ナイキが米国においてBAPE(A BATHING APE)を商標権侵害で提訴:日本ではどうなるか?
「ナイキがベイプを提訴、エア フォース 1などのデザイン盗用を主張」というニュースがありました。米国において、ナイキ(Nike Inc.)が、BAPE(A BATHING APE)(企業名としてはUSAPE LLC)を商標権侵害で提訴したというお話です。
ところで、A BATHING APEというとデザイナーのNIGOさん(妻は牧瀬里穂さん)が始めたブランドとして有名だと思いますが、2011年に香港のファッション・コングロマリットであるI.T Limitedに買収され、現在は同氏は経営に関係していません。
PACERから訴状をダウンロードして読んでみました。上に「商標権侵害」と書きましたが、今回の訴訟は主に「トレードドレス」に基づくものです。「トレードドレス」とは、米国の知財制度における概念で、商品のパッケージ、商品の形態、店舗の内装や外観が出所表示機能を発揮しているものです。商標と類似しており、米国では商標と同様に登録可能です(周知であり十分な識別性があることが条件です)。たとえば、日本では不遇な扱いを受けているルブタンのレッドソール(赤靴底)も米国ではトレードドレスとして登録されています。
日本では、トレードドレスは、立体商標、および、不正競争防止法の「商品等表示」として保護され得ますが、ナイキは日本国内では靴の形状を立体商標としては登録していません(少なくともエアジョーダン等の超有名な商品については登録可能には思えますが)。
また、冒頭で引用した記事の見出しでは「デザイン盗用」となっていますが、今回は意匠権は関係ありません。ナイキは日米共に意匠権を大量に所有していますが、意匠は公知でない時点で出願する必要がありますし、米国の意匠権の存続期間は15年なのでエアジョーダン等の意匠権は仮にあったとしても権利満了しています。
タイトル画像を見るとわかるように、BAPEの靴はマーク部分は異なりますが、全体的なデザイン(すなわち、トレードドレス)は類似しています。もとより、BAPEの靴はオマージュ的な意味合いで、敢えて超有名な靴のデザインを借用して、少数限定販売するという思想でした。
訴状によると話の流れは以下の通りです。過去においてはBAPEの靴は米国市場においては、散発的にしか販売されておらず、モグラ叩き状態でした(訴状でも”Whack-a-Mole”(モグラ叩きゲームの英語名称)という言葉が使われています)。そして、2009年にナイキがNIGOさん(当時のUSAPE社長)と「会談」した後に、BAPEは米国市場での活動を大幅に縮小し、I.T社による買収以降は香港と中国を主なターゲットとし、デザインもナイキの靴に類似しない方向に変えていきました。しかし、2011年頃から、BAPEは再度米国でのプレゼンスを上げ、かつ、デザインも再度ナイキに寄せてきたので、訴訟に踏み切ったということのようです(侵害を放置していたわけではないという点を主張している書きっぷりに思えます)。
現在は、訴状が提出された段階で先行きはわかりませんが、ほぼ確実に陪審員裁判になるであろうことを考えると、「香港企業がアメリカのアイコニックなデザインを摸倣した」との判断がされる可能性はかなり高いのではと思います。おそらく、和解で終結するのではないでしょうか?
同様の訴訟が日本で起きるかですが、ナイキとしては当然に検討していると思います。しかし、前述のとおり、ナイキの靴の形状の立体商標は日本では登録されていませんので、商標法ではなく不正競争防止法による争いになるため、ナイキとしてはややハードルが高くなります。