知っておきたい保釈制度Q&A
一般の方の疑問点を踏まえ、保釈制度について解説しました。
【保釈制度について】
Q.そもそも保釈って、どういう制度なの?
A.身柄の拘束が続く者に対し、逃亡を防ぐための担保となる相当額のお金を裁判所に納付させ、これと引き換えにその拘束を解くというものです。一般にはこのお金を「保釈金」と呼びますが、正式には「保釈保証金」と言います。
Q.なんで悪いことをした人を自由にするの?
A.確かに、わが国では起訴された事件の有罪率が99%超に上っています。しかし、誰であっても、また、どんな事件であっても、有罪判決が確定するまでは無罪だと推定されています。
勾留にはコストもかかるわけで、罪証隠滅のおそれなどがなく、裁判所への出頭も期待できるのであれば、必ずしも勾留を続ける必要はありません。家族が離散することを防止し、社会復帰を早めることにもなります。
Q.逮捕されたら、すぐに保釈を請求できるの?
A.いいえ。アメリカのように逮捕直後でも保釈が可能な国もありますが、わが国では起訴されて「被告人」の立場にならないと請求できません。
Q.裁判所が保釈を許可したということは、無罪や執行猶予になるってこと?
A.いいえ。保釈の可否と有罪・無罪や量刑とは関係ありません。むしろ保釈されても有罪になることの方が多いです。執行猶予が見込まれる事案であればその確率は高まりますが、保釈されても実刑になることもあります。
Q.実刑になると、どうなるの?
A.保釈の効力が失われるので、判決言渡し当日に再び身柄を拘束されることになります。
そうなりそうなケースでは、判決言渡し後にその手続を行うため、数名の検察事務官が傍聴席に控えています。
Q.実刑になると、もう保釈の請求はできないの?
A.いいえ。控訴や上告は可能なので、再び保釈を請求し、許可されることもあります。
ただし、いったんは実刑判決が出ている被告人なので、許可の条件が厳しくなるし、保釈金の額も当初納付分の1.5倍程度となることが多いです。
Q.保釈されるメリットは分かるけど、保釈されないメリットってあるの?
A.わが国の場合、保釈が認められにくい代わりに、勾留されていた日数分を実際に服役する刑期から差し引くことになっています。
その分だけ、刑務所で服役する期間が短くなります。
裁判所の裁量に任されている部分が大きく、全ての日数分が差し引かれるわけではないものの、刑務所の方が拘置所よりも厳しい生活なので、実刑が確実なのであれば、あえて保釈を求めず、拘置所でゆっくり過ごすというのも一つのやり方です。
勾留による身柄拘束が長く、事実上の処罰を受けたに等しいということを裁判所にアピールし、執行猶予を狙うこともできます。
このほか、世を騒がすような事件の場合、その熱が冷めやらない中で保釈されると、マスコミなどに追いかけ回され、本人や家族の平穏な生活が乱されます。
拘置所に入っている限り、高い塀や分厚い壁によって外部から守られるというメリットもあります。
【保釈の流れ】
Q.通常は、どのような流れで保釈が決まるの?
A.被告人側から裁判所に保釈を請求するところからスタートします。本人や家族も請求できますが、弁護人による請求がほとんどです。
請求があると、裁判所は検察官の意見を聴いた上で可否を決めます。この意見が保釈の可否を左右することも多いです。
Q.検察官の意見って、どんなもの?
A.(a)保釈を可とする「相当」、(b)不可とする「不相当」、(c)裁判所に判断を委ねる「しかるべく」の3パターンが基本です。
裁判所から書面で意見を求められるので、同じく書面で返答しています。
(a)は皆無に等しく、通常は(b)です。弁護人が保釈請求書で挙げている様々な事情を踏まえ、意見書に別紙を付け、具体的で詳細な反論を記すこともあります。
保釈に強く反対し、もし許可されたら必ず不服申立ての手続を行うという場合には、(b)の表現を強め、「保釈は不相当であり、ただちに却下すべき」などと記載した意見書を提出します。
事件によっては、担当検察官1人の判断ではなく、幹部の決裁を要することもあります。
また、(a)や(c)だと、そのまま保釈されるのが通常なので、併せて適当と思われる保釈金の額や、接触を制限すべき関係者の氏名などを具体的に記載します。裁判所に参考にしてもらうためです。
Q.いつ裁判所に意見を出すの?
