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『ドラゴンボール』フリーザの「戦闘力53万」とは、どんな強さなのか!?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

『ドラゴンボール』の魅力の一つに「戦闘力」がある。

「スカウター」を左目にかけることで、キャラたちの強さが数値化されるのだ。たとえば悟空の初期の戦闘力は334、ピッコロは322、亀仙人が139、クリリンが206……という具合。

しかも作中、この数値は増大していった。新たな敵はスゴイ戦闘力を引っ提げて現れ、悟空たちも修行するなどしてどんどん強くなり、戦闘力を上げていった。

そして、強敵フリーザがこう発言したとき、戦闘力のエスカレーションはピークに達した。「わたしの戦闘力は530000です」。ぬおっ、53万! 筆者も含め、当時ジャンプを読んでいた600万読者が一斉に驚いたすごい数値だった。

この「戦闘力53万」とは、どれほどの強さなのだろうか。空想科学的に考えてみよう。

◆どんどん増える戦闘力

「戦闘力」が登場したのは、物語の中盤だった。

天下一武道会から数年後、宇宙からサイヤ人のラディッツが飛来した。彼はその左目にスカウターをかけていて、ライフルを持ったおじさんを見ると、こう言う。「戦闘力…たったの5か…ゴミめ…」

そしておじさんが撃ったライフルの弾丸を手で受け止め、指で弾き返して死なせてしまった。

ここから、このラディッツが実は悟空のお兄さんで、悟空もホントはサイヤ人でカカロットという名であることが判明し……という衝撃の展開になるのだが、それに言及すると、またマンガを読み返したくなってしまうので、ここでは戦闘力に絞って話を進めたい。

注目は、悟空たちが気を集中したり修行したりすると、戦闘力がエスカレートしていったことだ。悟空が足につけていたおもりを外すと416、かめはめ波の体勢に入ると924、界王様のもとで修行すると5千。仲間たちを死傷させたベジータに立ち向かっていくと7千、8千、それ以上! 3倍界王拳を出すと、1万7千、1万9千、2万1千……!!

なかでも、ナメック星での戦いはすごかった。最初、ギニュー特戦隊のバータのスカウターには、悟空の戦闘力は5千と出ていた。そして悟空は、特戦隊のリクームとバータを倒すが、このとき隊長のギニューは、悟空が瞬間的に戦闘力を増大させていることを見抜く。ギニューの見立てでは、その戦闘力は6万。

ところがギニューとの戦いが始まると、悟空の戦闘力はますます上がっていった。9万、10万、11万、12万、13万、14万、15万、16万、17万、18万!

これにはギニュー隊長も筆者もビックリだったが、同じ頃、もっと驚くべきことが起こっていた。フリーザがナメック星人のネイルにオソロシイことを言ったのだ。それが「わたしの戦闘力は530000です」というセリフだ……!

◆マグニチュードを参考に考えると

戦闘力53万とは、いったいどんな強さなのか。それを考えるのに、基準となりそうな数値が二つある。

一つは、前述の「ライフルを持ったおじさんの戦闘力5」だ。ここでは、ライフル弾1発の戦闘力を5と考えよう。

そしてもう一つは、亀仙人とピッコロが「月を破壊した」という事実。亀仙人の戦闘力は139で、ピッコロの当時のそれは329。亀仙人は、かめはめ波最大出力(マックスパワー)で月を木っ端微塵にしており、このときは戦闘力も上昇していたと見られるので、月の破壊には戦闘力200が必要と考えよう。

すると「ライフル弾」と「月の破壊」の戦闘力とエネルギーはこうだ(「J」はエネルギーの単位で「ジュール」と読む)。

ライフル弾:戦闘力5…エネルギー2.5×10³J

月の破壊:戦闘力200…エネルギー1.2×10²⁹J

ライフル弾の行にある「10³」は「10を3回かける」の意味だから、10³=10×10×10=1000。この書き方を「指数表記」といい、大きな数を表すのに便利である。というか、すごすぎる戦闘力のエネルギーを表現するには、これを用いるしかない。

さて、戦闘力は5と200では40倍の開きだが、考えるまでもなく、ライフル弾を40発撃ち込めば月を破壊できるかといえば、そんなことはない。両者のエネルギーを比べると、実に4.8×10²⁵倍の開きがあるのだ。普通の表記をすれば48000000000000000000000000倍。文字どおりケタ違い。具体的には25桁違いだ。

ここから考えると戦闘力は、地震のマグニチュードに似たシステムではないだろうか。

地震では「エネルギーが31.6倍になったときに、マグニチュードが1大きくなる」と定義されている。マグニチュード6は、マグニチュード5の31.6倍のエネルギーなのだ。

では、戦闘力の場合は? 計算してみると「戦闘力が1上がると、エネルギーは1.3545倍になる」というシステムになるようだ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

えっ、たった1.3545倍?と思うかもしれないが、これはすさまじい上昇率である。

たとえば、ナメック星での戦いで、悟空の戦闘力が9万、10万、11万……と1万ずつ上がっていったとき、戦闘力が「1万」増えるたびに、エネルギーは「6.2×10¹³¹⁷」倍に激増していたはずなのだ。

戦闘力10万→11万で1317桁増。11万→12万でさらに1317桁増。12万→13万でまたも1317桁増。1円→1億円で8桁増なのだから、モノスゴイ増大ぶりである。

◆宇宙が消え、新しい宇宙が生まれる!

すると、フリーザの戦闘力53万は!? 想像するのもオソロシイが、計算してみよう。

ライフル弾と比べると、フリーザの戦闘力は、53万-5=52万9995も大きい。するとエネルギーの倍率は「1.6×10⁶⁹⁸⁴²」倍。これをライフル弾のエネルギー「2.5×10³J」にかけると、出てくる答えは「4.1×10⁶⁹⁸⁴⁵J」だ。これは超絶すごい!

いったいどれほどのエネルギーかというと、比較の対象になるのは、この宇宙が始まったビッグバンのエネルギーくらいしかない。それでも、筆者の試算では10⁷²J程度。フリーザはビッグバンより6万9845-72=6万9773桁も大きなエネルギーが出せるということだ!

そういうヒトが、戦闘力を全開にしてパンチすると、現在の宇宙はどばーんと吹き飛んで、新しい宇宙が10⁶⁹⁷⁷³個生まれる! キックをしても、宇宙が10⁶⁹⁷⁷³個生まれる! もう何がなんだかわかりません。

しかもこの後、フリーザは3回の変身を経てさらに強くなり、悟空も超サイヤ人になって超パワーアップした。そのときの戦闘力は数値化されていないが、これほど強い2人が本気で戦うと、間違いなく現在の宇宙は滅亡するだろう。

エネルギーが莫大すぎるというのは、本当に大変なことなのだ。宇宙の平穏のためには、ぜひ仲よくしてほしいのだが……。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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