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W杯を逃したイタリアの今と問題、カルチョ復権への第一歩は?

中村大晃カルチョ・ライター
11月13日、W杯欧州予選プレーオフで本大会出場を逃したイタリア代表(写真:ロイター/アフロ)

ファビオ・カンナヴァーロがベルリンの地でワールドカップ(W杯)優勝トロフィーを天に掲げた翌日、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は一面の見出しで「Tutto Vero(すべて本当だ)」と喜んだ。

それから11年。スウェーデンとのプレーオフに敗れ、60年ぶりとなるW杯予選敗退が決まった翌日、『ガゼッタ』のファビオ・リカリ記者は試合レポートを「Tutto Vero」と書き出した。

すべて本当だ。我々は歴史となった。我々は1958年以来初めてW杯に出場できない。世界王者になること4回の我々が、だ。(中略)我々はひとつのサイクル、おそらくはひとつの時代を終えた

出典:11月14日付ガゼッタ・デッロ・スポルト紙より

◆警鐘は鳴らされていた

イタリアがW杯に出られない――この知らせに世界は揺れた。だが、驚くことではないとの声もある。2006年のドイツW杯を制して以降、アッズーリ(イタリア代表の愛称)は2大会連続でグループステージ敗退に終わっていたからだ。

代表だけではない。国内リーグ(セリエA)も衰退が指摘されて久しい。イタリアのクラブが国際舞台の主要大会で最後にタイトルを手にしたのは、2010年のインテルが最後だ。W杯予選敗退は、すでに低迷期に入っていたイタリアサッカーのどん底というだけに過ぎない。

その原因は多岐にわたる。全盛期にスタジアム建設を含めた環境づくりを怠り、現代サッカーで巨額マネーが動くようになってからは、他国のライバルと財政的に競うことが不可能になった。安く手に入る「そこそこ」の外国人選手を多く起用し、自国選手の出番は減少。結果重視は変わらず、ベテランに頼ることで若手の成長を妨げた。ほかにも、挙げればキリがない。

◆指揮官と連盟会長の責任

ただそれでも、現チームがW杯に出られないほどだったとは言い難い。戦力的には、アントニオ・コンテ前監督が昨年の欧州選手権で率いたチームのほうが厳しかった。「史上最低のイタリア」と揶揄する声もあったほどだ。それでも、コンテのアッズーリ(イタリア代表の愛称)は戦前の予想を裏切ってベスト8まで勝ち進み、今回のチームは60年ぶりの屈辱にまみれることとなった。

ジャン・ピエロ・ヴェントゥーラ監督が最大の戦犯であることは確かだ。06年優勝監督のマルチェッロ・リッピがスーパーバイザーとしてサポートする構想が破談となった影響もある。だが、ヴェントゥーラ自身の責任は免れない。自らの戦術にこだわり、戦力を最大限に生かせず、ベテラン勢との対立が報じられるなど、人心掌握にも長けていなかった。

当然、連盟会長カルロ・タヴェッキオの任命責任も問われる。コンテ招へいをはじめ、ビデオ・アシスタント・レフェリーのいち早い導入、FIFAやUEFAのトップとの良好な関係の構築など、功績がゼロというわけではない。だが、涙ながらに必死にインタビューに応じたジャンルイジ・ブッフォンと対照的に、試合後すぐに公の場に顔を見せず、引責辞任にも言及しなかったヴェントゥーラとタヴェッキオに対する視線は冷たい。少なくとも世間は続投を許さないだろう。

◆問題は山積

しかし、指揮官と連盟会長のクビを飛ばせばすべてが解決するわけではない。例えば、世代交代の遅れや若手のタレント不足を指摘する声は多い。実際、スウェーデンとの2試合はともに先発メンバーの平均年齢が30歳を超えている。

優秀な若手がいないわけではない。全盛期のようなカンピオーネ(最高級の選手)とまではいかずとも、U-21では2013年の欧州選手権で準優勝しており、ことしもベスト4。日本とも対戦したことしのU-20 W杯では、初めて3位に輝いた。

しかし、それらのタレントを成長させ、フル代表の主軸とすることがなかなかできていない。積極的なフル代表への登用とともに、クラブで国際経験を積むことも重要だ。OBのアレッサンドロ・コスタクルタは、『スカイ・スポーツ』で、代表デビュー前に現在のチャンピオンズリーグ(CL)決勝を2回戦ったことが大きな成長につながったと話している。

では、クラブレベルはどうなのか。近年は低迷ばかり騒がれるセリエAだが、復調の兆しも見せている。過去3シーズンでCLファイナルを2回戦ったユヴェントスの復活とともに、UEFAのリーグランキングではブンデスリーガから3位の座を奪い返した。現在のナポリのサッカーは、欧州最高レベルとも称賛されている。

だが、外国人選手の多さはやはり問題だ。14日付の『ガゼッタ』によると、55%という数字はブンデスリーガ(51%)、リーガエスパニョーラ(40%)、リーグアン(37%)を上回る(プレミアリーグは61%)。同じく14日付の『コッリエレ・デッロ・スポルト』では、代理人のダリオ・カノーヴィが、安価な外国人選手を安易に取り込んだ代理人業界の責任もあると自省している。

◆今こそ見つめ直すべき

自省すべきは、カノーヴィたちだけではない。新スタジアムの建設が遅々として進まない責任は、クラブだけではなく、自治体など利権が絡む組織の問題でもある。よく「サッカーは社会の鏡」と言われるが、イタリアサッカー低迷はイタリア社会を反映しているとも言えるのだ。

逆境に強かったイタリアが「火事場の馬鹿力」を失ったのも、その影響かもしれない。そして土壇場で強さを発揮できなければ、残るのは「事前の準備不足」だ。

タヴェッキオと会長選で争ったデメトリオ・アルベルティーニは、「原因を理解し、変える勇気を持つことが大事。スポーツ面のプロジェクトが必要」と述べた。『スカイ・スポーツ』のマッテオ・マラーニ記者は、「イタリアサッカーは常に『今』を考えすぎてきた。未来を考えず、計画性がなかった。政治的・経済的な協定ばかりで、アレンジで生きてきた」と指摘している。

イタリアのアレンジ能力の高さは、計画性のなさと比例していたとも言える。そして計画性のなさ、あるいは計画しても実行できない現実に、イタリアサッカー界は何かしら言い訳をすることでごまかしてきたのではないだろうか。アレッサンドロ・デル・ピエーロは『スカイ・スポーツ』で「あらゆる類の言い訳をしようとせず、過ちを認めることから再出発しなければいけない」と主張している。

繰り返すが、問題は複雑であり、一朝一夕で解決するものではない。『ガゼッタ』や『コッリエレ』は14日、各組織の改革、下部組織への投資、アンダーからフル代表までの技術・戦術面の統一、チーム数削減、Bチームの創設、ホームグロウン枠の増加、設備投資への協力、レジェンドの現場登用など、それぞれ10の改革案を提唱した。

ただ、それらの多くは以前から何度も叫ばれていたことだ。結局のところ、必要なのは、アルベルティーニが言うように、それらを実現させる勇気であり、そのためには現状を認識しなければならない。第一歩として求められるのは、すべての関係者が一枚岩となってカルチョの国の復権を目指すことではないだろうか。今回の失態から目をそらさずに、「Tutto Vero」と深く心に刻んで――

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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