A.裁判所から意見を求められた時間帯や、他の業務との兼ね合いで担当検察官がどれだけ忙しいかによります。
例えば、午前の早い時間に意見を求められ、別の事件の取調べや裁判の立会などが入っていなければ、遅くとも午後の早い時間には意見書を提出できます。
逆に、午後の遅い時間に意見を求められると翌日回しになることが多いですし、それこそ金曜日の遅い時間になれば週明けに、連休が続けば連休明けにずれ込むことすらあります。
中には、あえて意見書の提出を遅らせ、少しでも被告人の身柄拘束を長びかせようとする検察官も現にいます。
そのため、弁護人が裁判所に保釈請求書を提出するのと同時に、あらかじめ検察官にもファックスで送っておくことも多いです。
それでも、検察官が裁判所に提出する意見書を実際に作り始めるのは、裁判所から正式に意見を求められてからになります。
弁護人から催促の電話がかかってくることもありますが、検察事務官が気を利かせ、不在だと言って取りつがなかったりもします。
Q.弁護人はその意見の内容を知ることができるの?
A.検察官が裁判所に提出する前だと無理ですが、提出後であれば、裁判所で手続を行い、閲覧・謄写できます。意見書の内容を踏まえ、次の保釈請求に当たって何らかの手あてをした上で、反論を展開し、裁判所の再考を求めることにつなげられます。
Q.裁判官と会ったり、電話で話したりはしないの?
A.弁護人の場合、保釈すべき事情を説明して説得するため、裁判官と会ったり、電話をしたりするのが通常です。一方、検察官の場合、意見書のやり取りだけで終わることの方が多いです。
ただ、裁判官から検察官に電話がかかってくるということはあります。
例えば、検察官の意見が「不相当」であるのに、裁判官が保釈を許可すべきだと考えた場合には、保釈すると何が問題なのか、詳しく聴かれます。
この電話で検察官がさらに理由を挙げて反対することで、裁判官の考えが覆ることもあります。
逆に、裁判官から「どうしても反対されますか」といった言い方をされ、抵抗を示さなければ、そのまますんなりと保釈になります。
Q.裁判官や裁判所の判断に納得できない場合、どうすればいいの?
A.被告人側も検察官も、裁判官や裁判所の決定に不服があれば、「準抗告」や「抗告」という手続を行うことで、別の裁判官3人の合議で再び判断してもらうことができます。
棄却されればそれまでですが、当初の決定が覆ることもあります。
これに不服があれば、さらに「特別抗告」という手続を行って最高裁の判断を仰ぐことも可能です。ただ、検察側がそこまで行うのは極めてまれです。
【許可されるか否かの分かれ目】
Q.なぜ保釈では罪証を隠滅する可能性の高さが重要になるの?
A.刑事訴訟法では、被告人が次の6つのいずれかに当たらない限り、保釈を許可するという建前になっており、そのうちの1つとして挙げられているからです。
(1) 重大犯罪
死刑、無期、短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪を犯した
(2) 重大犯罪の前科
前に死刑、無期、長期10年を超える懲役・禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けた
(3) 常習犯
常習として長期3年以上の懲役・禁錮に当たる罪を犯した
(4) 罪証隠滅
罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある
(5) 証人等への威迫
被害者、裁判に必要な知識を有すると認められる者、それらの親族の身体・財産に害を加え、畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由がある
(6) 人定不詳
氏名又は住居が分からない
殺人や強盗致傷、レイプ、放火といった重い刑罰が科される重大事件で保釈が許可されにくいのは、(1)があるからです。公文書偽造罪や虚偽公文書作成罪など、これに当たる犯罪はかなりの数に上ります。
覚せい剤事件で何度も何度も有罪となっているような者であれば、(3)に当たります。
(4)については「相当な理由」と規定されているものの、検察官も裁判官も広くとらえる傾向が強く、否認事件だとこれに当たるとして保釈が認められにくいのが実情です。
自白事件でも、共犯者がいるとか、関係者が多数に上るとか、前科があって実刑が予想されるといった事件の場合には、(4)に当たると判断されることが多いです。
暴力団関係者であれば、(5)にも当たると考えられます。
Q.重大犯罪や罪証隠滅の可能性ありといった場合、絶対に保釈は許可されないの?
