【インタビュー】藤井尚之 サックスプレイヤーが仕切るコラボライヴの楽しみ方、音楽人生の楽しみ方
昨年、50歳記念ライヴに鈴木雅之ら豪華ゲストが集結
藤井尚之というと、元チェッカーズのメンバーとのユニット・アブラーズ(武内享、大土井裕二)としての活動や、様々なミュージシャンとのコラボで活躍するサックスプレイヤー。昨年12月、藤井の50歳を記念して『Welcome 50's Party』と題したライヴが行われ、鈴木雅之を始め、兄・藤井フミヤやアブラーズ、ユニットの仲間らが顔を揃え、にぎやかな一夜となった。今年は『Nao's Christmas Night Show』と題し、クリスマスライヴというスタイルで、MY LITTLE LOVERと中孝介、兄・藤井フミヤをゲストに迎え12月19日に、昨年同様東京・豊洲PITで行われる。そのライヴを前に、去年の豪華なライヴの事、そして今年のライヴへ向けての意気込み、更にデビュー30年を超え、去年50歳という節目を迎え、そんなミュージシャン・藤井尚之の未来像などを語ってもらった。
--去年の50歳のバースデーライヴは、鈴木雅之をはじめ豪華ゲスト陣が駆けつけ、ハッピーオーラが出ている、シアワセ感いっぱいのライヴでした。
藤井 すごいゲストの方が来てくれまして、ハッピーオーラというか(笑)もう大変でした。
--誕生日ライヴでありながら、仕切る立場の尚之さんが大変そうだなという雰囲気も伝わってきて、それも尚之さんらしくてよかったです(笑)。
藤井 ただただ慌ただしかったですね。マーチン(鈴木雅之)さんはライヴ当日にしかリハができなくて(笑)…。ハイ次、ハイ次という感じでしたので、終わった後は本当にホッとしたことを今でもよく覚えていますね。
--マーチンさんとの「め組の人」「ランナウェイ」は新鮮でした。TheTRAVELLERSのコーラス、(武内)享さんのギター、そしていつもは桑野(信義)さんのトランペットが響くところが尚之さんのサックス、あれがすごく新鮮で、鳥肌ものでした。コラボの意義、意味を感じました。しかもマーチンさんがトップバッターという前代未聞の始まり方でした。
藤井 マーチンさんぐらいになると、普通はトリだと思いますが、トップバッターを買って出て下さって、粋ですよね。ありがたかったです。
--豪華ゲスト陣に加え、チェッカーズのメンバーが7人中4人揃うなど、かなりレアな内容でした。
藤井 本人的にはちょこちょこやっている感じがしていますので、そんなに新鮮ではなかったんですけど(笑)、あの数のメンバーが揃うのってなかなかないですからね。今までの音楽人生で交流がある方たちが来て下さいましたが、またライヴをやるにあたっては、そういう方たちに再び集結してもらうというのも、どうかなと思いますし……やる側も、来ていただけるお客さんも、違う形のものを期待すると思うんですよね。気負わず楽しみたいです。
--他のミュージシャンが弾き出すチェッカーズの曲の音と、メンバーがやる音って当たり前ですが、やっぱり違いますよね。
藤井 不思議ですよね。なんなんでしょうね。技術面でもないし、やっぱりオリジナルの人たちが醸し出すものなのかもしれませんね。バンドであった証ではないかと(笑)
今年はMY LITTLE LOVER、中孝介、兄・フミヤとコラボ
--去年のライヴを観て一番感じたのは、尚之さんがいい年の取り方をしていて、それが全体の空気になっていて、その空気にゲストやミュージシャン達が包まれ、それが音にも表れてまたいい雰囲気になるという。
藤井 年は取ってしまいましたが(笑)、若作りというわけではないのですが、精神的には子供のままでいるような気がします。それは僕に限らずミュージシャンってそういう人が多い気がします。音楽をやることで、自分を子供のままでいさせてくれるといいますか…。
--ファンの人たちも変わらない、少年のままのヤンチャな尚之さんでいてくれることが嬉しいんでしょうね。
藤井 ファンの人たちも同じように年を取ってきているので、関係がずっと変わらず続いている感じがいいですよね。
--それプラス、尚之さんが色々なアーティストとコラボして、どんな化学反応が起こるのかを楽しみにしていると思います。
藤井 去年ゲストで来ていただいた「Non Chords」の後藤次利さん、斎藤ノヴさんにはデビュー当時からお世話になっていまして、もちろん僕らがデビューする前から活躍している方々なので、最初お会いしたときはすごく緊張しましたが、いざ一緒に音を出すと全然そういうこともなく、もちろん年功序列的な習慣は大事にしなければいけないとは思いますが、でも音楽ってやっぱりそういうのは関係ないんだなってことですよね。スポーツとは違うものがあるのかなと思います。当然キャリアとかの部分では埋められない差があるとは思いますが、でも自分は自分の世界観をしっかり持っていればどういう人と一緒にやっても、面白いものをお観せできると信じています。
