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2大スターのデュラントとアービングを擁するネッツ 期待を裏切る船出となった要因

杉浦大介スポーツライター
八村塁が所属するウィザーズに敗れ、ネッツは3勝4敗という厳しいスタートになった。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

前評判を裏切るスタート

 最初の7戦で4敗ーーー。開幕前の話題性を考えれば、1月3日のワシントン・ウィザーズ戦でも122-123で敗れ、負け越しレコードになったここまでのブルックリン・ネッツは期待外れと言って良い。

 今季、ケビン・デュラント、カイリー・アービングが復帰し、スティーブ・ナッシュが新ヘッドコーチ(HC=監督)に就任。新たなパワーハウスとなったネッツへの期待度は莫大だった。特にプレシーズン2試合と開幕後の2戦では順調に見えただけに、その後の5戦中4敗と崩れたのは少々意外ではあった。

 「私たちには3つの問題がある。ディフェンスのミスの多さ、オフェンシブ・リバウンド、ターンオーバーだ」

 3日のウィザーズ戦後、ナッシュHCは苦戦の原因としてその3つを挙げていた。実際にこの日はアービングが30得点、10アシスト、デュラントは28得点、11リバウンド、7アシストと両輪が優れた数字を残しながら、チーム全体で20ターンオーバーとミスを連発し、ディフェンスも崩壊。最後はアービング、デュラントがどちらも決まれば逆転のショットを外し、万事休すとなった。

 「ターンオーバーが多すぎた。アグレッシブにプレーを決めようとして、やりすぎてしまっていた。シュートとパスのバランスを取らなければいけない」

 今季自己最多の6ターンオーバーを献上したデュラントのそんな言葉にある通り、チーム全体がやや空回りしている部分はあるのだろう。

リーグ屈指のスコアリングPGアービングとデュラントの得点能力がネッツの生命線だ。
リーグ屈指のスコアリングPGアービングとデュラントの得点能力がネッツの生命線だ。写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 開幕直後にスペンサー・ディンウィディーが右膝前十字靭帯の部分断裂で離脱を余儀なくされた不運はやはり響いている。3戦目以降はデュラント、アービング、キャリス・ルバートといったプレーメイカーたちに力みが感じられ、流麗なボール回しは消失。中でも“第3のスター”役が期待された6thマンのルバートが、今季最初の7戦でFG成功率37.3%、3Pは27.3%と低調なのが痛い。

 ナッシュHCの言葉通り、リバウンドも弱点になっている印象がある。12月30日のアトランタ・ホークス戦では、40-54と大きくアウトリバウンドされたことが大苦戦の直接の要因になった。前戦のウィザーズ戦でもオフェンシブリバウンドは7-13と取り負け、セカンドチャンスポイントでは4-17と大差をつけられている。

 現時点で明らかにより優れたセンターであるジャレット・アレンではなく、ベテランのデアンドレ・ジョーダンを先発させる起用法も不可解。このままではルディ・ゴベア、ジョエル・エンビードといった強力ビッグマンと対峙する5日のユタ・ジャズ戦、7日のフィラデルフィア・76ers戦でもネッツは苦戦必至かもしれない。

タレント揃いのチームには楽観論も

 ここまでは突っ込みどころばかりを述べてきたが、シーズンは始まったばかりの今、もちろん必要以上に慌てるべきではないのだろう。ウィザーズ戦後、ナッシュHCの落ち着き払った言葉は単なる強がりには聴こえなかった。

 「まだ自分たちのプレーを見つけようとしているチームは他にもたくさんあるし、特に私たちは新しいチームだ。未経験の新HC、新しいスタッフ、一緒にプレーしたことがない選手たちが集まっている。トレーニングキャンプが短かったこともあり、私たちは苦しんでいる。ただ、それは良いことなんだ。ここで快適ではない時間を経験することで、成長していける」

 昨季はケガに苦しんだデュラント、アービングが戻ったばかりなのであれば、実際にチーム作りに多少の時間がかかるのは仕方ない。振り返れば、レブロン・ジェームズ、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュを揃えたマイアミ・ヒートでさえ、“スリーキングス”の結成1年目だった2010~11シーズンは最初の17戦で9勝8敗と苦しんだ。結局はファイナルまで進んだその年のヒート同様、試行錯誤を繰り返しながら、コミュニケーションと起用法を徐々に確立させていけばいい。

 この序盤戦、何より重要なのはアキレス腱断裂という大ケガから立ち直ったデュラントが元気なこと。ここまでの6試合で平均28.2得点(FG成功率51.4%)、7リバウンド、4.8アシストという数字も心強い。通称”KD”がこのまま“らしさ”を取り戻し、健康を維持してくれれば先行きは有望だ。常にスーパースターを中心に動くNBAで、デュラント、アービングを擁するネッツは依然として怖いチームであり続けるはずである。

コーチ未経験のまま”一国一城の主”になったナッシュはスター軍団を向上させられるか。
コーチ未経験のまま”一国一城の主”になったナッシュはスター軍団を向上させられるか。写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ただ・・・・・・2大スターを軸とするネッツのオフェンスはいずれ仕上がるとしても、ディフェンス面は今後も厳しいという見方があることは付け加えておきたい。

最大の課題は守備向上

 対戦相手が多くのオープンショットを外した最初の2戦では守備の綻びは目立たなかったが、直近の4戦はすべて114以上の大量失点。優勝を目指すなら、やはりディフェンス向上は必須である。オフェンス重視の選手が多いチームが、守備をどうやって引き締めていくかが今後の見どころになっていくに違いない。

 4日には、デュラントがNBAの安全衛生プロトコルにより5日のジャズ戦を欠場するという情報も飛び込んできた。報道によると、デュラントはCOVID-19(新型コロナウイルス)の陽性者ないし陽性の可能性がある人物との接触があったことで、プロトコルに従って7日間の隔離になると報道されている。

 これで向こう4試合はエースの欠場が確実(注・ジャズ戦前の会見でナッシュHCは隔離期間の日数はまだわからないとも話している)。パンデミック下のシーズンとなった今季はこういったことがどのチームにも起こり得るが、特にチームを作り直しているネッツにとって、ここでケミストリー養成の一時中断を余儀なくされることは目先の勝敗云々以上に痛い。

 チーム史上最大級の期待を背負ったネッツの2020~21シーズンは、このように波乱含みのスタートとなった。ここからチームがまとまり、優勝候補らしい強さを手に入れられるのかどうか。依然として楽観論も少なからずあるが、ナッシュHCが挙げる“3つの弱点”の克服にはもう少し時間がかかりそうではある。

 今季のチームの活躍を楽しみにし、莫大な期待を寄せてきたファンも、しばらくは落ち着かない日々を過ごすことになるのかもしれない。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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