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晩秋のパリで日本流の「詰め込み式」キャンプの効果について考えてみた

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:アフロ)

現在たけなわのNPB秋季キャンプについて書いてみたい。少々前書きが長くなるが、お付き合いいただけると幸いだ。

つい先日パリを訪れた。欧州の別の都市への出張での経由地がパリだったのだ。行きはトランジットのみで、空港内で日本から届いたメールの返信作業に追われる数時間を費やしたのみだったが、帰路は意図的に丸一日を確保した。

ずいぶん久しぶりのパリだった。前回も出張途中で立ち寄っただけだったが、ちょうどトリノ五輪中でフィギュアスケートの荒川静香さんによる金メダル獲得の朗報が飛び込んできたのを覚えている。ということは2006年で、今回は9年ぶりということか。

美しい街並みは相変わらずだった。前回とは異なっていたのは、街中にうようよ走り回っていたシトロエンBXがすっかり消え去っていたこと、中国人の団体観光客が増えたこと、そして自撮り棒の出現だった。

わざわざ経由地にパリを選び1日を過ごしたのには訳がある。1人娘に会うためだ。23歳の彼女は、この9月からこちらの大学院に通っている。彼女は学部時代にもパリで1年間の留学生活を過ごした。そんな娘に街を案内されながら親子2人で過ごした時間は、至福の時だったのは言うまでもない。

しかし、娘は学問では壁に当たっているようだった。専攻は法律だが、やはり大学院ともなると生半可な勉強量では到底追いつけないという。たまたま今回彼女が通っている大学院がそうななのかどうかは分からないが、外国人の生徒はどの授業でも彼女1人であることがほとんどで、そのため講師も受講者がフランス人であること、言い換えればその学問に直接関わることのみならず、フランス人の大学院生なら知っていて当然の社会事情や歴史的経緯を踏まえていることを前提に講義を進めることに苦労していると打ち明けてくれた。これが、各国からの留学生で溢れていた学部での交換留学時代との大きな違いらしい。

また、彼女は日仏間の学問習得に対するスタンスの違いにも戸惑っているという。留学経験など全くないぼくにも理解できるように噛み砕いて説明してくれたことによると、日本では細かい多くの知識をひたすら吸収していくことを求められるのに対し、フランスではその詰め込まれた知識を活かしどう考察するかが重要なのだという。長年日本式の受け身の猛勉強が身にしみていると、能動的に考えるスタイルへの順応に苦労するのだそうだ。彼女はその悩みを、モンパルナスの自身のアパート近くの 小さなレストランで、ワインを飲みながら語ってくれた。

考えてみると、娘が指摘してくれた彼我の勉強スタイルの差異は、日本と欧米社会とのスポーツでのトレーニングスタイルの違いにも通じるものがるあるように思える。

プロ野球の秋季キャンプでは、連日地獄の特訓が繰り返されているようだ。巨人の高橋由伸新監督も、1日10時間の過酷なメニューを課しているという。ぼくは、キャンプ名物の「千本ノック(本数は象徴的な意味合いであり、実数ではない)」が生み出す効果に懐疑的だ。ヘトヘトなってもなおノックを受け続けることにより、どんな技術的向上が見込めるのか全く不明だ。耐久力を付けるのが目的なら、走り込みをやれば良い。そもそも野球という競技において、野手が長時間の有酸素運動を行う場面などほぼ皆無だ。

また、先日スポーツ紙で見つけた記事では、ある球団のキャンプでノックの打球の捕球をミスるとその場で「罰」として「腿上げ○回」が課せられる様子が写真で紹介されていた。腿上げがエクササイズとして効果的なら、捕球をミスらなくても全員が取り組めば良いと思う。そもそも「失敗したら罰」という発想が封建的だ。

これらの「千本ノック」や罰としての「腿上げ」は全く受動的だ。自ら考えて実行していくものではなく、ハコとして用意されらキャンプで、首脳陣から課せられたメニューをひたすら耐えてこなしていく。このことは、選手の主体性の醸成を阻害しているのではないか。娘が指摘した日本的勉強スタイルに通じるものがる。

本来、技量の向上を目指したトレーニングングはとてもインディビデュアルなものだと思う。課題箇所は選手個々で異なるからだ。それぞれの課題克服に向けた練習メニューを選手は考えなから実行し、インストラクターたるコーチはそれに対し助言を与えてあげれば良い。

それどころか、個人単位の技術の向上と戦力強化は全く別のものだと思う。強いチームを作ることは、基本的には補強を行うことだ。分かり易くいえば、他球団もしくはNPB以外から実力のある選手を獲得してくることだと思う。ドラフトでのアマチュア選手の獲得以外にはこれといって補強を実施せずに、地獄のキャンプで「現有勢力の底上げ」を図るのは本末転倒ではないか。補強というのは、「1軍選手というものは各々のレベルでの完成品であり、練習により技術が飛躍的に向上するものではない」という前提に立って行うものだ。

しかし、それでも秋季キャンプでは今日も「千本ノック」や「腿上げ」という非合理的な現有戦力の底上げ行為が行われている。そこには選手の主体的な思考や取り組みはあまり感じられない。学問もスポーツの世界でも同様ということだろうか。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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