Yahoo!ニュース

「コロナで自分も辛い…だから人助けを!」アフリカのスラムを愛するアーティストが訴える理由

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
長坂真護さん(ガーナにて Photo by Fukuda Hideyo)

先の見えないコロナ禍と、それにともなう経済の悪化。こんな状況の中で私たちは、つい自分のことだけを考えてしまい、気持ちも塞ぎ込みがちだ。しかし、こんなことを言う人がいる。

「自分も辛くて、自分も生きるのが精いっぱいな時だからこそ、誰かを助けるために行動してほしい」

アフリカ・ガーナにある、家電ゴミが大量に投棄されている巨大スラム・アグボグブロシーに住む人たちを愛し、現地へ何度も足を運んで支援と情報発信を続けてきたアーティストで社会活動家の長坂真護さん。ガーナのスラムは今どうなっているのか。そして私たちはどのようにウィズコロナとアフターコロナを生きるべきなのか、話を聞いた。

「死亡原因すらわからない」スラムの人たちはコロナで・・・

ガーナ・アグボグブロシーにて Photo by Fukuda Hideyo
ガーナ・アグボグブロシーにて Photo by Fukuda Hideyo

Q:今ガーナのスラムは、コロナ禍でどんな状況になっているのですか?

長坂:昨日、現地に住む日系アメリカ人にたまたま話を聞きました。

「どう?」と聞いたら、「コロナは数字的には日本と同じぐらいで、爆発的なパンデミックという情報を政府は出していない。

けれども、正直、PCR検査を受ける機関すらないので誰も検査を受けていない。スラムなどは超密だし、都心のそばにあるし、かなり危ないのではないか」というんです。

Q:スラムの子どもたちのことが心配ですか?

長坂:心配ですね。彼らは死んだとしても、死亡原因すら分からないのです。何の病気かが分からない。

そもそもアフリカは平均寿命が50歳、そのガーナのスラムは多くの人が30代で亡くなっていて、この間も僕の絵の教え子のお父さんが40代で亡くなりましたが、「原因は」と聞いても「分からない」と。

Q:そもそもあまり医師にかかれないのですね。

長坂:お金がかかりますからね。この間うちの活動のメンバーが暴力事故に巻き込まれて、手術代が5万円ぐらい。それは僕が立て替えました。払えないですから。

Q:5万円は、とんでもないお金なんでしょうね。

長坂:金額、めちゃ高いですよ。

5万円というのは、給料が1カ月およそ5,000円なので。1年分ぐらいです。かつそこから家賃などを払わなければいけないから、5万円などというお金があるわけがない。

Q:そんな状況の場所が今コロナでどんな状況になっているか、想像を絶するものがありますね。

長坂:そうですね。だから僕がリーダーとして、そんなところに日本人スタッフを連れて行けるかというと、連れて行けないですよ。有志で「行きたい」という人がたくさんいて、スラムを良くしたいと言う若者たちがたくさんいますが、連れて行けないです。そのへんの決断ができないので。

コロナを「やらない理由」にしたくない

ガーナ・アグボグブロシーにて Photo by Fukuda Hideyo
ガーナ・アグボグブロシーにて Photo by Fukuda Hideyo

ガーナのスラムに学校を建設し、子どもたちが作ったアートを先進国で販売するなどの活動を続けてきた長坂さんたち。

現在、現地のスラムに捨てられた大量の家電ゴミを細かく破砕してチップにし、「リサイクルペレット」と呼ばれるものに現地で加工して、プラスチック原料としてリサイクルするプロジェクトを計画している。しかし、それらの活動は、コロナ禍で現在停止せざるをえなくなっている。

また、そうした活動を記録してきた映像も、本来であればハリウッドでドキュメンタリー映画として公開する予定だったが延期せざるを得なくなり、現在クラウドファンディングでプロモーション資金を募って、まずはアメリカでの公開を目指しているという。

こうした苦しい状況の下だが、長坂さんは物事を前向きに捉えるようにしているという。

長坂:この状況でできないことがいっぱいあって。でも今僕らがすごく確信しているのは、僕らがやっている行動は間違いなく正しいということ。

例えば、みなさんがなぜ僕の活動に加担してくれているかというと、世の中の矛盾に気付いているからです。

今はスマートフォンでも分かるじゃないですか、世の中にはおかしいことがいっぱいあると。不条理というか、資本主義のおかしいところ。

みんな「資本主義という芝居」の中にいて、矛盾は分かっているけれども、心の中にすごくピュアな感情を残しているけれども、社会人になって自分たちの生活があったり、コロナや不況だったりとか、いろいろな「やらない理由」が立てられるじゃないですか。

その中で僕は1個風穴を作りたいと思っているんです。

例えばガーナのプロジェクトに僕は100億円必要だと思っていますが、今の時代は例えばオンラインサロンなど、コミュニティーが作れるじゃないですか。もし1億人のコミュニティーを作れれば、100円くださいと言ったら100億円集まります。

