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「今あったらなぁ」のバイク達(8)【ホンダ・GB500TT】本家GBが伝えるビッグシングルの鼓動

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
HONDA GB500TT 画像出典:Webikeニュース

今のバイクは素晴らしいけれど、昔にも優れた楽しいバイクがいろいろあった。自分の経験も踏まえて「今あったらいいのになぁ」と思うバイクを振り返ってみたい。第8回は「ホンダ・GB500TT」について。

久々に復活するGBの名にはルーツがあった

最近のもっぱらの話題はホンダから新しく登場するGB350だ。空冷単気筒エンジンを搭載した、どこか懐かしい感じのするデザインに人気が出そうだ。そして、ホンダ伝統のCBではなくGBというイニシャル。最近しばらく聞かなかったが、実はGBはかつてホンダの一時代を築いた名車である。

▲GB250クラブマン
▲GB250クラブマン

GBシリーズの第一弾として、「GB250クラブマン」が誕生したのは1983年。日本でバイクが最も売れていた時代だ。レース全盛期でバイク乗りの関心は一斉にフルカウルモデルへと向いていたが、その流れに逆らうような“昔っぽいバイク”が現れて、当時二十歳だった自分は「いま何で!?」と思った記憶がある。

日本版ブリティッシュ・レーサーレプリカ

GBの由来はグレートブリテン、つまり英国車である。当時のホンダのリリースには、GBシリーズは「伝統的なスタイルを継承しながら、単気筒エンジン独特の力強い走りの味が楽しめるロードスポーツバイク」であり、「1960年代に英国で活躍したロードレース仕様車(単気筒エンジン搭載)のスタイルと、最新の技術を生かした中・低速域での力強い乗り味を調和させた」とある。

つまり、GBは英国車全盛時代のマチレスやBSA、ノートンなどのお歴々ブランドへの郷愁とリスペクトを込めて作られた、日本版ブリティッシュ・レーサーレプリカだったのだ。また、当時すでにホンダのスポーツモデルの代名詞にもなっていたCBとは差別化する意味で、GBとしたという話もある。

GBの意味は分かったが「クラブマン」とは何だろう。いろいろな解釈があるが、2輪の世界で使うならばモーターサイクルクラブのメンバーというのが妥当だろう。バイク愛好家がサロンやカフェに集い、やがて仲間を募って各地で開催された草レースに参加するようになっていった。

これも元々はモータースポーツ発祥の地である英国で、乗馬に代わる貴族のスポーツとして生まれたものだ。

TTにはアマチュアレースのスピリットがあった

さて、今回の主役はGB250クラブマンに遅れること2年後の1985年に登場した「GB500TT」である。同時にデビューした「GB400TT」の排気量を拡大して大型二輪ユーザー向けとしたスケールアップ版としてマニアックな人気を博した。こちらはクラブマンではなくTTというネームが与えられている。

▲GB400TT MKII
▲GB400TT MKII

TTとはツーリストトロフィの略で、こちらは「マン島TTレース」や日本でも「筑波ツーリストトロフィ」などで聞いたことがある人も多いはず。

TTとは主に公道レースの意味で、こちらも英国発祥で伝統的に市販車を改造したマシンで競われていたカテゴリーのこと。GP(グランプリ)がメーカーによるプロトタイプマシンでのプロフェッショナルな戦いとすれば、TTにはもう少しユルいアマチュアレースの意味合いが含まれる。

ホンダの開発者はTTにかつての公道レーサーへの想いを投影させていたのだと思う。

なんとスペックではCBR250RRと同等レベル

GB500TTは空冷4スト単気筒SOHC4バルブ排気量498ccエンジンをスチール製のセミダブルクレードルフレームに搭載したトラディショナルなスポーツモデルで、ビッグシングルならではの鼓動感あふれる走りが持ち味だった。500は最初から一人乗り専用のレーシングシートを装着し大型バイクとしてのプライドを誇示。

セパハンにバックステップ、前後18インチのスポークホイールに前後タイヤは90/110という今では考えられない細めのタイヤを履くなど、当時としても本格的な見た目にこだわっていた。

走りも独特で、当時最先端のレプリカ系がアルミフレームとフロント16インチの切れ込みを生かしたクイック旋回が命だったのに対し、GBは鉄フレームのしなやかさと大径ホイールの安定感を生かした穏やかなハンドリングで、しかもナロータイヤなので路面との接地感が明瞭で切り返しのフットワークも軽快だった。

ちなみに車重は167kgと今の250ccクラス並みでGB400TTより2kg軽く、それでいてピークパワーは同4psアップの40psということでスペックにも走りの良さは表れていたと思う。数値的なパワーウエイトレシオではなんと現代のCBR250RRとほぼ同等なのだ!

大排気量シングルスポーツの復権を願う

▲GB500TT
▲GB500TT

最近久しぶりにGB500TTに乗る機会があったが、セパハンとロングタンクによる程よい前傾スタイルで、ちょっと後ろに座ってフロントの動きを解き放ってやるリヤステア的な乗り方がピタリとくる感じ。

今ではほぼ絶滅してしまったビッグシングルの鼓動と力強く路面を蹴り出すトルクを感じつつ、スロットル開け開けで曲がっていくコーナリングがなんとも言えない楽しさで気分揚々だった。

60年代のスポーツモデルの乗り味を今に伝える、と言っては大袈裟かもしれないが、そんな貴重なタイムスリップ経験ができるマシンだとじみじみ思ったのだ。

今はネオクラシックブームだが、それをバイクの原点でもある空冷単気筒エンジンで、しかも走りを存分に楽しめるスポーツモデルとして再現してくれたら最高なのになぁ、と思うのだ。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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