--相手が変わると、新しい自分が発見できる楽しみもある。
藤井 昔から知っている人とやっている時は、心地よさを感じていると思いますし、やったことない人とやる時の方が、どういう気持ち、感情を乗せて表現するのかなと思いますね。今回もどんな感じで一緒にできるのか楽しみなんです。
--今回はMY LITTLE LOVERと、兄でもある藤井フミヤさんとの共演ということですが、マイラバとは初共演ですか?
藤井 先日『情熱大陸スペシャルライヴ』(8月22日夢の島公園陸上競技場)に、僕はハウスバンドの一員として出演したのですが、その時にゲストでマイラバさんが来てくださって、ご一緒したのが初めてでした。
--ハウスバンドで演奏しながら、AKKOさんの声を聴いて、いかがでしたか?
藤井 ひとつの時代、ブームを作ったあの独特の声。マイラバだけにしかない世界観がありますよね。
ボーカリストとが仕切るコラボライヴとは違う面白さを出していきたい
--AKKOさんの、あのキュートだけど一本芯が通った声と、尚之さんのサックスがどう絡んでどんな化学変化を起こすのか、楽しみですよね。
藤井 最近、テナーサックスという楽器にこだわりすぎていたかなという感じがしていて、もっと色々な楽器を使った方がいいのかなと思ったりしていまして……でもやっぱり敢えてテナーだけでやるのも面白いのかなとも思ったり…。ソプラノサックスで美しい感じでやるのもいいのですが、そこを敢えてテナーでやるというのもいいかも……とか、今、色々思いをめぐらせています。今回も音楽監督をお願いしています、(屋敷)豪太さんと今相談しているところです。
--今年のゲスト、MY LITTLE LOVERはヒット曲も多く、それを今回のライヴ用にどんなアレンジになるのかも楽しみの一つですね。
藤井 そうですね、その辺も豪太さんと詰めていかなければいけないのですが、名曲の数々を料理する楽しみというのも、このライヴの醍醐味です。
--デビュー30周年を超えて、これまでの尚之さんのキャリアの中で一緒にやってきた人達、築いてきた人脈が、時を重ねてきた中で、今、すごくいい感じで集まることができて、いい音を出し合っている、そんなライヴになっていますし、今年もそうなりそうですよね。
藤井 例えばうちの兄のような、フロントマン、ボーカリストが表に立って、こういうライヴをやるのと、自分のようなプレイヤーサイドの人間が、声をかけてやるのとでは意味合いも違うと思いますので、ボーカリストが仕切るのとはちょっと違う面白さを出したいと思っています。去年あのライヴをやって、今年もできることになり、ずっと続けていきたいなと思っていますので、そのへんの意識を大切にしたいです。回数を重ねればわかることもあるとは思いますが、立場を生かせるというか、そういう見え方ができたらいいと思います。
--サックスって歌に彩りを与えるものじゃないですか。今までサックスをバックに歌ったことがないアーティストにとってはすごく新鮮に感じますよね。
藤井 サックスって特殊な楽器なので、いらないといえばいらないし、あったらあったで主張するじゃないですか。そこなんですよね。そんなクセのある楽器ですので、そこを敢えて全面に出して、面白いものが出来上がればと思います。
藤井は、普段から色々なタイプのアーティストとコラボをしたり、コンポーザーとして曲を提供したり、プレイヤーとしても活躍しているが、常に自分のペースで走り、時代の波に流されることなく自分のスタイルを貫いているという、強さを感じさせてくれるアーティストだ。強さと優しさとを持ち合わせた藤井の周りには、彼のことを慕う、支持するミュージシャンが集まる。それが去年の『Welcome 50's Party』につながっている。“ガッついてない”--それが藤井のイメージ。それがライヴの雰囲気にも出ている。大人が音楽を楽しむ、そんな空間と時間が心地良さにつながっている。それを、キャリアを重ね、いい年の取り方をしているミュージシャンの“余裕”と呼ぶなら、藤井尚之はこれからますます“ステキな”ミュージシャンになっていきそうだ。
キャリアを重ねたからこそ、これからは新しい扉を開いていきたい
--これから目指すべきプレイヤーの理想像ってありますか?