地球には80億人いて、日本には1億人いるじゃないですか。もし1億人がコミュニティーに入っていたら、100円出すことは可能だと思います。そのお金を直接スラムに投入していけば、僕が10年でやりたいことを数年でできると思います。

だからこそ1人でも多くの人が、寄付ではなくて、持続可能な経済を作るということで参加してほしいと思って。だから僕は「サスティナブル・キャピタリズム」という概念を作って、「こちらが当たり前だ」と、パラダイムシフトをしようと言っているのです。

だからどういうふうにメンタルを変えるかです。このコロナ危機でいろいろなトラブルが僕に降りかかってきた時に、めちゃくちゃ辛かったですよ。

「はあ、もう死にたい」と思う瞬間もありますが、「他人の不幸は蜜の味」ではなくてもう「自分の不幸は蜜の味」と思うようにしています。回避できないトラブルばかり起こりますが、これをトラブルとして見るのか、チャンスと見るのか、これは本当にその人の解釈です。

自分が辛いからこそ、人を助ける

ガーナ・アグボグブロシーにて Photo by Fukuda Hideyo
ガーナ・アグボグブロシーにて Photo by Fukuda Hideyo

Q:今、日本のみなさんはコロナ禍を機にどんなことを考えて、どう生きていくべきだと思われますか。

長坂:僕らは基本的な、例えば文化欲とか食欲とか、そういったものは変わらないんです。

例えばライブハウスがなくなるとか、音楽業界だったらそんな危機が来てますけど、音楽自体はなくならない。

例えば外食産業はいま本当に辛いし、「大丈夫だよ」なんて人のことを軽々しくは言えないけれども、食はなくならないじゃないですか。

アート業界も、僕がやりたいプランは全部はできなかったけれども、アートもなくならない。僕らがいる以上、そういった産業は1個もなくならない。

だからこそ今の状態を耐え忍んで、苦しんで、下を向く、ではなくて、この機会にどういうふうに僕らの知恵で叡智に変えていくのかというのがすごく大事だと思っています。

自分も辛くて、自分も生きるのが精いっぱいだとは思いますが、そんな時こそ、隣の人や自分の目が届くギリギリのところまで行って、人を助けてみる。

そこに大きな答えが僕にはあったのです。僕はかつて貯金が残り50万になった時に、チケットを20万~30万で買って、もう次はないぐらいのギリギリの状況でガーナに行ったのです。ギリギリだけれど、それでも世の中の不都合を自分で確かめたいという気持ちで。

もしあの時ガーナに行かなければ、アフリカまで目が届かなければ、このアクションはゼロなんです。今もどこかで路上で絵を描くか、お金持ちに頭を下げてその人の気に入るような絵を描くか、それぐらいしかできなかったはずです。

Q:なるほど。

長坂:こういう時こそ、日本は先進国なので、路頭に迷うことはほぼないじゃないですか。

Q:そうですね。

長坂:生活保護だってもらえるし、借金しても自己破産したら一応法的には守られるわけです。スラムはそんなことは許されないですから。だからこそ自信を持って人を助けて、自分のマインドを強くプラスの方向に使うべきだと想います。

Q:アフターコロナは今より地球は良くなるとお考えですか。

長坂:僕はそうだと思っていますね。コロナがきっかけで資本主義的なものが、いい方向に変わりつつあると想います。そうしたら、みなさんすぐその社会の中で生きるコツをつかむはずなので、地球は良くなっていくと思っています。ぜひみなさん、こんな時だからこそ、地球のこと、そしてアフリカのスラムのことを思い、誰かのために行動してほしいと思います。

Photo by Fukuda Hideyo
Photo by Fukuda Hideyo

長坂真護(ながさかまご)

1984年生まれ。2009年、自ら経営する会社が倒産し路上の画家に。2017年6月「世界最大級の電子機器の墓場」と言われるガーナのスラム街“アグボグブロシー”を訪れ、先進国が捨てた電子機器を燃やすことで生計を立てる人々と出会う。“美術の力をもってこの真実を先進国に伝えたい”と決意。「サスティナブル・キャピタリズム」を提唱し、これまでに850個のガスマスクをガーナに届け、2018年にはスラム街初の学校『MAGO ART AND STUDY』を設立。2019年8月アグボグブロシー5回目の訪問で53日間滞在し、スラム街初の文化施設『MAGO E-Waste Museum』を設立した。エミー賞授賞監督カーン・コンウィザーによる長坂のドキュメンタリー映画“Still A Black Star ”は、アメリカのImpact Docs Awardで優秀賞4部門受賞。現在、映画のプロモーションを行うための費用を集めるクラウドファンディングを実施中。

長坂真護オンラインギャラリー https://www.magogallery.online

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

鎮目博道の最近の記事