雇用統計改善でも上昇していた金価格が、急反落し始めた理由
12月5日のCOMEX金先物相場は、前日比-32.30ドルの1オンス=1,224.90ドルと急落した。1日の下落幅としては10月1日以来で最大であり、金価格の地合は依然として下向き方向に不安定な状況にあることが露呈した形になっている。
12月6日に発表された11月米雇用統計が良好内容になったにもかかわらず、12月初めの金価格は堅調に推移した。このため、マーケットの一部では「金融緩和縮小の流れは織り込み済み」といった指摘も各所で聞かれるようになっていた。しかし実際には、金価格から緩和プレミアムの剥落を進める動きに変化が生じている訳ではなかったことが再確認できる。
12月初めの金価格上昇は、単純に他コモディティ市況の堅調地合につれ高しただけというのが真相だろう。ここにきて非鉄金属やWTI原油相場の上昇が特に目立つ状況になっているが、コモディティ価格全体の水準が切り上がったことが、「購買力指標」である金価格を押し上げた可能性が高い。金価格とCRB商品指数の比価バランスはほぼ一定に保たれており、金市場の独自要因から金価格に値上がりプレッシャーが強まった訳ではない。
■米予算協議進展の衝撃
こうした中、米議会で予算協議が進展していることが、金市場において新たな投機売りを呼び込むきっかけになっている
米上下両院では、超党派の予算案について合意形成が進んでいる。12日の米下院本会議では、強制的な歳出削減を2年間で630億ドル相当緩める予算案が賛成多数で可決したが、超党派の予算案が下院を通過したのは実に4年ぶりのことである。
これは、来年に米予算協議を巡る混乱から金価格が急騰するシナリオが消滅することを意味し、金価格の強気派が受けた衝撃の大きさは想像に難くない。10月同様に米政府機関が再び閉鎖され、債務不履行(デフォルト)が警戒されるような事態になれば、金価格には反発の余地があった。単純に「安全資産」として買われる可能性があることはもちろん、経済環境の混乱で金融緩和の縮小ができない状況になれば、改めて金価格に緩和プレミアムを加算する必要性が浮上する余地もあるためだ。これをきっかけに、長期上昇トレンドへの回帰を予測する向きも少なくは無かった。
しかし、米議会が予算不成立のリスクを負うことを回避する方向に動いている以上、米経済の成長見通しは一段と確実性を増していると評価せざるを得ず、それがそのまま金価格に対する下押し圧力になっている。少なくとも米経済・金融政策環境を背景に金価格を買い進むことは一段と難しくなっている。
■原油価格の高騰回避ならば、金価格は一段安に
もちろん、再び原油などのコモディティ市況が急騰すれば、金価格も水準を切り上げる余地は残されている。海運市況の高騰が続いていることには、注意が必要である。ただ、金価格はほぼ一貫して他コモディティ市況のパフォーマンスを下回る展開になっており、この逆風下において金価格を本格的に押し上げるためのハードルは高い。
来週17~18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で毎月850億ドルの資産購入規模を直ちに縮小する可能性は低いとみているが、このまま米経済・金融政策環境が正常化に向かうのであれば、金価格から緩和プレミアムの剥落を促す流れは維持されよう。1,200ドルの節目を支持線として信頼することはできない。