藤井 これまで自分がやってきたこと、積み上げてきたことは自分の武器になるのですが、ちょっと苦手なものといいますか、通ってこなかったものをもう一回見つめ直す必要があるのかも、と思ったりしています。新しい扉を自分で開いていかなければいけないし、まだまだ勉強することがたくさんあると感じています。
--触れていない分野に挑むということは、逆に楽しみではありますよね。
藤井 苦手ということではなく、学ぶという風に捉えたら、楽しくなるかなと思っています。
--気持ち的に余裕が出てきたということなんでしょうか。
藤井 特別何かを極めたということではありませんが、違う可能性があるのかなということを強く感じ始めたんですよね。
8年ぶりのアルバムでは“人生”を”歌う”
--8年ぶりにアルバムをリリースしたり、去年からこのライヴをスタートさせたり、そういう“タイミング”なのかもしれませんよね。50歳という年齢もそうですし。
藤井 そうですね。自分のスタイルといいますか、皆さんが描く藤井尚之のスタイルというものが出来上がりつつあるのなかなと思いますね。だからまた違うスタイルを求めて旅に出るという感じでしょうか。
今年でデビュー32年。チェッカーズ解散から23年、そんな彼のこれまでの音楽人生を一枚にパッケージした8年ぶりのオリジナルアルバム『My Life』を、12月9日にリリースする。サックスプレイヤーとしてではなく、ソングライターとして「人生」を歌う。作曲は全て自身が手がけ、作詞をYOU、谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)、屋敷豪太、藤井フミヤら豪華アーティストが手がけ、そして自らがボーカルをとっている。このアルバムは、ここから更に道を切り拓いていこうという、藤井尚之の強烈な意志表示だ。
※インタビュー時には中孝介さんの出演が確定していなかったため、インタビュー内では触れていません。サックスと”こぶし”がどんな化学反応を起こすのか、楽しみだ。
Profile
1964年生まれ、福岡県・久留米市出身。1983年に7人組ロックバンド、チェッカーズのサックスプレーヤーとして「ギザギザハートの子守唄」でデビュー。次々とヒット曲を送り出し一大ムーブメントを巻き起こした。1987年、チェッカーズから初のソロ活動をスタートさせ、シングル・アルバム『NATURALLY』を発売。1992年チェッカーズ解散。尚之が手がけた作品は29曲(シングルは8曲)にもおよんだ。解散後は、ソロ活動を本格的にスタートさせ、F-BLOOD(藤井フミヤ)をはじめ、アブラーズ(武内享、大土井裕二)、Non Chords(後藤次利、斉藤ノヴ)、SLUG & SALT(屋敷豪太、有賀啓雄、松本圭司、飯尾芳史)、De Niro(朝本浩文)、The Nature Sound Orchestra(ジョー奥田、高橋全)など、常に新しいユニットで新しい音楽を求め、斬新な作品を生み出している。2011年にはTheTRAVELLERSとのコラボアルバム第1弾『RUBBER TOWN』、2013年には第2弾『El Camino』をリリースし、精力的にライヴ活動を行っている。