A.いいえ。裁判所が逃亡や罪証隠滅のおそれの高さ、本人の健康状態や経済状況など様々な事情を考慮し、その裁量に基づいて保釈を許可することもできます。どれだけ具体的な事情を挙げて裁判官を説得できるかが弁護人の腕の見せどころです。
Q.保釈が認められる確率は、どの程度なの?
A.一審段階で勾留されている被告人のうち、保釈が許可された者は3割程度です。分母に保釈請求をしていない被告人を含めた統計なので、保釈請求をした被告人だけに限ると、7割程度でしょう。年々、増加傾向にあります。
ただ、事案の軽重のほか、逃亡や罪証隠滅のおそれの高さなどとの兼ね合いでその可否が決められるので、このケースであれば絶対に保釈が許されるだろう、と断言することはできません。
Q.保釈が認められやすいタイミングってあるの?
A.否認事件であれば、公判前整理手続が相当進み、具体的な争点も明らかになり、検察側が公判で取調べを請求している証拠に対する認否や尋問を予定する証人の特定まで至った段階だと、認められやすくなります。
拘置所の診断で重病であると分かったとか、経営する会社が倒産しそうな状況になっているなど、何か特別な事情の変化があると、絶対とは言えないまでも、認められやすい方向に傾きます。
正月を家族と過ごしたいという心情は裁判官も理解できるものなので、あくまでも単なる実感ですが、年末の保釈請求はそれ以前とあまり事情が変わっていなくても、「お情け」で認められやすいように思います。
【保釈許可の際の条件】
Q.保釈が許可される場合、何か条件が付くの?
A.保釈中の住居や行動範囲が制限されます。転居のほか、海外旅行や3日以上の国内旅行の際には、裁判所の事前の許可が求められます。
裁判が行われる期日には、必ず裁判所に出頭しなければなりません。病気など正当な理由でどうしても出頭できない場合は、あらかじめ裁判所に診断書を提出するなどして申し入れ、期日を変更してもらわなければなりません。
事件の証人など関係者との接触も禁じられますので、被害者側と示談交渉をする場合は、弁護人を介して行わなければなりません。
薬物事件であれば、入手先の関係者と一切接触しないとか、入手場所近辺に近寄らないといった条件が付けられることもあります。
Q.海外に高飛びされたら困ると思うんだけど、どうやって防止しているの?
A.裁判所の許可を得ずに移動したら保釈を取り消すとともに、保釈金を取り上げる、というやり方です。
Q.それでも逃げる気になれば逃げられるんじゃないの?
A.弁護人が被告人のパスポートを預かって保管する、ということを保釈許可の条件とする場合もあります。
また、被告人が外国人の場合、法律でパスポートの携帯が義務付けられているので、小型のセキュリティーボックスにパスポートを入れて施錠し、これを被告人が持ち歩く一方、弁護人が鍵を保管するといったパターンも多いです。
Q.偽造パスポートを手に入れれば、逃げられるんじゃないの?
A.はい。そこまでやられればお手上げですが、実際にはまずありません。裁判所の許可を得て数日間の約束で海外に出国し、そのまま帰ってこないというパターンの方が多いでしょう。
わが国ではまだ導入されていませんが、カナダでファーウェイ社のCFOが保釈された際に注目されたように、保釈を広く認める代わりに取り外しできないGPS端末を被告人に装着し、24時間、リアルタイムで行動監視をするという国もあります。
将来、わが国の保釈制度を改革する際には、こうした他国の例が参考になるでしょう。
Q.家族や友人、知人から見放され、仕事もしておらず、天涯孤独の身で誰とも付き合いがないんだけど、保釈は許可される?
A.保釈に際しては、親や兄弟姉妹、配偶者、雇い主、同僚、友人らを身柄引受人とし、彼らから「必ず裁判所に出頭させる」といった誓約書を提出させるのが通常なので、かなり厳しいでしょう。
【保釈金について】
Q.裁判所が保釈を許可したら、すぐに釈放されるの?
