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中村獅童さん、いときんさん、野際陽子さんがかかった「肺せんがん」とは 医師の解説

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
最近はこんな風にレントゲンを見ることはなくなりましたが(ペイレスイメージズ/アフロ)

最近、有名人が「肺せんがん」であったとの報道が相次いでいます。俳優の中村獅童さんとET-KINGいときんさんは現在肺せんがんで闘病中であり、野際陽子さんはこれが原因で今年6月に亡くなりました。そこで、肺せんがんとはどんな病気か、質問に答えながらお話します。本記事ではこの方々の病状についてお話はしていません。

肺がんではなく、肺せんがんとは何か?

タバコを吸っているとなりやすい?

肺がんになったら手術するの?

肺がんではなく、肺せんがんとは何か?

肺せんがんとは、肺がんを大きく4種類に分けた時の一つの呼び名です。肺がんの中で一番多いタイプになります。

どのように4種類に分かれているのでしょうか。これは、がんを切り取って顕微鏡で見た時の、がん細胞の形や集まり方で分けているのです。顕微鏡で見た見た目が違うので、当然その4種類は性質も違います。

最近メディアでなぜか「肺がん」ではなく「肺せんがん」と書かれていますが、なぜでしょうか。同じ理屈で行けば大腸がんも大腸のせんがんだったり他の種類だったりしますが。

おそらく深い理由はなく、発表が「肺せんがん」だったからそのまま表記した、という程度でしょう。メディアの皆さん、ご一考を。私が思うに「肺せんがん」は「肺がん」で良いかと思いますよ。もしくは専門家が使う分類の「非小細胞肺がん」「小細胞肺がん」で。

タバコを吸っているとなりやすい?

肺がんはタバコを吸っているとなりやすい。これは医学の世界では常識です。ある研究(詳細は下記※1)によると、喫煙者が肺がんになる危険性は吸わない人に比べて男性で4.39倍、女性で2.79倍高まります。そして若い時にタバコを吸い始めた人は、遅い人よりも肺がんになる危険性が高まります。

もちろんタバコを吸っていなくても肺がんになる人はいますし、ヘビースモーカーでも肺がんにならない人もいます。

タバコは肺がん以外にも、様々ながんの原因になります。がん以外にも、いろんな病気の原因になるのです。今タバコを吸っている方は、禁煙することを強くオススメします。

禁煙すると、肺がんになる危険性は吸い続けた人より減るのです。(※2)

肺がんになったら手術するの?

肺がんになったら手術をするのか。

はい、します。でも全員がするわけではなく、がんがあまり進んでいない人にのみ行います。肺の手術は結構大きな手術なので、他に病気があったり元気のない人だと手術をしないほうがいいと外科医が判断することもあります。その辺は色々な検査で決まります。

ところで、肺がんの手術は胃や大腸など他のがんの手術に比べて結構大変です。手術をしたせいで亡くなってしまう危険性もあります。

しかし、実は知られていませんが、日本の肺がんの手術レベルは世界最高峰です。その根拠として、こないだ結果が発表された、最新の大きな研究(※3)では、日本各地の60カ所以上の病院で行われた肺がんの手術1106件について、死亡者がゼロという結果だったのです。通常は1-3%の死亡率ですから、かなりいい結果です。この研究結果は世界中に衝撃を与えたことでしょう。この研究に関連した手術では比較的元気な患者さんだけを対象にしますから少し良い結果になるのはわかるのですが、それにしてもゼロはすごいのです。しかもそれが日本のトップレベルの病院2, 3カ所だけの結果ではなく、60カ所以上の結果なのですからさらに衝撃です。

なお、手術をしない場合は放射線(抗がん剤を併用することもあり)や抗がん剤で治療することになります。

以上、「肺せんがん」について簡単にまとめました。

肺がんに関して、さらに詳しく知りたい方はこのがん情報サービスページをご覧ください。個別のご病状などについては、個人差が大きいため主治医の医師とよくお話をして下さいね。

※本記事は一般の方向けへの解説であり、わかりやすさを優先しているため医学的な厳密さは追求していません。

(※1)

Wakai K., Inoue M., Mizoue T., et al. Tobacco smoking and lung cancer risk: an evaluation based on a systematic review of epidemiological evidence among the Japanese population. Jpn J Clin Oncol. 2006; 36(5): 309-324.

(※2)

肺癌ガイドライン

(※3)

JCOG0802試験結果

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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