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ジャニーズ問題 メディアに問われるのは「沈黙」ではなく「取引」ではないか

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
(写真:ロイター/アフロ)

ジャニーズ事務所の「外部専門家による再発防止特別チーム」が発表した調査報告書に「メディアの沈黙」が被害拡大の一因になったと指摘する部分がある。

これを受けてテレビ各局とも、ニュース番組で反省の弁を述べたり、社としてコメントを発表したりしている。しかし、テレビ業界内部の人間として、私はどうにもこの「反省の弁」を聞いてもスッと腑に落ちない。モヤモヤしたものが残る。

たしかに「メディアの沈黙」は大きな問題だ。ぶっちゃけ、テレビ関係者なら誰しもが「ジャニー喜多川氏による性加害の噂」を知っていたと思う。それをなぜ報じなかったのか、というのは非常に大きな問題で責任を問われるべきだ。

しかし、もっと大きな問題がある。それは「なぜテレビはジャニーズとの取引を続けたのか」ということだ。事務所のトップが日常的に所属タレントの少年に性加害を続けているという噂が囁かれている会社に、「それは事実か」と確認することもなく取引を続けたのか、いや、正確に言えば今も取引を続けているのか。

だから本当は、メディアに一番問われるべきは「沈黙」ではない。人権侵害を行っている可能性が高い事務所と「取引していること」なのだ。そこにあまりメディアは言及していない。だからモヤモヤするのだ。

「テレビマンなら誰もが聞いたことがある噂を、聞かないふりをした」という点で言えば、実はジャニーズ以外にも、誰もが知っている「噂」がたくさんある。

「あそこの事務所はヤバいらしい」というような話は、日常的にテレビマンの間で囁かれ続けている。所属するタレントに性加害まがいのことをしている事務所の噂は業界関係者なら誰しも聞いたことがあるのではないか。

テレビ各局は、そうした疑惑のある事務所に事実確認を行なっているだろうか。そういう問題事務所との取引を見合わせたことはあるだろうか。

誤解を恐れずに言おう。テレビ局は出演者を「人間」として見ていない面があるのではないか。「視聴率をとってくれればいい」「面白ければいい」「人気があればいい」ということで、利用価値がある間だけ都合よく利用しているだけだ。

出演者が「人間」として扱われているか、その人権が守られているか、という点についてはすべてを事務所任せにして責任を逃れている。たとえその事務所に、いろいろ黒い噂があったとしても、見て見ぬふりをしているのではないか。

たしかにジャニーズ事務所自身の責任も大きいだろう。藤島ジュリー景子社長の責任も問われるべきだろう。しかし、ジャニーズを一斉に叩き、藤島ジュリー景子社長を辞任させれば出演者の人権は改善され、性加害がなくなるだろうか。私にはどうにもそうは思えない。

テレビ局は、報道機関として「沈黙し、報じなかった罪」を反省するだけでは足りない。ジャニーズ事務所の「主要な取引先」として、「長年取引を続けている罪」も反省するべきだ。そしてそれは対ジャニーズ事務所だけの問題ではない。

なぜなら性加害をしている業界関係者はジャニー喜多川氏だけではないからだ。

そして、人権を守らない事務所もジャニーズ事務所だけではないのを、我々はよく知っているはずではないか。

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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