A.いいえ。決められた保釈金が納付されなければなりません。
裁判所が納付を確認し、裁判所からの書面で検察官も確認できると、検察官は「釈放指揮書」という書類を作成し、拘置所など勾留場所の担当者に釈放を指揮します。
せっかく保釈を許可されたのに、保釈金が思ったよりも高くて用意できず、拘置所から出られないという被告人も現にいます。
土日や祝日は金融機関も休みになるので、保釈請求に際し、あらかじめ少し多めにお金を用意しておくことが重要です。
Q.土日祝日でも納付できるの?
A.裁判所の出納課が休みなので、直接持参する場合は納付できません。インターネットバンキングなどを使って日本銀行の指定口座に入金する「電子納付」という方法であれば24時間、365日納付できますが、それでも裁判所の出納課は着金を確認できません。
年末年始だと御用納めの翌日である12月29日から御用始め前日である1月3日までの6連休、それこそ2019年だと4月27日から5月6日までの10連休の間は、たとえそれまでに保釈を許可されていたとしても保釈金の納付が確認できないので、拘置所から出られません。
Q.夜遅い時間でも納付できるの?
A.裁判所の出納課は夕方5時には業務終了となるので、直接持参する場合、原則としてそれ以降の時間には納付できません。先ほどの「電子納付」であれば夜間でも可能ですが、やはり出納課は午後5時以降だと着金を確認できません。
ただし、あらかじめ裁判所に「間違いなく19時には裁判所にお金を持参できる」などと言って根回しをし、残業をお願いしておくことで、閉庁後でも納付ができる場合もあります。
Q.全て現金で納付しないといけないの?
A.キャッシュが基本ですが、数千万円とか億の単位になると、確認のために現金を数えるだけでも膨大な時間がかかります。安全のためにも、先ほどの「電子納付」の方法で行ったほうが無難でしょう。
また、全部又は一部を弁護人や家族、雇い主などによる「保証書」の提出で代えることもできます。
ただし、保釈後に逃亡するなどして保釈金が取り上げられることになった場合、保証書を差し入れていた者が未納付分を納付しなければなりません。
例えば、戦後最大規模の経済不正経理事件であるイトマン事件では、特別背任罪や法人税法違反で1991年に起訴された許永中氏が保釈金6億円で保釈されました。
しかし、許氏が負担したのは3億円だけで、残りは弁護団が保証書を差し入れていました。1997年に許氏が韓国に出国後、逃亡したため、許氏の3億円は取り上げられ、弁護団も保証書分の3億円を負担させられました。
こうした事態もありうるので、自ら保証書を差し入れることに抵抗感がある弁護人も多く、弁護人に代わって保証書の発行を行う「全国弁護士協同組合連合会」のような団体もあります。
Q.保釈金は、戻ってくるの?
A.有罪であろうが無罪であろうが、判決の言渡しまで条件違反をせず、きちんと裁判所に出頭していれば、全て戻ってきます。
納付の際に指定した預金口座あてに振り込まれます。
Q.利子は付くの?
A.付きません。
Q.本人のお金じゃなくても大丈夫なの?
A.詐欺や横領、背任など金がらみの事件だと、捜査当局が金の流れを把握するため、本人や家族の通帳や印鑑、キャッシュカードなどを差し押さえていることも多く、被告人側がすぐにお金を用意できないこともあります。
お金に名前は書いていないので、親戚や友人、知人から借りたり、彼らに用立ててもらっても構いません。
手数料がやや高く、金額にも上限がありますが、保釈金を立て替える専門の業者もあります。
Q.保釈金の額って、いくらくらいなの?
A.事件の内容や被告人の資産などによってケースバイケースです。「これくらいであればまず逃げないであろう」と思われる金額でなければならないからです。
一般に最低額は150~200万円といったところです。
芸能人を振り返ると、小室哲哉氏が3000万円、ASKA氏が700万円、酒井法子氏や清原和博氏が500万円、槇原敬之氏や吉澤ひとみ氏が300万円でした。
他方、過去最高額は食肉偽装事件におけるハンナングループ会長の20億円でした。(了)