仕事を持ち乳幼児がいる母親は日中の育児を誰に任せているのだろうか
幼い子供は心身ともに不安定で行動も危なっかしいところもあり、大人の世話が欠かせない。仕事を持ち乳幼児(生まれた直後から小学校就学まで)がいる母親は、日中の育児を誰に任せているのだろうか。厚生労働省が2017年6月に発表した「国民生活基礎調査の概況」(※)から確認する。
児童(18歳未満の未婚の者)を末子に持つ世帯において、母親が仕事をしているか否かの比率は次の通りとなる。全体では2/3強、末子が3歳ならばほぼ6割が「母親は仕事あり」と回答している。
子供、特に「乳幼児」に該当する時期は、大人のサポートが欠かせない。その時期に母親が働きに出る(必要が生じた)場合、育児の問題が大きな課題となる。そこで今調査では「末子が乳幼児」「母親が仕事を持つ」の条件に合致した世帯において、誰がその末子を日中は保育するのか、複数回答で末子の年齢別に尋ねている。その結果と、上のグラフ「末子の年齢別、仕事ありの母親の割合」をかぶせたのが次のグラフ。「仕事ありの母親の割合」とその他の項目とは調査母体が異なるが、比較値として見る際の参考として欲しい。
ゼロ歳児の場合はさすがに父母が保育する場合が多く7割。今回はグラフ作成を略するが、全般的に「末子の年齢が上になるほど(働いている場合の)母親の就業時間は長い」傾向があるため、短時間は父親や祖父母に任せて母親が働きに出るとのパターンが想定される。また幼少児は何かと手間がかかりリスクも大きいため、他人には任せ難いとの事情もある。一方、ゼロ歳児から1/4ほどは認可保育所を活用しているのも確認できる。
これが1歳になると、父母の育児率はゼロ歳における値のほぼ2/5、29.2%にまで減り、その分認可保育所や認定こども園の利用が増える。以後「父母」「祖父母」は減少し続け、3歳位までは認可保育園・認定こども園が増加。3歳以降になると幼稚園も活用できるために幼稚園利用率が急激に増え、その分認可保育園利用率が漸減する形となっている(認定こども園はほぼ横ばいを維持。幼稚園の機能を併せ持つからに他ならない)。
主要な項目の動向をまとめると次の通りとなる。
・父母……ゼロ歳児では高率。1歳になると急激に減り、あとは漸減。
・祖父母……2歳時位までは1割強。後は1割足らず。
・認可保育園……ゼロ歳児時点で1/4近くが利用。2歳児の6割強がピークで、以後漸減。
・認定こども園……ゼロ歳児時点でも一部が利用。1歳から2歳にかけて利用率は増加し、あとは横ばい。
・幼稚園……法的利用年齢の3歳以降急増だが6歳では減少。認定こども園にシフトしたか。
・認可外保育施設……1歳時に最多の5%強、あとは漸減。
三世代世帯、あるいは近所に祖父母世帯が居る家庭ならば、母親の就労時に保育をお願いする事例も多々考えられる(「お爺ちゃんっ子」「お婆ちゃんっ子」なるもの)。しかし三世代世帯は全世帯のうち1割を切っており、期待はできそうにない。
厚生労働省の「出生動向基本調査」など各種調査結果でも、子供を持てない・持たない事由(≒少子化の遠因)として、(特に乳幼児期の)育児問題がクローズアップされている。以前のように三世代世帯が当たり前で、母親の就労も比率的に低いのなら問題視されなかった話で、母親の就労そのものの原因や、幼稚園・保育園・認可外保育施設・認定こども園、そして待機児童の話と合わせ、状況は複雑に絡み合っている。
乳幼児の保育はどのような状態がベストで、それに向けていかなるかじ取りをすべきなのか。この問題は専門家、政策担当、そして現場の人たち、そしてもちろん当事者自身が意見を通わせて模索していかねばならない。その際には「自分の周りでこのような状態を見たから」「自分はこのようにしたいと考えるから」との狭い視野だけの判断ではなく、今件のような資料を元にすることも重要に違いない。
なお今件記事の主旨とはやや外れるが、世帯の母が「仕事なし」、つまり専業主婦における保育状況は次の通りとなる。
「仕事なし」の専業主婦が家事に没頭しているのか、自らの技術向上に励み修練をしているのか、趣味趣向を楽しんでいるのかまでは分からないが、大よそ「3歳までは夫婦で」「3歳以降は幼稚園を多用」「認可保育所や認定こども園も利用する事例が多々ある」とのパターンに集約できる。兼業主婦の保育状況は良く問題視されるが、それと比較する形での専業主婦の状況はほとんど事例が呈されることは無いので、今件傾向も合わせて覚えておくことをお薦めする。
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※国民生活基礎調査
全国の世帯及び世帯主を対象とし、各調査票の内容に適した対象を層化無作為抽出方式で選び、2016年6月2日・7月16日にそれぞれ世帯票・所得票・介護票、所得票・貯蓄票を配ることで行われたもので、本人記述により後日調査員によって回収され、集計されている(一部は密封回収)。回収できたデータは世帯票・健康票が22万4208世帯分、所得票・貯蓄票が2万4604世帯分、介護票が6790人分。
今調査は3年おきに大規模調査、それ以外は簡易調査が行われている。今回年(2016年分)は大調査に該当する年であり、世帯票・所得票だけでなく、健康票・介護票・貯蓄票に該当する調査も実施されている。
また1995年分は阪神・淡路大震災の影響で兵庫県の分、2011年分は東日本大地震・震災の影響で岩手県・宮城県・福島県(被災三県)の分、2012年は福島県の分、2016年は熊本地震の影響で熊本県の分はデータが取得されておらず、当然各種結果にも反映されていない。