〈トイレの盗撮〉ますます巧妙かつ悪質に しかし、現行刑事法の限界も
ネットを何気なく見ていて、次のような書き込みに接しました。
【要注意】トイレの中に怪しい物を発見→盗撮カメラだった「マジかよ分かんないよこんなの」色々ありすぎて一同困惑
トイレの盗撮は以前から問題となっていましたが、どうもだんだん手口が巧妙になってきているような印象を受けます。盗撮された画像がネットに流れれば、それを消すことは不可能に近く、被害者の傷を癒やすことはできません。しかし、このような卑劣な行為に対して、現行の刑事法は適切に対応できていないのが現状なのです。
以下では、盗撮行為について適用可能な法律を概観して、その問題点を指摘したいと思います。
軽犯罪法
軽犯罪法の第1条23号には、「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を拘留(1日以上30日未満の拘置)又は科料(1,000円以上1万円未満)に処するとする規定があります(窃視の罪)。〈トイレの盗撮〉はこの規定に当てはまります。しかし、法定刑が非常に軽く、被害を十分に考慮しているとはいえません。
地方自治体の迷惑防止条例
現在、すべての自治体でいわゆる迷惑防止条例が制定されており、痴漢行為や性的しゅう恥心や不安を覚えさせるような、いわゆる「卑わい行為」が処罰されています。〈トイレの盗撮〉はこの「卑わい行為」に当たります。しかし、罰則は条例によってまちまちです。大都市部では、だいたい6月以下の懲役または50万円以下の罰金というものが多いようですが、地方によってはこれよりも軽い場合があります。6月以下の懲役でもどうでしょうか。決して十分であるとは言えないのではないでしょうか。
建造物侵入罪
たとえばコンビニや大型スーパー、デパートなどのトイレに盗撮機器を設置する目的で店舗に立ち入る行為は、実務では建造物侵入罪(刑法130条)として処罰されています(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)。建物の管理者は、盗撮目的での店舗の立入りについては当然許容していませんので、いくら平穏な態様で立ち入ったとしても、それは管理者の意に反する立入りとして建造物侵入罪を認めるのが判例の立場です。
学説には、客観的に不穏な態様での立入りを「侵入」とすべきであるとの意見も有力ですが、盗撮目的を隠した平穏な立入りに建造物侵入罪の成立を認めたとしても、コンビニなどの男女共用トイレを普通に使用した後で盗撮の意図が生じて、カメラを設置した場合には、それまでの立入りを「侵入」とすることは難しいと思います。また、建造物の管理者がみずから盗撮機器を設置した場合には、この罪の成立はありません。
名誉毀損罪
名誉毀損罪(刑法230条)における「名誉」とは、その人に対する社会的評価のことです。この点で盗撮行為に名誉毀損罪を適用することには難しいものがあります。確かに、入浴中やトイレを使用中の写真や動画が撮影され、公開されれば、被害者のしゅう恥心は強烈に害されます。しかし、トイレを使っているところを公開されても、その人の社会的評価にはまったく影響がないと考えられるのです。この点で、〈トイレの盗撮〉を名誉毀損罪で対処するには無理があります。
わいせつ図画や児童ポルノ画像
かりに盗撮画像に性器が写っていれば、わいせつ図画や(18歳未満の場合は)児童ポルノ画像と判断される場合があります。しかし、考えてみれば、被害者にとってこれほど失礼でひどい話はありません。何もみずからそのような画像を好んで撮影させたわけではないのに、盗撮された自分の身体の一部が「わいせつ」や「児童ポルノ」として〈卑わい〉だと判断されてしまうことは、セカンドレイプにも等しく、被害者の傷口に塩を刷り込むようなものではないでしょうか。
欧米ではこのような盗撮行為を正面から処罰している立法例が普通です。どのような形で条文を作るかは、確かに難しい面もありますが、盗撮機器の入手、盗撮機器の設置、盗撮行為、盗撮画像の所持・頒布のそれぞれの段階に応じて、適切に処罰規定を設けることが望ましいと思われます。そろそろ正面から〈盗撮罪〉の犯罪化を考える時期ではないでしょうか。(了)
*Facebookでいろいろなご意見をいただきました。