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イスラエルと米国への「報復」をエスカレートさせるレバノン、イラク、シリア、イエメンの抵抗枢軸

青山弘之東京外国語大学 教授
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イスラエルが12月1日早朝にパレスチナのハマースとの戦闘休止の終了を宣言し、ガザ地区への激しい攻撃を再開してから3日が経った。

戦闘休止期間中に、イスラエルによる攻撃再開に対して報復を行うと宣言してきたレバノン・イスラーム聖戦(ヒズブッラー)、イラク・イスラーム聖戦(イラク人民動員隊の急進派)、イエメンのアンサール・アッラー(蔑称フーシー派)からなる抵抗枢軸、あるいは「イランの民兵」は12月3日、ガザ攻撃への「報復」だとして、イスラエル、そしてその最大の支援国である米国への攻撃を揃って敢行、激しい戦闘を繰り広げた。

レバノン南部・イスラエル北部

レバノン・イスラーム聖戦は、イスラエル北部のベイト・ヒレル入植地のイスラエル軍基地を攻撃、軍用車輛の乗組員を殺傷した。イスラエル軍やメディアによると、対戦車ミサイルによるこの攻撃で、兵士8人を含む13人が負傷した。

レバノン・イスラーム聖戦はまた、イスラエルの占領下にあるシャブアー農場(ナバティーヤ県)内のイスラエル軍の陣地やレーダー施設、イスラエル北部のハニタ入植地東に集結するイスラエル軍部隊を攻撃した。

これに対して、イスラエル軍は、レバノン領内の砲撃・ミサイル攻撃地点を砲撃するとともに、戦闘機でヒズブッラーの標的を爆撃した。

Almanar.com.lb、2023年12月3日
Almanar.com.lb、2023年12月3日

紅海

アンサール・アッラーはヤフヤー・サリーア報道官がX(旧ツイッター)を通じて声明を出し、紅海のバブ・エル・マンデブ海峡で早朝、イスラエルの船舶2隻を攻撃したと発表した。発表によると、標的となったのは、ユニティ・エクスプローラ号とナンバー9号で、前者は対艦ミサイルで、後者は無人航空機(ドローン)で攻撃を行ったという。

イラク

イラクでは、イラク・イスラーム抵抗が米軍基地への攻撃を再開した。

同組織がテレグラムを通じて発表したところによると、未明にアルビール県にあるアルビール空港の米軍基地を1機のドローンで攻撃、また晩にもアンバール県のアイン・アサド米軍基地を1機のドローンで攻撃した。

これに対して、米軍はキルクーク県北部で米軍基地へのロケット弾攻撃を準備していた武装集団のメンバー5人を殺害した。

イラク・イスラーム抵抗が米軍の攻撃で5人が死亡したことを認める一方、人民動員隊に所属するヌジャバー運動もXを通じて声明を出し、メンバー5人が戦死したと発表した。

イラク・イスラーム抵抗に所属している組織がメンバーの死亡を発表するのは、11月22日のヒズブッラー大隊に続いて2回目(「イラクの人民動員隊、同隊所属のヒズブッラー大隊は米軍の爆撃で5人が戦死したと発表:イラク政府は米国を非難する一方、「軍事機関に依らないいかなる軍事行動も非難されるべき行動」と苦言(2023年11月22日)」を参照)。

シリア東部

シリア東部でもイラク・イスラーム抵抗と米軍が攻撃を応酬した。

イラク・イスラーム抵抗は北・東シリア自治局(クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)を主体とする自治政体)の支配下にあるハサカ県ハッラーブ・ジール村の農業用空港に違法に設置されている米軍の航空基地に対して多数のロケット弾で攻撃したと発表した。

ロケット弾はイラク領内から発射された。

この攻撃を受け、ダイル・ザウル県では、所属不明のドローン1機がシリア政府の支配下にあるユーフラテス川西岸のブーカマール市近郊で「イランの民兵」の軍用車輛1台を爆撃し、乗っていた1人を殺害した。

対するイラク・イスラーム抵抗も報復として、北・東シリア自治局の管理下にある同県のウマル油田の米軍基地とその近くに設置されている基地(グリーン・ヴィレッジ基地)を1機のドローンで爆撃した。

シリア南部・占領下ゴラン高原

戦闘は、イスラエルの占領下にあるゴラン高原(クナイトラ県)と、同地に面するシリア政府支配地でも発生した。

イスラエル軍は占領下ゴラン高原からその北方に位置するダマスカス郊外県のバイト・ジン村の農場地帯を砲撃、砲弾複数発が同地に着弾した。

バイト・ジン村一帯地域は、ヒズブッラーの精鋭部隊の戦闘員数百人が展開しているとされる場所。イスラエル軍の砲撃に対して、シリア領内からイスラエル占領下のゴラン高原に向けてロケット弾が発射され、1発が着弾した。砲撃がヒズブッラーによるものなのか、シリアの民兵、あるいは軍によるものかは不明。

この砲撃に対して、シリア領内に展開するヒズブッラーが占領下ゴラン高原内のケシェット入植地方面にロケット弾1発を撃ち込んだ。ロケット弾は空き地に着弾したが、イスラエル軍は報復として、兵力引き離し地帯内に位置するクナイトラ県ラフィード町近郊の灌木地帯に対しても砲撃を行った。

今般の武力衝突を、イスラエルとハマースの衝突、あるいはイスラエルによるガザ地区の住民への蹂躙として限定的に捉えることで、捨象されてしまう紛争が、イスラエル、米国、レバノン、シリア、イラク、イエメンによって繰り広げられているのである。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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