えっ!「令和2022年4月1日」だって!?~どうなる「日付」を書き間違えた遺言書
小池小百合さん(仮名・57歳)の父・小池慎太郎さん(仮名)は3年間前に自宅の階段から落ちてしまい、それから自力歩行が困難になり車椅子生活になりました。小百合さんの母親は3年前に既に亡くなっていたので慎太郎さんは一人暮らしになってしまいました。
小百合さんには3歳年上の兄・真一さん(仮名・60歳)がいますが、慎太郎さんと折り合いが悪く、ここ数年電話の一本もありません。小百合さんは仕事をしていましたが、在宅勤務がほとんどだったのと、独身で動きやすかったので、慎太郎さんと同居して身の回りの世話をすることにしました。慎太郎さんは小百合さんの献身的な介護にとても感謝していました。
感謝の証しに「遺言書」を残す
ある日、慎太郎さんが小百合さんに「お前には本当に感謝しているよ。だから遺言書を残したよ。私が死んだら、これを家庭裁判所に提出して検認の手続きをしなさい」と言って封印された遺言書を手渡しました。それから1か月後、慎太郎さんは息を引き取りました。享年93歳の大往生でした。小百合さんは兄・真一さんに葬儀の連絡を入れましたが、とうとう真一さんは葬儀にも参列しませんでした。
「令和2022年4月1日」の日付
四十九日が終わったので、小百合さんは慎太郎さんに言われたとおり、家庭裁判所に慎太郎さんが残した自筆証書遺言の検認を申立てました。申立てをしてから約1か月後に家庭裁判所が指定した日時に家庭裁判所に出向いて自筆証書遺言の開封が行われました。そこに、なんと真一さんがいるではありませんか。検認をする日時は相続人全員に知らされるので、真一さんにも家庭裁判所から検認日時の通知が届いたのでした。
小百合さんと真一さんが見守る中、家庭裁判所の担当者によって遺言書が入っている封筒の封が切られました。中には1枚の便せんが入っており、そこには慎太郎さんの字で次のように書かれていました。
遺言書
私の全ての財産を長女・小池小百合に相続させる。
遺言執行者に小池小百合を指定する。
付言
小百合の献身的な介護には心から感謝している。この遺言の内容が速やかに実現することを切に願う。
令和2022年4月1日
遺言者 小池慎太郎 印
なんと、日付が「令和4年」とするところを「令和2022年」と書かれているではありませんか。これを見た兄・真一さんは「令和2022年なんて年は無いね。この遺言は無効だ!」と言って帰ってしまいました。果たして真一さんの言うとおりこの遺言書は無効になってしまうのでしょうか。小百合さんはこれから先のことを思うと気持ちが沈んでしまいました。
遺言には「日付」が必要
日付は遺言者の遺言能力(注)の有無を判定したり、内容が抵触する複数の遺言書の先後を確定する際の基準として、重要な役割を果たします。そのため、年月日まで正確に記載しなければなりません。
(注)遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足りる意思能力のこと。民法は、15歳以上になれば遺言能力があるものと定め(民法961条)、遺言能力は遺言作成時に備わっていなければならないとしている。
民法も、自筆証書遺言(自分で書いて残す遺言)の成立要件として、「日付」を自書することを挙げています(民法968条1項)。
民法968条1項(自筆証書遺言)
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
「特定」できれば有効
日付を書く目的は、遺言書を作成した年月日を特定することです。したがって、年月日が特定できればよいので、次のように記載しても有効です。
・65歳の誕生日
・令和4年の天皇誕生日
・2022年の勤労感謝の日
「吉日遺言」は無効
では、「令和4年11月吉日」と書いたらどうでしょうか。令和4年11月の吉日(=大安)は、13日・19日・24日・30日の計4日あるため特定できないので無効となります。
「令和2022年」は有効か無効か
では、「令和4年」とすべきところを「令和2022年」と書かれた遺言書はどうでしょうか。
判例は、「昭和48年」と書くべきところを「昭和28年」と書いた遺言を「遺言に記載された日付が真実の作成日付と相違していても、その誤記であることおよび真実の作成の日付が、遺言書の記載その他から容易に判明する場合は、日付の誤りは遺言を無効としない」としました
その他、次のような誤記を有効とした判例があります。
・「昭和」と書くべきところを「正和」と書いた
・「平成12年1月10日」を「平成2000年1月10日」と書いた
※平成12年=西暦2000年
以上の判例によれば、「令和4年4月1日」を「令和2022年4月1日」と記載しても有効と考えられます。
日付は「年・月・日」を書く
しかし、遺言書にはもめごとが起きるようなおそれがあることは書かないことです。なぜなら、遺言書を残した本人(遺言者)は、遺言の効力が発生する時(遺言者が死亡した時)は、この世にいないので「このことはこういうことですよ」と遺言者自ら説明できないからです。したがって、日付は「令和4年11月16日」「2022年11月16日」のように「年・月・日」をだれがどう見ても特定できる日付を書くようにしましょう。
曖昧な内容の遺言書を残してしまうと、遺言書が「争族」の原因となってしまいます。遺言書を残す場合は、今回ご紹介した日付に限らず「解釈の余地が無い内容を残す」ことを肝に銘じて残すようにしましょう。