず。ヤットさんは、雰囲気もすごく柔らかくて、誰とでもコミュニケーションが取れる人だし、これから、またたくさんの選手にその経験を伝えてくれると考えてもすごくありがたい存在だと思います」

 事実、始動日から、遠藤コーチの存在は、チームのいい緊張感につながっていると聞く。

「例えば練習中、自分では『止められている』と思っている選手も、ヤットさんにしたらそうは見えないはずだし、実際、僕も今日は『こいつら、下手くそやなって思われているんやろうな』って思いながらボールを蹴っていたので。そんなことを思うような人ではないと思いますけど(笑)、『止まってね〜な、こいつら、って思ってんのかな』って思いながら僕がプレーしていたということは、きっと他の選手もそう思っていたはずだし、それは(チームにとっても)いい緊張感になるんじゃないかと思います」

新加入選手は12名。顔ぶれは大きく変わったがチームの雰囲気はいい。(筆者撮影)
新加入選手は12名。顔ぶれは大きく変わったがチームの雰囲気はいい。(筆者撮影)

 加えて、個人的に「根こそぎいただきたい」と目を輝かせるのは、遠藤の思考、考え方、サッカー観。同じピッチでプレーしていた際は、遠藤の常に二手三手先をイメージしたプレーに何度も驚かされながらも「あまりに存在がデカすぎて、何でもかんでも聞きにいっていいとは思えなかったというか…ヤットさんほどの選手に時間を割いてもらうのも申し訳ないし、それなら自分で見て、感じて学び取るしかないと思っていた」と宇佐美。だが、コーチと選手の立場になった今は違う。いい意味で遠慮なく、その懐に飛び込んでいくつもりだ。

「どんな状況でも落ち着き払って、何事にも動じないメンタリティとか、試合展開に揺り動かされない判断とか。一緒にプレーしないとわからない部分も多いけど、でも、あの人なら一緒にプレーしなくても、その空気で伝えてくれる気がするし(笑)、現役時代同様に、ふわっとした優しい口調で、恐ろしいほど鋭く核心を突いてくるんじゃないかと思うので、それは根こそぎいただきたいなと(笑)。また、苦しい時にどうするか、うまくいっている時にどうするかだけじゃなくて、日々の練習の中で何を考えて過ごしているのかも…たぶん『何も考えてない』って言われそうですけど (笑)、試合の中でうまくいっていない時にどうしていくべきか、とか、どの立ち位置でボールを受ければこんなことが起きるよ、ってことなど、とにかくサッカーにまつわることは全て聞いていきたいです」

 遠藤の代名詞だった背番号『7』を受け継いだ彼にしかわからない、特別なプレッシャーも力に変えて。

「コーチナンバーってあるじゃないですか? だからなんなら『7』を譲ろうかなって思ったんですよ(笑)。僕は去年1年つけさせてもらったし、ヤットさんに譲る? 返す? なら誰も文句言わないだろうなって思って。ファンの皆さんにしてみれば、一番はガンバの7番のユニフォームに袖を通してプレーしている姿を見たかったはずですけど。…ってことを、色々考えたけど、最後はまあ、ええかなって。それをいろんな人に伝えて、本人にも断って…っていうのを考えていたら、最終的には面倒臭くなって、言わないままシーズンが始まったんですけど(笑)。でも、去年『7』を背負った時から、僕なりにその意味は十分すぎるほど感じてきたし、それは今も変わっていないので。ましてやその象徴が側にいるとなれば…ね。その先は言わなくてもわかるでしょ? だから、それはちゃんと背負って、だけど、最初に言ったみたいに、いろんなことを背負いすぎずに、ガンバのために結果を残せるシーズンにしたいと思います」

 「サッカー人生の底。いや、底の底」と悔しさを募らせた昨シーズンを乗り越え、チームとしても、個人としても逆襲を誓った宇佐美貴史の2024シーズンが始まる。

「落ちるだけ落ちたから、あとは上がるだけ」

 いけるところまで、どこまでも。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

高村美砂の最近の記事